五月編6 焼き肉屋で分析
気を遣って私が全額出すと言ったら生徒会長の椿が『食事代くらい自分で出す』と猛反発した。
彼女の反応を見て私は良かれと思って言ったことが相手のプライドを傷つける場合があるのだと反省した。
だから皆出し合い、割り勘で代金を支払うことになった。
それで私たちは食べ放題の焼き肉チェーン店に入って代金を支払いテーブルに着いた。私と娘の蘭は対面式の後部座席。会長と御門少年は前方の椅子に座らせた。
「それでは各自好きな物を」
そう言って私は柚の手を握って席を立った。当然この店はセルフ式だから自分で選んで皿に盛るやり方。
特に肉を先に焼くとかのルールはないから食べた物を選ぶ。だからそこで各自の個性が出てくるので、ついでに二人を攻略する上で参考にさせてもらう。
「蘭は何が食べたい?」
私が聞くと蘭は顔をあげポカンと口を開けた。うん、急に聞かれても分からないか。
「プリン食べたい」
だろうね。蘭みたいな小さな子は肉より甘味が大好きなんだ。それで元は取ろうとせずに好きなのを食べたら良いんだよ。
「プリンならスイーツコーナーに行こう」
「うんっ」
蘭にトングと皿を持たせ自分で選ばせた。それでプリンは何個までと聞いたから私は、何個でも良いけどあとの人のことも考えるて全部は駄目だよと教育した。
そして蘭は楽しそうにプリン二個と三種のミニケーキとコーンサラダとスープを選んだ。
私は中身がおっさんだと会長に悟られない様に慎重にチョイスした。特にレバーなんかしょっぱなから選んだら突っ込まれるのが目に見えてるから……
席に戻ると会長が私の皿を覗き見した。
「ふうん、牛カルビにソーセージに豚ロース。で、ご飯に鳥から揚げとサラダか、普通ね」
何だかちょっと不愉快。
「……そう言う会長は何を選びましたの?」
「あたしは肉よ。焼き肉屋に入ったなら肉を食べなきゃ」
会長は自信気に肉が盛った皿を見せてきた。皿の上にはこんもりと盛られた牛カルビ一点盛りの山。
なるほど……彼女はとにかく好きを優先し楽しむ性格なんだな。
一方御門少年はサラダをチョイスした。野菜を最初に食べることに寄って胃もたれを防ぎ沢山肉を食べる戦法。
その他に彼が選んだのが、食欲を増進させるパインと口直し用のヨーグルトとあっさり味の牛タンを選んだことから慎重派に違いない。
しかし慎重派は失敗を恐れていつまでも行動に移せず、やらずに終わる可能性がある。
だから恋だってなおさら慎重になるだろう。だけど、それだと困るのは我々人類だ。恐らく恋に臆病な彼を突き動かすには私の誘導にかかっているな。
今回思いつきで二人を焼き肉に誘い。最初に選んだ皿の内容を見てある程度の性格を分析出来た。
今日はこれだけでも充分収穫だったと言えよう。
「ちょっと副会長」
「んっ何だ会長……」
「何だじゃないわよ。さっきから突っ立ってあたしを観察して一体どう言う訳?」
「えっと……」
会長から不意に声をかけられたから素で答えてしまった。しかも観察まで気づくなんて油断ならない。
しかし、ここは誤魔化そう。
「ふふっ会長っ肉盛り過ぎじゃないの?」
「何よ。別に一人で食べるつもりで山盛りにしたんじゃない。皆んなで食べるためよ」
「あらそうだったの私はてっきり……」
顎に右手を当てて品のある嫌味を言った。うむ、そこら辺の上品な少女の仕草は、長年楽しんだアニメや漫画おかげで即興で演技出来た。
「それより副会長のセンスも大概よね?」
「えっ……そうですか……」
会長に言われ自分が盛ってきた皿に見下ろした。それで改めて見ると私が盛った皿の内容は、焼き肉食べ放題において悪手と呼ばれるチョイスだった。
たこ焼き、パスタ、カレーライスに餃子と胃袋が膨れる炭水化物のオンパレードだった。
「いやつい好きな物を選んでしまいました」
「へ〜だったら副会長も人のこと言えないわね?」
会長は腰を屈め勝ち誇った顔で私に指差した。
「……で、ですわね。と、とにかく食べましょう……」
動揺を隠し切れない私は座った。すると会長がジロジロ私を観察していた。
「ふ〜ん、勝った」
何がだよっ!
「ところでさぁ副会長と妹さん髪の色が違うけどもしかしてハーフ?」
「!!」
不意打ちで質問する会長に私は焦った。確かに黒髪の胸と銀髪の私を見比べたら疑問に思うな。
聞かれて気づいたけど髪の色違いについての言い訳を考えていなかった。だけど会長からヒントを言ってくれた。
「おっしゃる通り私の母親は外国人で父親が日本人。それで私は母親寄りで妹が父親寄りよ」
母親の国籍については嘘がバレるから言わなかった。だって、仮にフランス人設定にしたら、会長ならフランス語話してみてよと試してくる筈なんだ。
だからはっきり言わなかった。
「ふ〜ん……気になるわね。今度お母さんと会わせてよ」
ちょっと待て!何故君に母親を紹介しなくちゃいけないんだ? とにかくやっぱり試してきた。本当に油断ならない。
「ごめんなさい。母親は数年前に亡くなりました……」
私は隣に座る蘭に聞かれない様にそっと話した。だってそれ聞いたら蘭はママが亡くなった記憶を思い出して大泣きするからだ。
そう言う訳で外国人設定は嘘だけど、私の妻が先に亡くなったのは真実だ。
「副会長ごめんね。不謹慎なこと聞いて」
反省した会長は手を合わせて謝罪した。別に良いけど私の銀髪の違和感はハーフ設定で解消されたと思う。
「皆さん残り10分ですが?」
「もうお腹一杯よ」
「僕も食えません」
私が聞くと皆満腹みたい。そう、食い放題は最後の方になると苦しくて後悔する。
そんな訳で制限時間まで楽しい食事を終わらせ一堂解散となったなった。
「ではお先に」
全く良いところを見せなかった御門少年は一人親睦会用のお菓子とジュースを預かり帰った。その彼の背中を見つめる私に会長が振り向いた。
「ねぇ、貴女が生徒会に入る条件が御門君も一緒ってどうしてなの?」
「えっ!」
「えじゃないわよ。あたしからアンタをスカウトして生徒会に入る条件があの子と一緒って不思議に思ってたのよ。やっぱり彼のことが好きだから?」
「はっ? そんな訳ないでしょ」
私は手を横に振って否定した。だけど本当、急に質問してくるから困る。
「好きじゃないなら何でよ?」
「……そ、それは……」
答えの矛盾を鋭く突いて聞くから厄介な少女だ。とにかく上手い言い訳を考えないと疑われる。
やばいやばいっ急にだから良い案が思い浮かばない。
「まぁ別に良いわよ。優秀なアンタが選ぶくらいだから御門君って実はとっても優秀何でしょ?」
「……う、うん。何となく彼には秘められた力を感じて……」
く、苦しい言い訳だ。だが彼女の予想に乗っかろう。
「やっぱり、いつも冴えないけど彼には秘められた力があるのね……」
言えないけど人類の命運は会長と御門少年にかかっているから、ある意味正解だよ。
うんうんと唸り一人納得する会長。それで何とか誤魔化すことが出来て彼女と別れた。
「さて、帰るか蘭?」
「うんっパパ帰ろっ!」
私は蘭の小さな手を握って帰りは駅に向かった。