【古代語り】御用達
「すみません、もう一回言ってもらって良いですか?」
宴会と化したセンチャパーティを終え、起き抜けにスカーナから告げられた言葉にルームは耳を疑っていた。新人になったとはいえ【古代語り】の公演のスパンはかなり長い,最短でも次の公演まで5~10年くらいの間は空く。しばらくは会うこともないと思っていた矢先にスカーナはこう言ったのだ。
「あの、ルームの苗床亭を【古代語り】の拠点にしようっていう話になりました。あんまり迷惑をかけないので、部屋を貸してもらっても良いですか?」
当然寝耳に水であるので、ルームは冒頭のように聞き返したのだ。
「え、なんででですか。僕のところはそんなに立派な場所じゃ」
「場所が立派かどうかはあんまり関係なくて、今回ちょっと派手に動いたから今までの場所に居にくくなっちゃって」
「それは……僕のせいですね」
スカーナの目が泳いでいる、なにかやましいことがあるようだ。しかし、ルームに非があるのであえてそれを追究することはなかった。例えば【古代語り】を脅かせる存在なんてそうそう居ないとか、そこまで強ければどこに居ても懸念はないだろうとか。
「(プロトちゃんに言われたとおりにしましたけど、ルームを困らせるのはやっぱり心が痛みますね……、でも場所を変えたいと思っていたのは本当ですし。良い機会ですし、乗っかっても良いでしょう)」
本当のところは、別に移動しなくても良かったのだ。しかし、折角というのでゴリ押ししたプロトが勝利を収めた形になる。
「でも良いんですか? 僕の所には教戒所属の部隊も逗留するんですけど」
教戒の勢力が神話に関わる存在をどうするかについて流石に予想がつかない、しかもウォーカー達の上司はあのアンサである。アンケというストッパーでどうにかできる可能性があるとは言え、あの魔女の行動を予測するのは難しい。
「教戒ですか、いざとなれば知り合いもいますので」
「知り合い……というと?」
「そうですね。とりあえず龍ですとだけ」
「そ、そうですか」
教戒に顔の利く龍となると、それはもうほぼ答えを言っているようなものである。それ即ち【聖龍】に他ならない。【骸龍】の永遠のライバルと言われているが、実際にはそうでもないようだ。そんな事実を知ってしまったルームはまたもや冷や汗を掻くことになった。
「それで、どうでしょうか?」
「いえ、別に良いんですが。そんなにおもてなしはできないかと、なにぶん儲かっていないので」
これは事実である。もともと儲けをだそうとしてはいないこともあるが、人里離れた宿でもあるので当然とも言える。
「うーん、そうですねえ。これくらいあれば当面なんとかなりますか? 最近の貨幣価値には疎いので申し訳ないんですけど。今回の報酬も込みで」
スカーナの指パッチンによって空間が歪み、そしてえげつない大きさの金塊が目の前に落下した。金とは貨幣の価値を保証する存在であり、その価値はもはや不動である。
「こ、これ。金ですか」
「厳密に言えば違います。私の昔の寝床にしまっていたものなのですが、私の力に侵食されて変質してしまって」
「龍紋金……!?」
「あ、価値がなかったですか……?」
「い、いえいえいえいえいえ、こんなの王室が独占するレベルの貴重な金属ですよ!!」
もともと数の少ない金、しかももっと少ない龍の力に当てられたものとなればもはや価値が付けられないと言っても良い。龍の鱗が浮いたような模様の入った金であるのだが、それはかの木目鋼をも凌駕する性能を持つ。
「それは良かった、これならまあ、湖1個ぶんくらいは楽にあるので欲しくなったらまた言ってください」
「湖……1個……」
もはや空いた口が塞がらない、それが露見しただけで無謀と分かっていても【骸龍】の討伐を計画をする国・組織があっても何もおかしくない、返り討ちに遭うのは明らかだが。
「はは、大事に使います」
取り扱いには最新の注意をしなければならないので、ルームはとりあえず【白箱】に収納することにした。
「それで、お返事は……?」
「分かり、ました。【古代語り】の皆さんに苗床亭の部屋をお貸しします。一応聞くんですけど期間はどれくらいですか」
「そうですね、100年くらいは」
古代生物の尺度を見せつけられた、100年をバカンス程度に考えている。
「はは、100年ですか。僕の苗床亭がそこまで続いていれば良いんですが」
「どうしてですか? 続かないことがあるんですか?」
「いえ、僕が死ぬかもしれませんし。経営が傾いて畳むかも」
「ないです、そんなことはないです」
「何があるか分からないですから」
「いいえ、ないです。ルームがたかが100年で死ぬことも、苗床亭が潰れることもありません。これは【古代語り】の決定です」
何故か一気に瞳からハイライトが消えたスカーナがルームとの距離を詰める、全てを吸い込むような瞳がじっとルームを見つめている。
「えっと、それはどういう……?」
「どうも、こうも、ないのです。そういう風に決定された、それだけが事実、それだけを知っていれば大丈夫。【古代語り】は待望の新人をそう簡単に手放したりしませんよ」
「スカーナ、さん?」
「うふふふふふ……逃がしませんからぁ」
「(あれぇ? 早まったかな?)」
【古代語り】のメンバーになったことがどんな意味を持つのか、それを改めて考えるとますます人間を止めるはめになるのかなと要約思い始めたルームである。
「ま、スカーナに見つかったのが運の尽きなのよ。あんまり暴走しないように私様も頑張るからよろしくね」
「引っ越しだか? 次はどんな場所だべ」
「もっちゃんもお手伝いとかするから、【古代語り】の方もよろしくね」
「よ、ろしく、お願いします」
いつの間にか【古代語り】の面々に囲まれている、もう既に逃げ場はない事をルームは悟ったのだった。こうして苗床亭に【古代語り】が向こう100年泊まることが確定した。
これにて【古代語り】編が終了となります、次は100話記念ということでいくつか考えていることがあります。
①バカンス編、ヒロインと砂糖を吐くほどイチャイチャするよ
②三核卿のギスギス会議、裏情報もあるよ
③アンケ先生の世界観授業 書いてない設定が山ほどあるよ
以上3つのうちどれかをやろうと思っています。できれば読者の皆様が読みたいものを書きたいと思っていますので感想などでリクエストをしていただければと思います。




