第1話:「静かな帝都」
帝都は、思っていたより静かだった。
値札は高い。
だが棚は空じゃない。
怒号はない。
だが笑い声も少ない。
崩れてはいない。
張っている。
そんな空気だった。
「暴動が起きるって聞いてたんだけどな」
若い兵士が言う。
商人が鼻を鳴らす。
「起きねぇよ。パンはある」
確かにある。
だが量は減っている。
人はそれを見ている。
口には出さない。
広場で若者たちが輪を作っていた。
「自分たちで見回りをしよう」
「王都の兵だけに任せるな」
「自警団だ」
熱はある。
憎悪はまだない。
カイルが言う。
「悪くないと思う」
俺は答えない。
掲示板に布告が貼られる。
“臨時物価調整策”
第1王子の署名。
紙の端が、わずかに震えている。
その上に、別の紙が重なる。
“市民自律支援制度の設立”
第2王子の署名。
方向は違う。
衝突はしていない。
今は。
市場の端で声が上がった。
「昨日より高ぇじゃねぇか!」
男が商人の胸倉を掴む。
周囲が凍る。
兵士が動く。
槍の石突が地面を打つ。
音が、強すぎる。
男の肩が跳ねる。
商人の目が怯える。
あと半歩で、刃が抜かれる。
若者の一人が間に入った。
「待て。話を聞け」
兵士を見る。
「剣を抜くな」
兵士は一瞬迷う。
周囲の視線が集まる。
沈黙。
やがて、槍が下がる。
男は手を離す。
商人は深く息を吐く。
誰も勝っていない。
誰も負けていない。
だが、線は引かれた。
カイルが小さく言う。
「……危なかったな」
危なかった。
ほんの少し、力が強ければ。
ほんの少し、声が荒ければ。
ほんの少し、判断が遅ければ。
帝都は、壊れていた。
鐘が鳴る。
いつもと同じ音だ。
俺は空を見上げる。
曇っている。
正しいことをしている顔が、広場には多い。
それが、少し怖かった。
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