第71話 秘密の晩餐
さて、王女ラクティフローラとの衝撃的な出会いの後、一人置き去りにされた僕、白金蓮は、隣にいる気配を絶ちきった嫁さんと内輪話をしていた。
「やっぱりシャクヤちゃんの顔って、お姫様の顔だったんだね。私たちが感じた印象は正しかったんだよ」
と、ほぼ透明人間の嫁さんが声を弾ませた。
「それより、あの子とシャクヤがそっくりさんだということに疑問を持とうよ。普通に考えて、シャクヤは王女の姉妹か、少なくとも親戚ってことだ。それでも、あんなに似ているのは珍しいと思うけど」
「でも、シャクヤちゃんは、私たちと一緒にいることを知られたくない、って言ってたよね?」
「何かあるんだな……」
少しの間、そうして待っていると、王女に連れて行かれた侍女が戻ってきた。
「先程は当屋敷の主、ラクティフローラ王女が大変な失礼を致しました。ご無礼の程、我が主に代わりまして、陳謝致します」
深々とおじぎをする背の高い侍女に僕は恐縮した。
「いえ、それよりも王女殿下にお怪我はありませんでしたか?」
「はい。それはもう元気な様子で、ただ今、王女は歓迎の準備に向かいました。すぐにご挨拶申し上げるとのことですので、それまではこちらのお部屋にて、おくつろぎください」
案内された部屋は、広く豪華な部屋だった。内装や家具には精巧な飾り付けがされており、小物一つをとっても煌びやかであった。とても高貴な女性が使用していたような印象を受けた。
「え……こんなすごい部屋……いいんですか?」
「勇者様のために特別にご用意致しました。どうかごゆるりと、おくつろぎください。食事の席が整いましたら、またお迎えに上がります」
「ありがとうございます」
「申し遅れましたが、わたくしは、当家に仕える侍女長、フリージアと申します。何かございましたら、こちらのベルをお鳴らしください」
フリージアと名乗った背の高い侍女長は、ドアの近くに置いてある鈴を指した。
「わかりました。僕は、蓮・白金です。今日は何から何までご丁寧な応対をしてくださり、先程から感動しきりです。今夜はご厄介になりますが、よろしくお願いします」
僕は礼儀として名乗り返し、丁重に挨拶をした。すると、なぜかフリージアさんは慌てた。
「い、いえ!わたくしなどにそのようなご挨拶はもったいないことです!それでは、失礼致します!」
ものすごく恐縮した様子でフリージアさんは部屋を出て行った。
名乗っただけで、そこまで恐れ入るものだろうか。
「ほんっとにすごい部屋だねぇ!」
僕一人になった途端、明るい声で急に叫んだのは嫁さんだ。今までもずっとそばにいたのだが、ここで気配を元に戻し、姿を現したのだ。
「コラ、静かにしなさいよ」
「私、こんなお姫様が住むような部屋に一度は泊まってみたかったんだぁ!」
そう言いながら、ベッドに遠慮なく飛び込む嫁さん。そのままゴロゴロして、こんなことを言い出した。
「こんな部屋で蓮くんとイチャイチャできたら、最高だなぁ……」
「え」
「今夜は私もここに泊まる」
「いやいやいや、何を言ってるんだ。そんなのバレたら一巻の終わりだよ」
「大丈夫だよ。私は絶対に見つからないから。こんなところに自分の旦那を一人置いてくなんて、私にはできないもん」
次第に真面目な口調になる嫁さんの様子に、僕はあることを察した。
「……この屋敷の声を拾ったんだな?何を聞いた?」
「うーーん。言えない」
「隠し事はなし、って百合ちゃんが言ったんじゃないか」
「そうなんだけど、これは私が盗み聞きしちゃった内容だから、教えるのはフェアじゃないっていうか…………とにかく心配だから、私は今日ここに泊まる!これは絶対にお嫁さんとして譲れないの!」
「まぁ、そこまで聞けば、なんとなく察するものがあるけど……」
「たぶんそのとおりだよ。あの王女様、すごく舞い上がってる。だから、本当に気をつけてね」
「面倒臭いことになったなぁ……」
「あぁ……でもこんなところで蓮くんと寝たら、私、興奮して寝付けないかも」
「いや、寝ろよ!いくら自分の嫁さんだからって、こんなところで手出しするわけないだろ!」
「はぁーーい。あっ、フリージアさんが来たよ。私、また消えるね」
嫁さんがそう言った直後、部屋のドアがノックされた。
「レン様、お待たせ致しました。こちらまでお越しください」
フリージアさんの案内により、僕は2階にあるサロンに連れて行かれた。
