カワイイを詰め込まれる男
「その話……詳しくきかせてもらえるかしら」
「1枚噛ませていただくでありんす」
一瞬で出てきたヨツヤとヴァンシイ、ルームが女装するという事実に本人達も予想していなかったほどの興奮を感じていた。
「ひっ……知らない人……!?」
対するスカーナはいきない出てきた初対面の存在に困惑している、ルームが何かと共生関係にあることは知っていたがまさかこのような2人が出てくるとは思っていなかったのだ。ルームは何とか慣れてきたため大丈夫だがいきなり人が増えたことに頭がついていかない。そこで取った行動は知り合いの影に隠れるという龍にあるまじき小動物的なものである。
「えと、僕の仲間なのでそこまで警戒しなくても」
「警戒とか、そういうのじゃなくて、緊張するので、こっち見ないで欲しいと伝えてくれますか……」
ひたすらに地面をみながらぼそぼそと話す様子にコミュニケーションを取れる可能性は感じられない、本当に無理そうである。
「分かりました、ヨツヤ、ヴァンシイ、目をそらしてもらえる?」
最強格の存在のあまりのコミュ障ぶりに、2人も面食らっていたがそういうこともあるかと納得し視線を外した。それ以前にルーム的にはなんで女装に反応したのか問い詰めたい気分であったが、話が余計にこじれるので止めた。
「これで良いかしら」
「目線を下げて人と話すのはやりにくいでありんすな」
「す、すみませぇん。慣れないと、ダメ、なので、お願い、します」
ルームの袖を掴んでぷるぷると震えている、本当に初対面の存在が怖いらしくルームやヨツヤから見ても嘘は感じられない。
「それで、宿主の女装の話なのだけれど。それに協力させてもらえないかしら」
「旦那さんの女形の可能性に気づかなかったのは本当に口惜しいでありんす、化粧をさせてくれれば今すぐにでも太夫を取れるというもの」
冷静を装っているが興奮で胞子を放出気味のヴァンシイに、息をしていないのに鼻息が荒いヨツヤであった。その圧にスカーナがまた一段階身を引く。
「ひっ、ありがたい、んですけど、お化粧とか、衣装は、プロトちゃんに任せてて、私の一存だけで決められないというか」
プロトに内蔵されているトンデモ機能108式のうちの1つ、超高速ミシンと化粧品精製でもって【古代語り】の衣装とメイクは賄われている。そんな機能がなんであるか、という質問に対してはこう返す他ない。超高速ミシンで使われる動きで敵を刺せば瞬く間に蜂の巣になり、化粧品精製とはつまるところ化学薬品の精製だと。兵器も使いようなのである。
「私様を呼んだかしら!!」
扉を破壊するほどの勢いでプロトが飛び込んでくる、扉の前で耳を澄ませていたのではないかと思うほどのタイミングである。実際振動を拾う機能を最大限に使用した聞き耳を立てていたので、盗み聞きしていたと言っても相違ない。
「話は聞かせてもらったわ!! 私様に!! 服と化粧で勝負を挑みたいんですって!!」
「違うわ、あくまで協力よ」
「争うつもりはないでありんす」
「え?」
自信満々で勝負をしにきたプロトの表情が固まる、すると途端にしょぼんとした空気をまとって俯いた。
「そ、そうでしょう、そうでしょう。私様に敵うはずもないですものね、でも、その、1回くらい勝負の場に立っても良いというか、なんというか」
「プロトちゃん、そういうところだよ面倒くさいの」
「きぃいいいいい!! なんですって、すかぁああああな!!」
「えーい」
「あだだだだだだ!!? ごめんなさい!! はっきり言いますぅ!! 勝負して欲しいですぅ!!」
「全くもう」
スカーナのアイアンクローにはプロトを素直にさせる効果がある。
「私様がこの人間の服を制作して化粧を施します、その後にあなた達が思うように飾ってみなさいな。審査員は他の3人よ。どうかしら!!」
「別に良いけれど、勝ち負けで何かご褒美は発生するの?」
「こちらとしても、ただ競うのは張り合いがないでありんす」
「はん!! 私様と競えるだけ光栄に思いなさいと言いたいところですけれど? 折角なので万が一私様に勝ったらこの小瓶を進呈して差し上げましょう」
プロトが懐、というか胸部の内部収納から取り出した瓶には何かしらの液体が入っている。それは水のように見える透明の液体だった。
「これの効能を知れば腰を抜かすでしょうね、これは私様の作れる化粧品の中の最高峰。試作53号よ!! この液体を肌に塗ればみるみるうちにお肌が若返る代物です、喉から手が出るほど欲しいでしょう!!」
「いや、要らない」
「肌はもう失ってしまいんしたから」
「っ!? そんな……馬鹿な、私様のデータでは肌の手入れは、女性の一生の命題のはず……!!」
残念ながらそれは一般の女性の話であった、機械の身体に龍種、菌糸の集合体に怨霊、人外に片足突っ込んだ人間には無用の長物と言える。とはいえ、この液体を市場にでも流せば飛びつく者は数知れないだろう、ただし出品者の情報も瞬く間に広がるためルームがその手段を直接使うことはできないが。
「ぐぬぬ……ではなにが欲しいか考えておくと良いです、万が一勝ったら私様の全能力をもって叶えてましょう」
「それならまあ」
「言った言葉は飲み込めないでありんすから」
「ま、まあそれもあなた達が勝てばの話。私様の性能の前にひれ伏すが良いわ!!」
そうして女装ファッションショーが突発的に始まった。
「テーマはもちろん今回の演劇に絡めた美しき怪物でいきましょう、精々あがきなさいな!! おーっほっほっほっほ!!」
特大の啖呵を切って消えたプロトである。しかし肝心のルームを置いていった。本人なしでどうやって専用の衣装を作るつもりなのか。
「忘れ物です」
「うわっ!?」
それに気づくのに少しかかったらしく、しばらくしてからドカドカと音を立てて戻ってきつつルームを連れ去っていった。
「さあ、やりましょう!!」
プロトの手際は自分で誇るだけの事はあって非常に繊細かつ素早いものであった。ルームの身体の採寸をする際に息が荒いのはご愛敬である。
「はぁ……はぁ……」
「あの、ちょっと怖いです」
「あら、申し訳ないですね。しかし仕方のないことなのです、人に触れるのは久しぶりなので。ですから少し我慢してください」
「は、はい」
採寸を終えた後は凄まじい勢いで何かを書き始めた、それは服の設計図と言えるものであった。しかし、ルームは裁縫の知識は乏しいのでそこに書かれているのがどのようなものかなど知るよしも無かった。ましてやそこにこっそりと古代語で書いてあるタイトルのことなど尚更である。ちなみに意味としては「妖艶な花嫁」に近いことが書いてあった。
「そうだ、あなた翼は生やせる?」
「無理です」
「え? 角は?」
「生やせません」
「尻尾も無理?」
「すみません」
「もしかして爪と牙もない?」
「残念ながら……」
「えーと、腕とか足を増やせたり」
「できません」
クリエイターの無茶ぶりは何時も存在するのだ。
「なるほど、それならまあ外付けでも良いわけね、じゃあこうしましょう」
そうしてできあがった服を見たときのルームの反応はこうである。
「これ、着るんですか、僕が? 本当に? 本気ですか」
「本気よ、複雑な構造だから気をつけてね?」
「く……本当に着ないといけませんか」
「良いから早く着なさいな!!」
「いやああああああああああああああ!!?」
絹を裂くような悲鳴が響き渡っていた。




