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3日目の現状、そして事件

「おかしいなあ、帰ってこない」


 スィンによる手伝い、睡眠時間を確保させたいヒュープ、ゆっくり体温をもらいたいヨツヤによって苗床亭の業務は一気に効率化された。食事の量にもテコ入れが入り一般的な量になった。とりあえずは崩壊の危険がない状態にまでに持っていくことができている。

 しかし、まともな2日目の営業を終えた3日目の夜に異変が起こった。インテル、スコラが苗床亭に帰還しなかったのである。多少の遅れはあるにしろ、日が完全に落ち深夜に迫ろうという時間まで調査をするというのは戦闘能力が低い2人には自殺行為だ。


「でもなあ、専門家が道に迷うとは考えにくい。となると、襲われたか事故に遭ったかってところかな。ここらへんにそこまで危険な奴がいるわけじゃないけど迎えに行こうかな。スィンはここで留守番してて、もしかしたら普通に戻ってくるかもしれないし」

「うん、分かった」


 とりあえず応急処置に使える薬品を鞄に詰め込んでルームは飛び出した。向かった方向は分かっている、スコラとインテルの服には初日からヴァンシイの胞子を付着させてある。詳細なことまでは分からないが場所くらいならば把握できている。


「急ごうか」


 足に力を込める、菌糸がミチミチと音を立てて脚力を補強する。地面を蹴り出すと足形が深く残るほどの踏み込みはルームを弾丸のごとく撃ち出した。


「こっちか」


 スコラとインテルの向かった先は岩の転がる丘であった、見はらしもよくそして足場が悪いと言うこともない。魔物襲われたという線が濃厚になるのを感じながらルームの追跡は続いていく。


「あちゃあ……こういうことか」


 視線の先には大きくひび割れた地面と崩れた岩盤。おそらく、薄く脆い岩盤の上に誤って乗ってしまった結果落ちたのだろう。


「おーい!! 生きてますかー?」


 とりあえず声をかけてみる、もっと離れた場所にいるのは分かっているが声が届くのならばその方が良いと判断してのことである。しかし、返事はない。少なくとも声が響いている事からかなり広さはあるようで空気の心配はいらなさそうである。


「え?」


 大声、声とはつまり振動である。振動とはエネルギーである。そして、一度崩れた岩盤に大声を浴びせかせ共鳴させるという行為は地盤を再度管崩れさせるのには十分であったようだ。ルームに何が起こったかというと。


「おちっ!?」


 落ちたのである。


「まだだぁ!」


 しかし、ただで落ちるルームではない。咄嗟に腕より菌糸を伸ばして淵につかまろうとする。


[あっ」


 だが、悲しいかな。ルームを支えられるような強度を持つ場所はもう存在していなかった。くっついた場所もまたあっさりと崩れる。


「うおああああああああああああ!!?」


 思わず声を出したが、別にこの程度の高さで怪我をするルームではない。普通に足から着地する。


「っと、洞窟かあ。ヴァンシイにはちょうど良い環境かな?」

「何を言っているの? 宿主の身体以上に快適な入れ物なんて存在しないわ」

「そ、嬉しいよ」

「うふふ、その反応で正解よ」


 少しだけいちゃついてから、回りを見渡す。とりあえず今すぐ襲われるようなことにはならなさそうだが。いつまでも居ていい場所でもない。


「こっちか」


 スコラとインテルの場所へと向かって歩き出す、下手に衝撃を与えると洞窟全体が崩れるかもしれないので高速移動は控える。光源がないことにより奥が見にくいこともあった。


「コウモリか」


 バサバサという音をさせながら洞窟の天井より襲撃を仕掛けてきた。逆さコウモリと呼ばれるこの種は逆さにならない謎のコウモリであるが。特に特筆すべき能力を持っているわけではない、よっぽど弱っているわけでもないかぎりは一撃で撃退できる雑魚である。


「ン!?」


ただし、今回は少し事情が違う。なぜなら数が馬鹿みたいに多い。奥が見えないのは光がないせいではなくコウモリがぎっしり居たのである。


「ちょちょちょ!! ここでこの数!?」


 大技で一掃という選択肢はない、ルームはそれでも生き残れるがインテルとスコラはそうはいかない。生き埋め圧殺、失血、その他諸々の要因で死んでしまう。故に、今から始まるのはモグラ叩きのごとき戦闘である。ルームの武器は基本的に素手である。


「おおおおおおおおおおおおお!!!」


 数に対して腕が足りないので、身体の内側から無理矢理菌糸を伸ばして腕の代わりとして振り回す。威力は低いが逆さコウモリ相手ならば問題はなかった。それでもまだ押される。数の暴力を逆さコウモリは体現していた。


「こう、なったら」


 一瞬の溜め、その後にルームの腕が爆ぜた。


「これ、痛いからあんまりやりたくないんだよね」


 表皮の下に蓄積させた胞子を一気に噴出させたのである、いつもはカウンター的にできた傷より噴出させるが、今回は範囲を広くするために自ら限界を超える量の胞子を蓄積させてオーバーヒートさせたのである。結果として一帯が白く染まるほどの胞子がまき散らされる。その代償として腕の皮が吹き飛ぶが、すでに再生を始めている。


「でもまあ、これで良いかな」


 胞子にまみれた逆さコウモリはすぐさま昏倒した。今回使われた胞子は睡眠系の効果を発揮する代物であったためだ。


「長丁場になるかもだから、いただきます」


 網のように広げられた菌糸が逆さコウモリをまとめて絡め取った。瞬く間に身体が菌糸に覆われる。


「ふう、ごちそうさま」


 ものの数秒で養分とされた逆さコウモリは死骸すらも残ってなかった。


「じゃあ、探しますか」







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