そこは、パーティーが行えそうな、だだっ広い部屋だった。
掃き出し窓の向こうにはバルコニーがあり、その先に広がる庭園が星明かりで薄っすらと姿を見せ、なんとも言えない不気味で美しい夜景を演出していた。ちなみに今月は21日目となるので、下弦の月だ。おそらく午前0時を過ぎなければ月は昇らないであろう。
こんな場所でデートをしたら、どれほど嫁さんが喜ぶだろうか。
だが、僕を待ち受けているのは、この国の第一王女、ラクティフローラだ。
その王女が、先刻とは違うドレスで星明かりを背景にし、後ろ姿で立っていた。
思わず息を呑んだ。すぐそばに透明人間の嫁さんがいることも忘れ、僕は一瞬、その後ろ姿に見惚れてしまった。
コリウス部隊長から聞いていたのだが、この国では、こうして女性が後ろ姿で待ち、男性から挨拶をして会食が始まるのだという。
それにしても先程フライングして(まさにいろいろな意味で!)、顔を合わせてしまったが、一国の王女に実際に会うとなれば、それ相応の挨拶というものがあるはずだ。
しかも、シャクヤからは別れ際に、王女は”難しいところ”があると忠告を受けていた。失礼があってはならないだろう。今さらながらにかなり緊張してきた。
僕は深呼吸して、気を落ち着かせ、丁重に挨拶をした。
「本日は、このような一介の旅人をお招きいただき、恐縮の極みでございます。私は、蓮・白金と申します。どうか王女殿下におかれましては、お耳の片隅にでも留め置いていただければ、恐悦至極に存じます」
相当、堅苦しい挨拶だ。
歴史オタクだった自分の知識を総動員して、必死に組み立てた挨拶だった。なんとか、これで無礼に当たらなければよいのだが。
「蓮くん、すごいね……よくそんな言葉が出てくるよね……」
なんと、先に嫁さんの小さな声がすぐ近くから返ってきた。
いや、君に褒められたくて言ったんじゃないんだよ。ちょっと黙っててくれ。
「わ……わたくしは……」
そう言って、王女がこちらに振り返った。その顔は、まさに先程見たのと全く同じ、そして、シャクヤとそっくりの、よく見知った顔だった。王女は頬をピンク色にして、か細い声で挨拶してくれた。
「わたくしは、我が国の王ソルガム・アジャータシャトルが第一王女、ラクティフローラ・アジャータシャトルです。ゆっ……勇者様におかれましては、長旅のお疲れがおありのところ、このような場所にお越しいただき、かっ……感激の至りでございます」
話している途中で僕と目が合うたび、一瞬、言葉を詰まらせる王女。どう見ても僕より彼女の方が緊張してた。
ドギマギしている様子といい、その表情といい、まるでシャクヤそのものだ。
彼女の反応を見ているうちに僕は、あっという間に安心感を持ってしまった。これは、シャクヤという女性に先に会っていたお陰であろう。とても話しやすそうな女の子だ。
「そ、そそそ!それと!」
挨拶が終わったかと思いきや、勢い込んで次の話題に移ろうとする王女。しかし、言い方を間違えてしまったのか、慌てて訂正する素振りを見せた。
「あ……やだ……”それと”じゃないわ……えーーと……えーーと……」
前言撤回。これはシャクヤじゃない。この慌てぶりは、常に落ち着いて理路整然と話をするシャクヤとは全く違う。とても普通の女の子らしい慌てぶり。そして、ドジっぷり。そう。これは、まるでウチの嫁さんだ。
「と、とにかく先程は大変失礼を致しました!また、危ないところを助けていただき、本当にありがとうございます!」
僕が階段で助けてあげたことへの礼だった。
こうして普通にしゃべってくれると、僕の方も助かる。
「いえ、当然のことをしたまでです。それよりもお怪我はありませんでしたか?」
「は!はい!お陰様で、このとおり元気ですわ!」
明るい返事をする王女。ここでようやく僕と王女はしっかりと目が合った。
「よかった。急に綺麗な女性が落ちてきたものですから、ビックリしましたよ」
「まぁ!綺麗だなんて……その……わたくし……」
また目を伏せて口ごもってしまう王女。しかし、なんとか次の展開へ持っていった。
「……はっ!そ、そうです。今宵は長旅のお疲れを癒していただきたく、勇者様のために晩餐をご用意致しました。どうぞお掛けになってください」
彼女がそう言うと横で控えていたフリージアさんが椅子を動かしてくれる。高級料理店に行った時を思い出すようだ。
「お心遣い、感謝に堪えません。それでは、失礼致します」
