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ウチの嫁が最強すぎて魔王すらワンパンなんだが  作者: 東条賢悟
第八章 異世界学園と召喚の真実
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第285話 悲鳴

『飢餓の魔王』ブーゲンビリアこと山吹月見。


僕の前に現れた彼女は、帝国にいた時のような水着姿ではない。共和国の女性らしい服装をしていた。


まさか白昼堂々、アカデミーの講義室で、魔王に遭遇するとは。


動揺しつつも、独特のポーズとセリフで自己紹介してくれた彼女に妙な安心感を覚えてしまい、僕は冷静に問いかけた。


「ど、どうしてここに?」


「それはワタシのセリフだよォーー。まさかガネくんがァ、アカデミーで試験受けてるなんてェーー。なで子にも教えてあげないとォーー」


「桜澤さんも……いるんだな?」


呑気な声で回答をはぐらかした山吹月見から、僕はもう一人の魔王の存在を推察した。というより、桜澤撫子はアカデミーと帝国を往復していたのであるから、ここにいて当然である。


しかし、僕からの再度の質問にも山吹月見は答えなかった。


「ねェねェ、そんなことよりィーー、ワタシにもォ、”スマホ”造ってくれなァーーい?」


「……は?」


「なで子だけ持っててェーー、羨ましいのォーー」


妙に余ったるい声で近づいて来る彼女に、僕は後退りしながら答える。


「あれは桜澤さんが味方だと思った時にあげてしまっただけだ。僕は自分が信じられる相手にしか携帯端末宝珠を渡さない。山吹さんは僕の味方になってくれるのか?」


「うんうん!少なくともガネくんの敵じゃないよォーー!”スマホ”造ってくれる神に歯向かうわけないじゃーーん!」


「ところで、さっきから言ってる”ガネくん”って何?」


「なで子がァ、白金くん白金くんって、毎日うるさいから耳に焼きついちゃってェーー。だからワタシはァ、略して”ガネくん”」


「……君も自由なタイプなんだね」


次第に目の前まで接近し、インク瓶を渡してくれた彼女に、僕は、ため息をつきながら、その顔をマジマジと見つめた。


一見、ギャルっぽいノリで適当なことを言っているように見える彼女であるが、その実、これまでの言動をまとめてみると、その行動原理にはしっかりしたものがあり、中身はとても真面目な女の子である。


それに彼女には、僕は借りがあるのだ。


「……まぁ、君には帝国で、僕の仲間が勇者たちと戦っているのを助けてもらった恩がある。絶対に悪用しないと誓ってくれるか?それなら渡すよ」


「ほんとォ!?誓う誓うゥーー!!!嬉しいィィィィィ!!!!!」


大喜びの山吹月見が、瞳を輝かせて僕に抱きつこうとした。しかし、僕はそれをサッと避けた。何やら非常にショックを受けた様子の彼女が、暗い声で尋ねる。


「……ねェ、なんで逃げるのォ?」


「いや……だって山吹さんに触られるとエネルギー持ってかれるって……」


「だァーーいじょうぶよォーー!吸いたい時しか吸わないからァーー!ほらァ、ガネくんにくっついても平気でしょォーー?」


「ちょっ!それだけの問題じゃないって!!!離れて!」


次に僕に飛びついてきた時には、魔王らしい速度で僕に回避などさせる余裕も与えず、問答無用で僕の胸に顔を埋めてきた。


ギュッと抱きしめられた感触と彼女の髪からフワッと漂う香りが、嫁さんとするいつものハグと違って、新鮮味がある。ちょっとドギマギしてしまった。


だが、これはヤバい。もしもこんな状況を嫁さんに見られたら、世界が終わってしまうかもしれない。


慌てて引き離そうとするのだが、そもそも僕程度の人間が、魔王の腕力に敵うはずもない。為す術なく、僕は『飢餓の魔王』を抱擁することになった。


そして、そこにもう一人の女性の声が響き渡った。


「ちょっとツッキー、何してんの?」


なんとそれは嫁さんではなかった。

僕の宿敵のような女性。『幻影の魔王』ディモルフォセカであった。


「桜澤!……さん!」


思わず僕は彼女の名を叫ぶように呼んだ。講義室の正面の脇にある、講師が出入りする入口から、彼女は姿を見せたのだ。


しかし、こちらに足早に近づいて来る彼女は、どういうわけか、僕に抱きついている山吹月見に死んだような目を向けている。


「私の白金くんに、何してんの?」


「待て。君のじゃない」


「え、いや……えと……ごめん。ちょっと調子に乗ってました」


桜澤撫子の嫉妬に燃えた目を見てビビった山吹月見は、ギャルっぽい言動も忘れて真顔になり、僕から離れた。


久しぶりに再会した桜澤撫子は、改めて僕と向き合うと、何やら照れた様子で、モジモジしながら顔を斜めにズラし、視線だけをこちらに向けて、上目遣いでハニかんだ。


「……一ヶ月ぶりくらいだね。白金くん」


「あ、あぁ……」


なんだコレは。

本当に何なんだコレは。


昔、付き合った恋人か?


冗談じゃないぞ。殺し合った覚えはあるけどな!


だいたい、人を騙しておいて、危害を加えておいて、なんでそんなにかわいい仕草ができるんだ!この女は!


