第1戦 タチアナVSスィン
「ひっく、ひっく、ごべんねえ……嫌なことたくさん言ったよねえ、ゆるじてぐれないがもじれないけど……本当にいぎでてくれでよかっだぁ……」
「その……なんだ、キツいこと言ったな。あん時はあれが精一杯だったんだ、すまん」
「神よ、懺悔の機会を与えてくれたことを感謝します」
集まったルームの元仲間達である。発言した順に魔法使いのタチアナ、騎士のスタンダ、神官のレイである。タチアナはべそべそに号泣し、スタンダは罰の悪そうな苦笑い、レイは無表情というのがファーストコンタクトの顔であった。
「久しぶり、と言っても僕の方はもう意識のない皆には会ってるんだけどね」
「るーむぅ……!!」
感極まったのかタチアナがルームに向かって駆け出す、そのまま抱きつくような雰囲気であったのだが途中でピタリと動きを止めた。
「ねえ、なんのつもり? 止めないでくれる? 分かってるの? 感動の再会の場面なんだよ? なんで邪魔するの? なんの権利があって私を止めるの? 何? 死にたいの? 今からでも消える? なんだっけ、成仏? させてあげよっか」
「随分元気がよろしいでありんすな、旦那さんに近づきたいなら勝ってからにして欲しいというだけでありんす。今の嬢ちゃんは旦那さんを傷つけた張本人という立場にしかないのを分かってないようで」
首筋に添えられた刀を指で摘まみながら鋭い眼光を向けるタチアナ、今にもヨツヤとの戦闘が始まりそうである。しかし、それはルームとウォーカーによって止められた。
「おいおい、確かに会えて嬉しいのは分かるが確かにそこの怨霊の言うとおりなんだぜ。俺たちはまだここに立ち入る権利を持ってない。それを勝ち取るための戦いなんだこれは」
「刀を納めて、大丈夫だから」
両者から言われてまで戦闘をしないくらいには冷静だったようで、2人とも全身に漲っていた殺気を収めた。と思ったら次に展開されるのは舌戦であった。
「ねえ、何その口調。それでルームを落とそうとしてるなら止めた方が良いよ? 媚びてるつもりかもしれないけどあざとすぎて笑えるから」
「ほほ、これは花魁としての癖でありんす。今更止めろと言われてもどうにもならないでありんすなあ。この色気に嫉妬するのは分かりんすが、吠えても子犬程度にしかなりんせん」
「はっ、見た目だけ若い干物が言うじゃない」
「若さだけのガキが何を知った風な口を」
男から見たら背筋が凍り付くような会話を交わしてから2人は背を向けてそれぞれの元いた場所に戻った。その際にヨツヤはわざとルームにぶつかるような軌道で動く、そして後ろから抱きつくような体勢になってタチアナに自慢げな視線を投げかける。
「……覚えてろ干物が」
喉の奥で低く呟いた言葉は隣にいたスタンダには聞こえていた。
「おっかねえよ全く」
そこまでやったところでロサ・ロサが中心に出現し、今回の主旨の説明を始めた。
「良く来た、余はロサ・ロサ。暴君薔薇と呼ばれている。今回集まってもらったのはケジメの為である。今の仲間である我々と元仲間である貴様らの関係をはっきりさせたいと思い今回のことを提案した。我々は見せなければならない、元仲間よりも優れていると。今回の勝敗はもちろん苗床亭の主につけてもらう。万が一に総合的に貴様らが勝った時には貴様らは晴れてこの苗床亭に来る権利を得る、我々が勝った場合には一つなんでも依頼できるという条件だが不満はないであろうな」
「一つ良いですか」
「なんだ、祭祀の装いのした者よ」
「別に白黒つけるのは良いんですが、何で決めるんですか。まさかとは思いますが殺し合いをする訳じゃないですよね」
「まさか、それは誰も得をしない。やるのは試合だ、項目は様々だが命を懸けるようなものはない」
「そうですか、なら良いです。流石に殺し合いとなると全滅させかねないので」
思いがけず好戦的な言葉を出したことに一番驚いているのはレイ自身であった、知らず知らずのうちに気合いが入っていたことに気づくと少しだけ笑った。
「負けられませんね」
他に質問がないことを確認すると、ロサ・ロサは続きを話す。
「それでは始めるとしよう。試合内容は審査員が直々に発表する」
ルームが前に歩いて出てくる、その手には謎の箱を持っている。その箱には穴が開いており中には折りたたまれた紙が入っているようだった。
「1試合目は……」
箱の中に手を突っ込み1枚取り出す、その紙を勢いよく開くと高らかに読み上げた。
「料理対決!!」
静寂、ルームの声がもしかしたらふざけていたのではないかと考える元仲間。そして、驚きのあまり口を開けたまま固まった苗床亭のメンバー。しかし、いつまでたっても冗談だと言う気配はない。つまり、本気で料理対決をしなければならないということである。
「はぁああああああああああああああああああ!!? 待てよ!! 料理対決!? 食材もねえし調理器具もねえぞ!!」
「用意はしてあるよ」
指さした先には山ほどの食材と十分な調理が可能な空間が2つ、その近くにアンケとアンサがいることを考えると十中八九魔女の業でなんとかしたのが分かる。
「マジかよ」
「もちろん、食べるのは僕だから美味しいのをお願いね」
「戦場が日常の俺たちに料理とか正気か……」
「それはこっちも一緒だよ、普段は僕が料理してるから」
「ええ……」
どちらも緊急会議が始まっているのは同様だが、お通夜ムードなのは苗床亭のほうである。
「ヒューは無理だよぉ。まず物体の味が分からないもん」
「食べるのが専門でありんしたから、とんとしたことがありんせん」
「水と光の味なら分かるが、余も料理など」
「私も無理よ、菌類を生やすならできるけど」
料理などしたこともなければ、食事の種類も人間とは全然違う者達である。そんな面々がどうして調理ができようか。いや、できない。1人を除いては。
「私はできるよ、料理の本を読んだから」
「スーちゃんそれホント?」
「うん、大丈夫だと思う」
苗床亭の方に光明が差したと同時に勇者部隊の方も代表者が決まった。
「私が行く、最後にまともに作ったのは5年以上前だけど」
「タチアナ、死ぬなよ」
「大丈夫、でもルームにマズいって言われたら死にたくなると思う」
「それはまあ、頑張れ」
不安が残る感じではあるが、代表者が決まってしまった以上戦いはもう止められない。勇者第3部隊【魔法撃】タチアナVS蟲毒姫蜂スィンの料理対決の火ぶたが切って落とされた。