王女に合わせて、僕もまた堅苦しい受け答えをし、着席した。僕のあとにフリージアさんの介添えで王女も座った。
そして、フリージアさんは一言もしゃべらずに一人で食事とお酒を運んできた。前菜とドリンクが揃うまでの間、王女はチラチラとこちらを見ながら、何も言わずにもじもじしていた。
「蓮くん、しっかりエスコートしてあげなよ。この王女様、緊張しすぎで可哀想だよ」
耳元で再び嫁さんの小声が聞こえた。
まったく、この嫁さんは僕と王女を二人きりにするのが心配でついてきたくせに、今度は王女のテンパった姿を見て同情し、味方をしようというのか。呆れたお人好しだ。
「王女殿下」
「ひゃっ、ひゃいっ!」
完全に浮足立っている。返事まで噛んでいるじゃないか。
「提案なのですが、この場では堅苦しい話し方は、やめにしませんか。その方が、お互い話が弾むと思うのです」
「そ、そんな……よろしいのでしょうか……」
「ええ。僕もその方がありがたいです」
「あ、ありがとうございます。わたくしとしたことが、ゆ、勇者様にお会いできたことが嬉しすぎて、もう、何からお話ししてよろしいのか、舞い上がってしまいました……」
本来であれば、僕としてもこんなかわいい王女と会食をするのだから、相当緊張するはずなのだが、顔がシャクヤそっくりなので、全く気に病む必要がなかった。
シャクヤより年上なのか、ほんの少しだけ大人っぽさが加わり、肉体的にも女性らしく成長した感はある。だがそれでも、髪がピンク色なのを除けば、やはり外見はシャクヤだった。お陰で僕の方は余裕を持って王女と話ができそうだ。
そして、お酒が注がれたので、二人で乾杯した。
あまりお酒に詳しい人間ではないが、とてつもなくうまい酒だった。
「おいしいですね!」
「お口に合ったようで嬉しいですわ。宮殿に貯蔵されている秘蔵酒を特別に取り寄せましたの」
その一言だけでも、どれだけ歓待してくれているのかがわかる。
さらに前菜が運ばれた。それも美味だった。ところで、一つ気になることがあったので僕は質問した。
「フリージアさん、お一人で大変そうですね」
その言葉を聞くと王女は、意外そうな顔をした。
「……まぁ、侍女のことにまで気を使ってくださるのですか?」
「いえ、すみません。気になったもので」
「勇者様にはご不便かと思いますが、本日の会食には、こちらの侍女長、フリージアのみが給仕に当たります。わたくしが最も信頼している者でございます。なにぶん、今回の会食は極秘のものでして、勇者様との会話を他の侍女に聞かせるわけにもいきませんので」
「なるほど。それでは、僕をこの世界に召喚された件について、お聞きしても問題ありませんか?」
「まぁ、勇者様、それは問題ありませんが、まずは食事を楽しんでくださいませ。乙女を前にして難しい話から入るなんて、無粋でございますよ」
王女は柔らかい表情で、僕をたしなめた。最初の頃と比べてかなり余裕が生まれたようだ。
すると、ここで再び嫁さんの声が聞こえた。
「ふふふっ、難しい話は無粋だってさぁ。蓮くん、ここでも言われてる」
人の気も知らないで、呑気な嫁さんだ。
そう思っていると、僕がフォークに取った前菜がパッと消えた。さらに前菜をフォークで取る。口に運ぼうと思うとまた途中で消えた。
嫁さんが食べているのだ。僕の食事を。しかも僕が食べていると錯覚するように絶妙なタイミングで。いったいどれほど至近距離にいるんだ、ウチの嫁さんは。
「そ……そうですね。とてもおいしい食事です。あまりにもおいしくて、あっという間に平らげてしまいましたよ」
僕は不自然にならないよう、先程の王女の言葉に笑って返答することでごまかした。
「あら、本当。これは配慮が行き届かず、申し訳ありません。やはり殿方ですわ。わたくしどもを基準にしていたら、お腹がいっぱいになりませんわね。フリージア、すぐに次の食事をお願い。そして、勇者様には量を倍にしてね」
フリージアさんは何もしゃべらずにテキパキと動いた。そこからはコースのように順番に料理が運ばれた。僕には倍以上の量が盛られている。実にありがたい。
それを透明な嫁さんが次々に食べていった。どう見ても僕より嫁さんの方が食べている。さらにお酒にまで手をつけるため、僕はとんでもない酒豪のようにお酒をおかわりした。
これ、相当高いお酒なんだぞ。少しは遠慮しろよ。
