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1章4話:ことつて、はじめました


▌// [LOG] 2018-04-23 16:30 JST


 新入生のための部活動見学期間が始まると、聡司は憧れの弓道部へ向かい、短期留学のために白耶麻に来た真凜も、英文劇クラブへ見学に行った。

 クラブは活動が比較的軽く、放課後が毎日ではないところが多い。

 僕は最初からプログラミング部に決めていた。

 水泳しかやってこなかった僕だが、全国にあとひと掻き届かなかった。推薦も来たが、高校では新しいことをすると決めていた。


 プログラミング部は、図書室の隣にあるパソコン室を根城にしている。

 パソコンオタクの誰が学校のPCなんて使うんだと思ったが、セキュリティか。あと、マシンスペックがいいらしい。


 パソコン室は内部で分かれていて、奥の狭い部屋がプログラミング部だった。

 学校が力を入れているというだけあって、設備がいい。壁全面がホワイトボードで、落書きし放題だ。

 あらかじめ自前ノートパソコン持ち込みオーケーと聞いていたので、PCバッグを持って入った。


 四角いテーブルに新入生たちが座っている。モニターに向かう生徒が数人いたが、一人は耳にイヤフォン差してエディタにコードを書き書き、一人は肘をついてモニターを見つめている。黙々と向かう感じだ。これやったら家でやっても同じやぞ?


 新3年女子の湯島が、自分が部長だと名乗った。まん丸の丸眼鏡をかけて、アニメキャラと思しき柄で、スマホケースをデコっている。

 湯島からQRコードを渡された。

「うちの部で作った見学者アンケートボットとつながります。紙がいいなら用紙渡すよ」


 僕はQRコードを読み取って追加し、ボットの挨拶を受けた。


『こんにちは。白耶麻高校プログラミング部ボットです。アンケートに答えてね』


 アンケート内容はパソコンの経歴についてだ。

 プログラミングをしたことがあるか。教室に行ったことはあるか。自分でアプリを作ったことがあるか。作ろうとしたことはあるか。どの言語に興味があるかなどだ。


 湯島が僕の隣に来た。

「すごいでしょう? 途中入部の子が作ったんだよ」

 数ヶ月くらいで作れたのが自慢らしい。

 すげえのか? 選択肢を選んで進むだけやぞ……すごさが一個もわかんねえ。

 僕が首を傾げたせいで、湯島が苦笑した。

「わかんないってことは、知識ゼロか」

「はあ、すんません」

 と僕が気の抜けた声で応えていると、また生徒が入って来た。

 部員か新入生かと振り返ったら、ネクタイを失くした真井照だった。

 僕らは同時に顔を見て、これまた同時に「あ」と反応した。


 次いで照がハッと胸を押さえた。

 そこにあるネクタイはたぶん、まだ僕のやな。

 僕はネクタイは二本購入していたから困らなかったが、照は今気づいたっぽい?

 急いで最後の質問に応えた。


『この部で何をしたいですか? 作りたいアプリなどあったら教えてね』


 最後は選択肢でなく入力するようだ。少し真面目に応えておくか。真井照と同じ部活になるかもしれないし。


 ――中学まで水泳をしていましたが、高校ではプログラミングをやるつもりです。気持ちをresetして頑張ります。何が作りたいかはこれから考えます


 紙飛行機マークをタップして送信。

 するとローディングに時間がかかったようになった。

 よし送れたと思ったら、

『こんにちは。白耶麻高校プログラミング部ボットです。アンケートに答えてね』

「え? なんだ?」

 またアンケートの依頼が出た。スクロールするが、僕が回答した画面がない。

 僕の様子を見ていたのか、照がタタタと僕に駆け寄った。


「な、何してる?」

「新入生のアンケートに回答したんだけどさ、消えたんだよ。回答が全部」

 他の新入生に声をかけていた湯島が、「ほんま?」と振り返ってきた。

「ほんまほんま」

 僕らは訛り丸出しで応酬した。

 照が「な、なに?」と僕の顔を見る。

「ほんとうですって言ったんだ」

「ふぅん」

 と言って、照はもう方言から興味を失った顔だった。というより理解したからもういいみたいだ。「で?」と、消えた回答の話を促すので、僕は何をしたか話した。

 湯島は軽く唸ったが、照が言った。

「リ、リセットが、部分一致で拾われた、か、可能性と、認証がない」

「リセットがなんだ? 使っちゃいけない言葉なんてあんのか?」

 言いながら僕はびっくりした。


「ねえ、英単語で入れた?」

 湯島が勢いよく訊ねてくる。

 英単語を入れた覚えはないが、ハッとなった。『りせっと』と平仮名で打つ途中で、予測変換の『reset』になる。

「でもだからなんだ?」

 僕は首を傾げ、湯島が乾いた声で言った。

「うちらのミス。ちゃんと処理せんかったわ」


 照が言う。

「さ、サニタイズするか、セッションで持てばいい」

「勉強のために作ってもらったの。今のところ全部答えたら保存するって設計でね。リセットは初歩ミス。でも、認証かあ、大事だね。うん」

 と、湯島が話しているうちに、照は背を向けて壁際のパソコンへ向かった。


 へ?

