巨人
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プロトとの挨拶も終えてようやく最後の1人に会いに行こうというところになって、ルームは地震のようなものに襲われる。地震とは少しだけ違う周期的揺れ方であり、何か大きなものが1歩ずつ歩んでいるかのような震動である。
「スカーナさん、これはいったい」
「ああ、ダイダラちゃんがこっちに来てるだけなので慌てないでください。あの子がここに入れるまで小さくなるのに時間がかかるので」
「ダイダラちゃん……、それはここに来るときに出てきた大きな口とは関係していますか?」
「うん、あの口がダイダラちゃんだよ」
「地形一体化能力、となるともうあのダイダラ・ボッチだと思って大丈夫ですか」
「うーん、ダイダラちゃんがそのまま認識通りかと言われると。直に会って話してみたら分かると思う」
スカーナが言い終えた辺りで、天井から何かが落下した。それは掌に乗るような大きさのぬいぐるみのようなものである。よく見るとふわふわもこもこの白い毛玉であった。ちなみにルームが言ったダイダラ・ボッチは山と見間違うとさえ言われた東方の巨人である。一説によると零落した神そのものであるとも言われる強大な存在のはずなのだが。今見えるのは愛らしい毛玉である。
「よう来た、おらがダイダラだ。恐ろしくて正面からは見にくいかも知れねえけんど、それは早めに慣れてけろ」
「この、方が?」
「そうですよ? これがダイダラちゃんです」
「僕は、その、大男だと思っていたので、ギャップがその」
「大男? そりゃあ、やろうと思えばそこらの山くらいなら動かせるけんど、でっかい身体は肩が凝るから使いたくねえんだ。昔は今よりも動かしやすかったから何度か山を着てたこともあったかもしんねえなぁ」
「肩……?」
「おう、歳には勝てねえでな。最近は腰も痛むなぁ」
もう一度言うが今の姿は毛玉であるため腰も肩もあったものではない。
「まあ、ダイダラ・ボッチなんて呼ばれてるみてえだけんど、おらはただの不可思議妖精だからなぁ。他の奴らみたいな伝説も武勇伝もねえんだ」
不可思議妖精、それは便宜上妖精と呼ばれるが何をするために居て、何をしたいのか分からないものに付けられる分類名である。例えば何故か半永久的に回り続ける荒野の草なども不可思議妖精に分類されることになる。
「新しい劇さ出てくれるんだってなぁ、まんずよろしくたのんます。珍すく、すかぁなが連れてきた人だってんで身構えてたけんど優しそうな坊で良かっただ」
ダイダラは自覚していないようであるが、記録によれば何度か山を着ていた際に島が14、山が5つ、川が8本できたとされている。移動するだけでそのような影響を及ぼすものをただの不可思議妖精などと呼べるはずもない。場所によっては信仰されてもいるので土地神クラスの力を持っていると思って良いだろう。
「あ、はは、よろしく」
ここに来て劇団【古代語り】の全容が明らかになった。【骸龍】スカーナ、【苔樹海】もっちゃん、【超人機人】プロト、【國造】ダイダラの4人である。はっきりと言うならばとんでもねえ危険集団であると言わざるを得ない。1人1人ができる事の規模が大きすぎるうえに、それぞれが友人である。劇団員として共同生活をしているので単独で戦闘することは不可能。もし、万が一敵対するとしてもそれは同じ規模の戦力を用意せねばならない。例えばそれは三核卿+トワのような世界最高の戦力である。それでも勝率は30%ほどにしかならないので、なんならこの劇団が世界の命運を握っていると言っても過言では無い、かもしれない。
「(こんなの断れるわけない)」
内心では冷や汗ダラダラのルームである。地下にこんな奴らがいるのを知らなければ安心して今日も眠れるのだが、知ってしまったからにはこれらの超戦力の矛先が向かないように気を張らなければいけなくなったのだ。冗談抜きで、今から世界の命運はルームが握っている状態である。あり得ない話ではあるが、ルームの振る舞いがあまりにも、あんまりだった場合、「人間存在する意味ないわー」となってしまうかもしれないのだ。そうなれば滅びの1週間とでも呼ばれることになるだろう地獄の開幕である。
実際のところ、この劇団に居る4人の超戦力は人間大好きなのでそんなことにはならない。しかしそれをルームは知らないのである。
「あの、それで、打ち合わせをしたいんですけど……今からでも良いですか? 実は外部の人の意見を聞きたくて」
「は、い。喜んで」
自分の置かれた状況を理解したルームが一気に身体を強ばらせていると、スカーナがそれを察したのか申し訳なさそうな顔をしだした。
「あ、疲れましたよね。すみません、ちょっとテンション上がっちゃってて、えへへ、ここの皆を紹介できる人なんて初めてで」
「そう、なんですね。(そりゃそうだよ、こんなの1人じゃ抱えきれないよ、僕だって【白箱】持ってきてなかったら卒倒してるかな)」
「とりあえず休憩しましょう、それから本格的なお話ということで」
「すみません、ありがとうございます」
「それじゃあ1部屋増やしますから、少しだけ待っていてください」
あまりにも気軽に空間拡張を行うスカーナ、ここでも古代生物としてのスペックを存分に見せつけてきた。【部屋作り】のスキルもないのに普通に空間に干渉するのが【骸龍】なのである。
「ふぅ……」
用意された上等の部屋のふかふかソファに腰掛けるとルームから自然とため息が漏れた。慣れつつあるとはいえ上位存在との面通しである。精神にかかる負荷はかなり大きいと言える。だが、この場所でルームが休むことなどできはしない。
「むっふっふっふ、良い座り心地でしょー? これがもっちゃんクオリティなのだ」
「まあまあ、とりあえず芋でも喰え。若いもんはたくさん食わにゃあならんでよ」
「私様にお酌されながら休む権利をあげましょう、さあ何かお話してくださいな」
スカーナの目が離れたことで他の3人が殺到してきたのである。
「あはは、皆さんご親切で嬉しいです。(早く苗床亭に帰りたい……)」
ルームの胃がキリキリと痛み始めた、ヴァンシイと一緒になってからこんなことは初である。【寄生】ので強く結びついたヴァンシイでさえ治しきれないストレスがルームにかかっている証拠である。この依頼が終わるまでルームの胃がもつかは神のみぞ知る。