「ウフフフ。やはり勇者様でございますね。普通の殿方とは比べられないほど、よくお食べになりますのね」
「申し訳ありません。ついつい料理がおいしくて食が進んでしまいました」
「いえ、用意した側としましては、ここまで喜んでくだされば、大変嬉しく思います。異世界からいらした勇者様のお口に合うか、非常に悩んでおりましたので」
結局のところ、食事の間、他愛もない話で和やかに過ごしただけだった。一応、わかったことは、彼女が17歳であること。母親は国王の第三夫人で、既に病気で他界していること。あとは猫好きだということ。などである。
僕としては、そろそろ『勇者召喚』についての本題に入りたいところだ。
だが、その前に言っておきたいことがあった。
「ところで、その”勇者様”という呼ばれ方ですが、実のところ、大変困惑しています。僕のことは、気軽に”蓮”とお呼びください」
「え……よ……よろしいのですか?」
「はい」
「で、では…………う、うん………レン……様」
ものすごく改まった感じで僕の名前を呼ぶ王女。
それだけでのことで頬を赤く染めている。
「僕もラクティフローラ様とお呼びしていいですか?」
「ラ……!」
僕が名前で呼ぶと、王女はさらに顔が赤くなった。
まずい。もしかすると、失礼に当たっただろうか。ちょっと馴れ馴れしかったか。”王女様”くらいから始めるべきだったか。
そう心配していると、王女からは僕の想像とは逆方向の返事が返ってきた。
「わ……わたくしのことは、ラクティとお呼びください」
「え……」
僕は絶句した。いくらなんでも一国の王女相手に初対面でそれはないだろう。合コンじゃあるまいし。これがビジネス的な会食だったとしても、まるで二次会のノリじゃないか。
「いやいやいや!王女様にそんな言い方、失礼にも程があります」
「レ、レン様には、そう呼んでいただきたいのです。どうかよろしくお願い致します」
ペコリとおじぎをして要求してくる王女に僕は戸惑った。この国では、これくらいが当然なのだろうか。それとも王女の想いが過剰すぎるのだろうか。
「……では……ラクティ様」
「いえ、ラクティで」
「ラ、ラクティ」
「………………」
王女は真っ赤になって硬直した。
これはまずい。どう考えても、この王女は僕に好意を持っていて、しかもその感情が高ぶり過ぎている。
今までの人生で嫁さん以外からこんなにモテたことはなかったというのに、この世界に来てから、どうしてこんな事態が立て続けに起こるのだろうか。
シャクヤといい、この王女といい、もしも親戚なのだとしたら、この一族は思い込みの激しい気質があるのではないか。そして、正直言って、この場で透明人間の嫁さんが一部始終を見ていることを考えると、それが最も恐ろしい。
こうなったら、僕が既婚者であることをキッパリ言うべきだろう。これ以上、この王女の感情をこじらせたら、面倒なことになりかねない。
「ラクティ、実はお話があるんです」
「は!はい!」
僕から愛称で呼ばれるだけで舞い上がっているような様子だ。本当にヤバい。
「僕には連れがいます」
「はい。存じ上げております」
予想外の返答を受け、僕は唖然とした。
この時の僕は、”連れ”という曖昧な表現をしてしまった失敗にまだ気づいていなかった。
「え……知ってたんですか?」
「はい。ご立派な剣士様だそうで」
「え、ええ……立派かどうかは、わかりませんが……」
「そ、それよりも……レン様……」
「はい」
「もう、わたくしに対しては、そのように丁寧な言い方はしないでくださいませ」
「え……?」
「もっと親しく……普通の言葉で接してください。これでは他人行儀もいいところですわ」
「いえいえ、いくらなんでも一国の王女にタメ口をきくなんて、畏れ多いですよ」
王女の馴れ馴れしい要求に僕は笑って答えた。
だいたい、酔っぱらった勢いでこの手のことを言ってくる目上の人は仕事でも時々遭遇する。だが、それを真に受けて実行する人間はいない。いたとしても、それは、そういうことが許されるキャラを持った人物なのだ。僕のように真面目を取り柄としている人間がやることではない。
だが、王女は真剣な眼差しで僕に言ってきた。
「レン様、このわたくしがそう申し上げているのです。この世に、これまで、わたしくと二人っきりで一夜をともに過ごした殿方はいらっしゃらないのですよ。それなのに、他人行儀のままでお帰りになられては、わたくしの恥にございます」