 僕と湯島は目が点になった。

 マイペースだなぁ、あいつ。


 照のところへ近寄って、隣の空いている椅子に座った。

「真井」

「……照でいい」

 と返されて、僕は喉の奥で笑った。

「わかった。僕は拓人だ。タクとかたっちゃんとかいろいろあるけど」

 照は僕をじっと見た後で頷いた。そういえば入学式の日もこんなふうに見られた気がする。人の顔をじっと見るの、クセなんかな?


「あ、ネクタイ」

「いいよ。やる。どうせ見つかんなかったんだろ?」

 僕の、どうせ、が気に入らないのか、照はむすっとした。

「じゃ……何か」

「だったら学食でメシおごって。焼きそば好きなんだ」

 学食の焼きそばは何と500円ぽっきり。

 照は何か重大な約束でもしたかのように、真剣な眼差しで頷いた。



 僕らが〈ことつて〉トークをするようになったのは、この日からだった。

 部室を出るときに照も一緒に出て、LINEを使っていないというのでメアドを交換した。

 照は夜にメール送ると言って寮に戻り、僕は急いで白耶麻高校前駅へ走った。

 夜届いたメールで、僕は彼が自分でメッセージツール〈ことつて〉を作ったことや、まだ完成ではなくて、インストール版に移行する前段階だということも知った。


 照は僕の登録を待っていた。

 トーク画面が開いて、『登録したぞ~』とメッセージを送ると、一分も待たずに『確認した』と返事があった。

 アイコンは照が『照』、僕は『拓』になった。

 それから一時間近く、二人でチャットした。


拓『こんばんは初めまして、伊織拓人です(笑)』

照『笑うところ?』

拓『こんなの作るやつ初めてみたし、照すげえな』

照『オレは周りにけっこういた。幼稚園のころからキャンプあったし、ゲームもプレイするよりプロダクトしてた』

 キャンプってあれか、プログラミング教室主催の。

拓『僕は完全プレイヤー。地元でイチゴジャムの教室があって、父親に連れて行かれたけど、今ひとつ楽しめんかった。あとキャンプで思い出した。うち超ど田舎でさ、裏山に段ボールで基地作ったけど、虫がびっしり埋め尽くしてて、超キモい。虫がダメになった』

照『カメムシ? びっくりした。臭い。アレ見て、東京戻ろうかと思った。アレヤバい、マジダメ、絶滅してほしい!!』

 へえ、よくしゃべるな。昼間とぜんぜん違う。

〈ことつて〉の照は饒舌で、これがこいつの本性かとニヤニヤした。


拓『なんで白耶麻に来たんだ?』


 質問が直球過ぎたか。照が答えるまで間があった。


照『コタエナイ』

拓『え?』

 とっさに声が出て、そう打ち返した。

照『変換ミス』

拓『どんな変換ミスだよ』

照『どんな変換ミスだと思う?』

拓『ハイそれ面倒くせえ女子』

照『そうなんだ。女子限定なんだ』

 一度短いのが来て、次に長文きた。

照『答えない、答えられない、答えたくない、応の字の応えないもあるね。オレ、なにいおうとしたんだろう? あ、これ、きみに聞くと面倒くせえ女子になるね』


 変換がカタカナになったのか、脱字したから変換に失敗したのか。両方あんのかよムズい。質問がナイーヴだったから、突っ込めねえ。


拓『答えんでいいよ。興味本位』

照『GSには外部公開できるサービスを一本作るというような実践的カリキュラムがあって。それが面白いと思った。学校がVPS契約をしてくれて、生徒がSSHで実際のサーバーに入れるんだ。普通の学校だとまだローカルかなって。オレ個人でサーバー契約してるけど、いろんな環境で試すのありと思う』


 ん、僕には腑に落ちるような落ちんような理由だった。

 もう外部公開するサービス作れてるよな? 〈ことつて〉がそうだろ?

 静かに打ち込める環境がほしかったってことだな。思春期さんだ。いろいろある。



 GW明け、正式にプログラミング部員になった。周りからIT部と言われる。だったらIT部でよくないかと思うが、IT倶楽部があった。ややこしわ。

 プログラミング部の照はアドバイザーの立ち位置になった。先輩が教えられることは何一つなかったのだ。部室には一週間に一度顔を出すだけ。エンジニアの外部指導者と話すためだけに来る。

 と言っても照はPCに向かっているだけで、指導者とはチャットしている。ときどきホワイトボードの前でフローを書いて、助言を受ける。それを3年たちが周りで聞いて必死にノートを取るという。外部指導者が「へえ」「ほぅ」と照に感嘆する度に、僕はなぜか誇らしげになりながら、基礎で四苦八苦していた。


 そんなふうにして6月になり、重く鬱陶しい雨が降り続く梅雨に入った。

 雨うぜえとつぶやきながら廊下を歩いていると、GSの女子生徒に声をかけられた。


「伊織くんって、真井照と話すの?」

 廊下ですれ違いざまに聞かれた。名前も知らない女子たちだ。

「まあ」

「へぇ……」

 それだけ言って、向こうは行ってしまった。

 なんだよあれ。クラスメイトをフルネーム呼び捨てかよ。


 ――ひょっとして照のやつ、浮いてるんか?




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