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1章5話:テルしかいない


▌// [LOG] 2018-12-26 17:25 JST

 冬


 一睡も眠れずに夜が明けた。

 僕はスマホを何度も見ては、〈ことつて〉の画面をなぞっている。

 じっとしていられずに部屋を出て、水を飲んだ。

 キッチンに父親が九州で買ったらしい土産が置いてあった。

 こういうのさ、仏壇にまず上げるんだよ。何年大人やってんだよ。

 僕は土産の袋を持って仏間に行き、リンや数珠がある横にクッキー箱を置いた。

 

 2日後、学校の保護者会役員だった父が学校へ行った。

 そのときまで僕は父が役員だと知らなかった。入学式に聞いた気もしたが忘れていたのだ。

 その父が帰ってきて、僕に言った。


「おまえ、真井くんからスマホがないって話を聞いてたらしいな?」

 詰問口調に僕は一瞬怒りを覚えた。

 息子がどんな気持ちでいるかも考えずに、こいつはマジ父親なんか?

 両親は忙しかったせいで、僕は祖父母に育てられたようなものだった。スイミングスクールだって、祖父母が送迎したから続けられた。

 父親面して学校に行くなよ。

 僕は何度か胸を膨らませて上下させた。

「それがなんだよ」

「いやな、ご遺族が返却物にスマホがないとおっしゃって、皆で探したんだが見つからなくてな。学校側が警察にも届けたが、スマホを失くした話、教えてほしいそうだ」

「……ああ、そういうこと」

 担任たちは警察と僕に話を聞いたとき、スマホのことは聞き返さなかった。部屋のどこかにあるだろうと思っていたのだろう。

 ところが今の僕の気持ちに配慮して、父に聞いてくれるよう頼んだというわけだ。


 僕は何度もログを見ているから一字一句正確に覚えている。

 いつから手元になかったか訊ねた僕に、『昨夜のお風呂の後かも』と照は答えた。

 ログを遡ると、タイムスタンプは『2018-12-24 19:10』。すなわち昨夜とは23日の夜のことだ。寮の風呂に入ってその後スマホがないことに気づいたんだ。だが気づいたのがそのときだったというだけの話だ。


 照はスマホよりMacが大事な高校生だ。

 それに、通学組はスマホがないと死ぬほど移動時間を持て余すが、照が持ち歩くならMacだ。

 といっても、授業のPCはWindowsなんだが。


 スマホの位置情報とれるように──はしてないか。照の場合、Macは追跡できるようにしてあるんだろうな。


 しかしスマホを失くすもんかな?

 そんなことあるのかと僕は疑問が過ったが、何日も眠れない頭はズキズキ疼いて、うまく思考できなかった。


 父が重大なことを言った。

「真井くんは窓枠から身を乗り出した痕跡があったらしい」

「え」

「通常つかないような場所に指紋があったそうだ。ひょっとして窓枠にスマホを落としたのかな……」

「窓枠にだって? どうやって落とすんだよ。それにそこで落としたんなら、下の溝とかにあるはずだろ」


 僕はそれ以上父とは話をしなかった。

 父だけじゃない。聡司とも真凜とも照の話はしなかった。

 話すなら、テルだ。

 テルしかいない。





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