2章2話:決まりだ
▌// [LOG] 2019-01-17 18:50 JST
拓『ゴメン』
テル『何のこと? いきなり謝られた理由がわからないよ』
拓『僕がアホでゴメン』
テル『ちゃんと話してくれる?』
そこはコタエナイじゃないのかよ。
前よりテルが、照っぽく感じる。
――テルが、変わった気がする。
拓『新しい課題でつまずいてて』
テル『つまずいている。内容によっては教えてあげられるよ』
そうかよ。
教えてくれんのかよ。
「おまえ死んだんだよ」
僕は呟いてから、泣きたくなってきた。
なんで謝ったんだろう。
照はもういないのに、どうしてゴメンて言わずにはいられなかったんだろう。
テルにゴメンなんて言っても、照にはもう伝わらないのに。
アホな僕は……
何を期待してんだろうな。
3学期が始まってから僕を悩ませたのは、照の噂でも真井照と親しかった友人という奇異な視線でもなかった。
駅近くの橋を渡るとき、雪化粧の並木に囲われたグラウンドに体操服で立つとき、授業中にふと窓の外を眺めたとき、同じ制服を着た高校生たちとすれ違うとき、笑い声が響く電車の中で、町の中で信号を待つ交差点で、スマホ画面を見て俯く人たちの姿を眺め、自分も〈ことつて〉するためにスマホを取り出すとき、胸の中をよぎるのは、照がいないという思いだった。
ふいに思い知ったのだ。
照の死から今日まで、僕は人生最悪の時間を過ごしてきたが、世の中はいつもどおり、当たり前の日常が流れていた。
ぼたん雪が覆う学校の光景を眺めながら、僕はわからんくなる。
照が死んで、
悲しいんか。
寂しいんか。
つらいんか。
苦しいんか。
泣きたいんか。
悲しいというなら、なぜ悲しみが僕の日常を破壊しないのか。寂しいというならなぜ笑えることがあるのか。つらいというならなぜ立ち止まらないのか。苦しいというならなぜ病院へ行かないのか。泣きたいというならなぜ泣かないのか。
学校に来て、授業に出て、課題をこなし、校舎の片隅で〈ことつて〉する。
家にいると両親の粗を探し、小学生相手に八つ当たりしないように我慢する。
そしてまた寝る前に〈ことつて〉する。以前の自分と何も変わらない。メシを残したり眠れなかったりしても、日々はそこにあって自分もそこにいる。
イナイノハ照ダケダ。
▌// [LOG] 2019-02-09 12:35 JST
職員室前の廊下を歩いていると、桐村とすれ違った。昼休みで、僕は係の仕事で職員室に向かうところだった。
桐村は大量のプリントを抱えて、コピー機室から出て来たところだった。久しぶりに見かける顔だったが、彼は僕の姿を見るなり飛び上がるようにして驚いた。
まるで幽霊でも見たような反応や。
桐村の手からプリントの一部が滑り落ちて床に散乱した。
僕は歩み寄って、床に散らばったプリントを拾った。
「ほら」
「大丈夫だから」
桐村の態度がよそよそしく感じられた。
桐村の存在が、僕の中で一気に膨らんだ。
あの朝、イチバンに連絡をくれたのはこいつだ。
「おまえだよな? 照を発見したのって」
桐村に詰め寄ると、一瞬、思いつめたような顔になった。
が、答えは完全拒否、脱兎のごとく逃げ出した。
「おい!」
思わず追いかけた僕だが、教師に遮られた。
「何やってんだ」
と僕の前に立ちはだかったのは、寮監でもある浅尾だった。
授業でも接点のない教師だった。
浅尾は僕を軽く睨むと、
「寮生に絡むな」
と一言凄んで、顎をしゃくった。
決まりだ。
僕は踵を返すと、うっすら笑った。




