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戻る苗床亭、置いていかれる猪武者

「はー、食った食った」

「お粗末様でした」


 食事を終えたグウェイが苗床亭の外に出る。目をこすっている様子から昼寝でもするのであろう。


「さてと、目的も果たしたからね。そろそろ帰ろうかな」


 そう呟いた瞬間だった。一気に空間がひずみ、苗床亭の位相がズレた。否、無理矢理ずらしていた位相が元に戻った。つまり、苗床亭が元の位置に戻ってしまったことを意味していた。アンケが施した魔方陣が簡単に壊されるということはありえない。アンケの身になにかあったか、それともアンケの魔法に干渉できる超抜級の魔法使いが来ているということになる。


「えっ!?」


 ズレに気づいたことで異常事態を察したルームが急いで苗床亭を出る。そこには燃えさかる松明他、様々な炎属性のものを持ったものを手にした黒ずくめの集団が居た。どうみても宗教団体の魔女狩りの再現にしか見えない。


「なんだ!? 家がいきなり出てきたぞ!?」

「どういうことだ!?」

「こんな質量を移動させていたとでも言うのか!?」


 突然現われた苗床亭に驚く者たち、物体の転移という禁忌の魔術行使に対する反応に対しては少し妙な興奮が感じられる。嫌悪というよりも歓喜という感情が近いような感じである。


「やっぱりだ!! こんなことができるのは大婆様に他ならない」

「ここにいらっしゃるというのは本当だったのか!!」

「おおお!! 一族の悲願はここに果たされり」


 この口ぶりを聞くところ、少なくとも魔女狩りではない。それどころか魔女信仰の方の関係者のようである。魔女信仰とは、魔女狩りに会い全滅したと言われる魔女の神秘性にあやかって魔法の最奥に至らんとする魔法使い達が主な信者となる宗教派閥である。


「おお、ばば様?」

「あなたはもしや、大婆様のお知り合いでしょうか!!」


 苗床亭から出てきたルームに信徒の代表らしき者が近づいてくる。キラキラと輝く瞳は希望に満ちあふれている。


「すみません、あなた達は何ですか。それを確認しないことにはどうも」

「ああ、すみません申しおくれました。私はウィズダムと言います、魔女の末裔です。ここに始祖の魔女の1人であるアンケ・ヴァルプルギス・サバト様がいらっしゃると小耳にはさみまして」

「魔女の末裔……? 自称ではなく?」

「失礼ですね。ですが、大婆様の関係者っぽいので許します。これをご覧ください」


 ウィズダムが黒ずくめのローブから腕を出してルームに示す。するとそこには魔女が魔法に使うとされる文字が浮かび上がっていた。


「え? それがどうかしたんですか」

「知らないんですか!? これは魔女の血筋を示す模様なんですよ!!」

「そうなんですか、初めて見ました」

「むっふっふ~!! そうでしょうそうでしょう。これは表には出せない模様ですからすごく貴重なんですよ!!」

「そんなにすごいものなんですか、凄いんですねえ」

「ふふん、讃えなさい!! もしかしたら私が最後の魔女の血かもしれないんですから」


 薄い胸を張るウィズダム、慎ましやかな胸囲ではあるが酷くなだらかな曲面はウィズダムが女性であることを示していた。


「すごいなあ、でも僕にはあなたが本当に言ったとおりの人なのか分からないので言うことはありません」

「なんですとぉ!? じゃあこれを見てもそんなことが言えますか」


 指を銃の形にしたウィズダムが何かを唱える、聞き覚えのない言語であり普通に話されている言葉とは違う音が聞こえる。魔法を使う際にも別に特別な言語を使う必要はないのだが、特別な魔法の際には特別な言葉を使う必要が出てくることもある。


「BANG!!」

「うわっ!?」


 ウィズダムの指から紫色の光が放たれる、指先は空を向いていたのでルームに当たるようなものではない。しかし、放たれた紫閃光は空中で弾け花火のように何度も炸裂する。非常に美しい模様を描きながらキラキラと舞う様はルームが見たことのあるどの魔法とも違っていた。


「オリジナルですか」

「ちーがーうーのー!! これが魔女の魔法なの!! 単詠唱(シングル)でここまでの変化を起こせる魔法なんて魔女の魔法くらいなの!!」

「へぇー、そうだったんですねえ」

「もー!! なんで分からないの!! 魔女界隈では常識なのに!! なんで知らないの!! 大婆様の知り合いなんでしょー!!」


 もちろんルームはこれらの魔法行使が魔女由来のものであると分かっている。模様を描くものを見たのは初めてであったが詠唱のイントネーションはアンケがするものと似通っていたし、魔女の魔法の特徴についても地下図書館で知っていた。それでもとぼけているのはウィズダムとアンケとの関係が未だに分かっていないからである。アンケの身の重要性を知っているので迂闊に情報を出さないことにしているのだ。


「じゃあそういうことで」

「あー、待ってよ!!」


 とりあえず怪しいと判断したのでルームは苗床亭に引き上げた。涙声で扉を叩く音がしているが無視をすることにした。


グウェイ「ああん!? どこ行きやがった!? 俺を置いていったのかよぉ……ぐすっ」

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