元仲間と今仲間のご挨拶
「あの性悪が全部吐いちまったって聞いてな、それでまあどうしてるかと思ってちょっと来てみたんだが。なんか修羅場っぽいな」
「ご、ごめん、いまちょっと感情の整理が付かない」
「ああ、そうだろうな。俺たちはお前に酷いことをしたもんな。許して貰おうだなんて思っちゃいねえさ。ただ一言だけ言いに来たんだ」
その次の言葉が出ることはなかった、一気に苗床亭のメンバーからの殺気を受けた為である。そこに込められた意味はただ一つ。「出て行け」それだけである。
「うーん、お呼びじゃない感じが凄いな」
「ねえ……死にたくないならさっさとと消えてよぉ、ルームきゅんはもう苗床亭の主人なの。君たちみたいな木っ端の仲間じゃないの、だからもう良いでしょ? これ以上口を開かず消えて」
全力で敵意をむき出しにしたヒュープがとうとう言葉にする。苗床亭のメンバーからすれば、ウォーカーは苗床亭の崩壊を招きかねない存在である。排除対象として攻撃をしないだけまだ、皆の理性は残っていると言って良いだろう。
「木っ端とはまた何とも、いやいや言われたい放題だね」
「うじゃうじゃしている人間なんてそんなものでしょ? ルームきゅん以外の人類なんてどうでも良いの」
「愛されてるなあルーム、それは【寄生】とは違うのか?」
一瞬で地雷を踏み抜いたウォーカーである。今の感情が芽生えたのは元々【寄生】ありきであったのは確実である。だが、その発展系として育まれた感情までも【寄生】の影響かと問われれば苗床亭の面々は全力で否定するだろう。「馬鹿なこと言うな」と「私の愛情は本物だ」と。しかし、それもまた【寄生】の効果の範囲であるということを否定することもできないのだ。故にこれは地雷、踏み抜いてはいけない爆薬なのである。本人は知的好奇心のみで聞いたとしても、これはもうどうにもならない。ルーム以外からは全力で攻撃をされることになる。
「あっはっはっは!! ごめんよ、悪気はなかったんだ。分かってるさ。【寄生】はそんな風に相手の自由意志を許すようなもんじゃないってことは」
無傷、速さ重視とはいえ容赦なしの攻撃を食らってウォーカーには何のダメージもない。それどころか笑いかける余裕すらある。
「ルーム、教えてやれよ。俺のスキルを」
「そんなことができるスキルじゃ……だってウォーカーのスキルは【突進】のはず」
「ああそうだ、俺のスキルは何の変哲もない【突進】だった。これでも勇者第3部隊のリーダーなんだぜ、成長くらいするさ」
ゆっくりと歩いてくるウォーカー、どこか威圧感を伴う歩みは明らかに何かのスキルの発動を思わせる。
「スキルも進化するんだぜ? スキル名は【突進・改】にしかならなかったけどな。他の連中からは栄光の歩みとか呼ばれてる。笑えるぜ? 突進の派生を勝手に特殊スキルだと思ってるんだからな」
「強くなったんだね」
「足場の変化に弱いのが難点でな、あのマミーの流砂に遅れはとっちまったが。ドラゴン相手なら正面から殴り勝てるようにはなったな」
「そっか、じゃあ帰ってくれる? 僕はもう苗床亭の主人なんだ」
「お? お前にまでそう言われちゃあ帰るしかないな。じゃあ最後に一言だけ、助けてくれてありがとな。それだけだ、もう二度とここには来ねえよ」
そう言って、帰ろうするウォーカーの肩をロサ・ロサの茨が止める。
「待つがよい」
「んん? もう帰るっての、これ以上荒らさねえよ」
「違う、余は……いや我々は示さねばならぬ。今の貴様らよりも我々は優れていると、そうでなくては我々は胸を張れぬ。このままでは、我々はいつまでも貴様に敗北感を抱いたままあの方の側に居ることになってしまう。それは、駄目だ、駄目なのだ、それを許容することはできぬ」
「ええっ!? 本気かぁ? 一応言っとくけど俺たちは強いぜ? ファラオ相手に負けかけたのはイレギュラーが重なったからだ、下手したら殺しちまうかもしれねえからやりたくねえよ。お前らは人と共存できるタイプの人外だから尚更嫌だ」
「それでもだ、余は確信している。ここでぶつかっておかないと後悔するとな」
「……ルーム次第だな、あいつが良いって言ったらそうする」
ロサ・ロサとウォーカーの瞳が同時にルームに向く。ルームは少しだけ考えるために目を瞑ってから言葉を絞り出した。
「それで……ロサ・ロサ達が納得できるなら」
「マジか、よっぽどここの仲間が大事なんだな。本当なら戦闘なんて極力ないほうが良いってタイプだったと思うんだが」
「今もそうだよ、でも。時にはぶつかることも必要だってのは分かってるつもり」
「お前も成長したんだなあ、俺は嬉しいぜ。そうだ、折角だから賭けをしようぜ」
「賭け?」
「おう、俺たちが勝ったらここに泊まりに来る権利をくれよ。負けたらそうだな、1回なんでもお願いを聞いてやる。これでどうだ?」
「なんでもと言ったでありんすな? その言葉はもう飲み込めないでありんすよ」
「は、これでも勇者だ。二言なんてありゃしねえ。で、どうだルーム」
いきなり賭けと言われたことに混乱を隠せないルームだが、その頭の中で勇者部隊がここに泊まりに来ることと、1回のお願いの権利を天秤にかける。そして気づく、別にデメリットなくね? と。泊まりに来るだけならただの客である、勇者部隊に借しを作れるなら何かと使い道がある。
「分かったよ、それで良い」
ここに、ルームの元仲間と現仲間の総当たり戦が開催されることが確定した。




