第8話:「責任の重さ」
自警団の詰所は、元は倉庫だった。
机と椅子が増えただけだ。
アデルが帳簿を睨んでいる。
「巡回報告は必ず書け」
若者がぼやく。
「そこまでいるか?」
「いる」
迷いがない。
俺は壁にもたれている。
「記録がなければ、判断は残らない」
誰に教わった。
いや、違う。
自分で掴み始めている。
夜、別件の報告が入る。
郊外で揉め事。
農民同士の水利争い。
兵は動いていない。
アデルが言う。
「行く」
現場は険悪だった。
水路の土嚢が崩されている。
片方が叫ぶ。
「先に流したのは向こうだ!」
もう片方。
「証拠はある!」
怒鳴り合い。
アデルが間に入る。
「順に話せ」
声は通る。
両者の言い分を聞く。
途中で若者の一人が言う。
「壊した方に罰を」
アデルは首を振る。
「証拠が曖昧だ」
「だが、被害は出てる」
「だからこそ慎重にやる」
慎重。
俺は見ている。
話は長引いた。
最終的に、水路は共同管理にすることで決着する。
どちらも完全には納得していない。
だが、刃は抜かれなかった。
帰り道。
若者が言う。
「時間をかけすぎだ」
アデルが答える。
「時間をかけるのも責任だ」
その言葉に、重みが出始めている。
俺を見る。
「どうだった」
少し考える。
「折れなかった」
アデルは頷く。
「守れたか」
答えない。
守ったのか。
均しただけか。
帝都の灯りが遠くに見える。
強いものは、硬くなる。
だが、硬さは今のところ、秩序を作っている。
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