待て待て待て。どういう理屈だ。一度、二人きりでメシを食ったというだけで、深い仲になったとでも思っているのだろうか、この王女は。
甘く見ていた。思い込みが激しいという点では、この子はシャクヤを遥かに超えている。
「いや、僕には無理ですよ。王女様に無礼な言葉遣いをしたら、この国の方々を敵に回してしまうかもしれないじゃないですか」
「ですから、わたくしと二人の時にだけ、普通にお話ししてくださればよろしいのです」
「いや、しかし……」
「言ってくださらなければ、わたくし、レン様とはこれ以上、口をききません」
「え……そんなこと言わないでくださいよ」
「…………」
ラクティフローラは、そのままツーンとして黙り込んでしまった。まさか、これほど面倒臭い女子だったとは。一国の王女だけに、わがままに育てられたのだろうか。
それにしても、先程から嫁さんが何も言ってこないのだが、どうしたのだろう。こういう時こそ、何か助け舟が欲しいところなのだが。
「……ラクティ、僕はあなたに聞きたいことがたくさんあるんです」
「…………」
「どうか、お願いします」
「…………」
「……わかったよ。ラクティ、話を……聞いてくれ」
仕方なく、試しにタメ口で話してみた。
すると、王女は照れ笑いして、返事をした。
「はい。レン様。なんでございましょう」
面倒臭い!ウチの嫁さんも面倒臭いタイプの女性だが、この子は度を越して面倒臭い!
「そろそろ僕の本題、この世界に召喚した理由を聞かせてもらえないだろうか?僕はそのことを君からどうしても聞きたかったんだ」
僕が完全にタメ口で話をすると、ラクティフローラは満足げに笑みを浮かべ、嬉しそうに話しはじめた。
「はい。わたくしが『勇者召喚の儀』によって、レン様をこの世界にお呼び致しました。それは魔王の復活によって、魔族の活動が活発化してきたからなのです」
「なるほど。では、魔王を倒せばいいのかな?」
「はい。勇者レン様に魔王の討伐をご依頼するべく、国王陛下もお迎えする準備を整えております。おそらく明日か明後日には招集がかかるかと思います」
「そうか。では、その『勇者召喚の儀』について、僕にも勉強させてもらうことは可能かな?」
「え?……どういうことでしょうか……?」
「実は、この世界に来てから、僕は魔法の研究をしていてね。是非とも高等技術である『勇者召喚の儀』の仕組みを勉強したいんだ」
「まぁ!そのようなことをされていらっしゃるのですか!さすがはレン様です!そういうことでしたら、今度、わたくし自ら精霊神殿をご案内致しますわ」
「それはありがたい」
と、ここで、これまで一度も口を開かなかったフリージアさんが、王女に告げた。
「ラクティフローラ様、ご歓談中のところ申し訳ありません。ただ今、別の侍女から知らせが参りまして、急なご来客があったようでございます」
「こんな夜更けに?無礼にも程があるけど、いったい、どこのどなた?」
「勇者様のお仲間だと申される方です。名をユリカと言われました。なんでも、勇者様の忘れ物を届けに来たそうです」
その言葉を聞いて僕は驚愕した。なんと、痺れを切らした嫁さんが堂々と正面玄関から客人として乗り込もうとしているのだ。どうりで全く反応が無かったわけだ。
しかも、僕の忘れ物を持ってきた、という。何を忘れ物とするのかは知らないが、確かにその手なら、呼ばれていなくても屋敷に上がり込む口実になる。こういう機転はさすが嫁さんだ。
「まぁ、レン様、ユリカ様というのは、お仲間の剣士様でしょうか?」
「あ、うん。そうだよ」
「勇者様のお仲間を追い返したとなれば、わたくしの恥になってしまいます。わざわざ、お忘れ物を持っていらしたと言うんですもの。ここは、お茶の一杯でも召し上がっていただかなければ、無作法というものね。では、こちらにお呼びしてちょうだい」
「かしこまりました」
そうして、フリージアさんはサロンから出て、嫁さんを連れてきた。しかし、サロンに登場した嫁さんの姿を見た途端、それまで笑顔だったラクティフローラは青ざめた顔になって、立ち上がった。
「は、はじめまして。王女様。突然の訪問でごめんなさい。私は百合華と言います。どうぞよろしくお願いします」
嫁さんは慣れない敬語で、たどたどしく挨拶した。
そうして、三者の思惑が交錯する、波乱の第2ラウンドが始まるのだった。
ラクティフローラの暴走ぶりは、やはり書いてて楽しくなります。




