第3話:「呼ばれた名」
王城の廊下は冷えている。
石は足音を返さない。
扉が開く。
「遅れてすまない」
女の声。
落ち着いている。
無駄がない。
第1王子が顔を上げる。
「来たか。――エリシア・ヴァルクレイン」
その名が、空気に落ちる。
彼女は一礼する。
「状況は把握しています」
書類を机に置く。
視線は揺れない。
第1王子が言う。
「市場の件だ」
彼女は即座に答える。
「兵の動きは早い。ただ、圧が強い」
第2王子が口を挟む。
「圧は火種になる」
彼女は視線だけを向ける。
「火種は、早く踏むべきです」
どちらも理屈だ。
「自警団についてはどう見る」
第1王子。
「認可するなら監視網を。
独立させれば、思想を持ちます」
事実だ。
彼女の視線がこちらに来る。
「あなたが盾役ですね」
……。
「そうだ」
声が、わずかに遅れた。
彼女は気に留めない。
「制御できますか」
「できればな」
「できなければ?」
「止める」
短いやり取り。
彼女は頷く。
「合理的です」
合理的。
その言葉が、少しだけ残る。
会議は続く。
彼女は感情を挟まない。
必要なことだけを言う。
カイルが小声で言う。
「優秀だな」
俺は答えない。
会議が終わる。
廊下に出る。
石の壁は、何も覚えていない。
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