と、心の中ではツッコミの嵐なのだが、何と言ってよいのかわからず、僕は言葉を詰まらせた。


すると、ここで最高の助け舟が来た。


「蓮くん!!!撫子っ!!!!」


今度こそウチの嫁さんだ。

僕の戻りが遅いので、心配して見に来てくれたのだ。


「げっ!百合華ちゃん!」


講義室の後ろの扉から入ってきた彼女を見て、桜澤撫子は脅えるように叫んだ。


「そこから離れなさい!!!!」


叫ぶや否や、嫁さんは瞬時に移動して、僕の前に立っていた桜澤撫子にパンチをお見舞いした。


ブンッ!


しかし、以前と同じように空振りに終わった。僕の宝珠システムによるターゲット補正を使用しなかったため、認識を錯覚させられてしまったのだ。


「こわっ!こわぁーーっ!今、”認識ズラし”に成功してなかったら、私、殺されてたよねーー!」


「ちっ!」


命拾いして胸を撫で下ろす桜澤撫子と、悔しそうに舌打ちする嫁さん。

そんな二人を見て、ワクワクするのは山吹月見である。


「やっばい!やっばい!修羅場、修羅場、修羅場ァーー!」


「こっちはこっちで、めちゃくちゃ楽しそうだな『飢餓の魔王』……」


あまりの緊張感の無さに僕は呆れるばかりだ。


一方、桜澤撫子を睨む嫁さんは、僕を護るように彼女の前に立ち、厳しい言葉を投げかける。


「なに勝手に蓮くんとしゃべってんの?」


「えぇーー、白金くんが誰としゃべろうと自由じゃなーーい。それとも彼が人と話すのに、全部、百合華ちゃんの許可が必要なの?」


「あんただけは別よ!二度と蓮くんの前に立たせはしない!」


「やだぁーー、百合華ちゃんって、夫を束縛する女なんだぁーー。白金くんが可哀想ぉーー」


「うっさいのよ!この泥棒猫!」


ダメだ。口喧嘩では嫁さんは桜澤撫子に敵わない。このままでは、建物を破壊してでも彼女を殺そうとしてしまうかもしれない。


僕はここで勇気を出し、あえて二人の間に割って入った。


「百合ちゃん、百合ちゃん、一回、落ち着こう。彼女たちは、今は敵じゃないみたいだ」


「いや、だって蓮くん……」


「あと桜澤さん、頼むから百合ちゃんを煽らないでくれ。マジで。本当にマジで」


「はぁーーい」


なかなか引き下がる気持ちになれない嫁さんに対し、なぜか僕の言葉を嬉しそうに受け入れる桜澤撫子。その素直さが、かえって不気味でもある。


「百合ちゃん、いいね?」


再度、僕は嫁さんに言い聞かせた。彼女としても、今、目の前にいる魔王二人が敵意を持たないことは重々承知であるはずだ。僕以上にその気配を感じ取っているのだから。


しかし、それとは全く別の問題で、嫁さんは不満なのである。そして、彼女は僕に無理難題を突き付けた。


「じゃあ、蓮くん、ここでチューして」


「…………え?」


「撫子の目の前で、チューしてよ」


「いや……それは……構わない……けど…………」


「し・て・よ。チューを」


躊躇する僕に嫁さんはグイグイと迫ってくる。こちらとしては、嫁さんとキスするのに抵抗があるはずもないのだが、さすがに日本人女性二人が見ている前でするのは、気が引けるというものだ。


一方で、桜澤撫子は、僕と嫁さんのやり取りを、引き攣った顔で見ている。


「へ、へぇーー。す、すればいいんじゃない?べ、別に、い、今の奥さんと白金くんが、目の前でどんなにイチャついたって、わ、私には、か、関係ないことだもんね」


どう見ても、無理している顔つきと声色だ。


何やら桜澤撫子の僕への執着心には異常なものがある。ここで嫁さんとのキスを見せびらかした場合、確かに嫁さんの気は晴れるだろうが、今度は桜澤撫子の逆鱗に触れてしまうのではなかろうか。


もしもこんな場所で、『世界最強の勇者』と『幻影の魔王』による、本気のバトルが再燃してしまったら、僕を含め、アカデミーはどうなってしまうのだろうか。


『嫁』と『恋敵』に挟まれ、緊張感に苛まれる僕は、硬直してしまった。僕はなぜ、このような究極の二択を迫られることになってしまったのか。


「ゆ、百合ちゃん……」


「ほら、蓮くん、んっ!」


僕が嫁さんがの名を呼ぶと、彼女は目を瞑って顔を突き出し、桜澤撫子に見せつけるようにキス待機した。


こうなったら覚悟を決めるしかない。どちらの女性を取るかと言われたら、僕が選ぶのは、100%嫁さんなのだから。


僕は静かに彼女に顔を近づけた。


「ちょ、ちょーーッと待ってェーー!なんか、おかしくなァーーい?ここにはワタシもいるんだよォーー?」


だがしかし、ここで間に入ってくれたのは、山吹月見であった。さすがに桜澤撫子の表情がヤバいのを見て取り、慌てて介入してくれたのだ。


こうした時、第三者の視線を再認識することは、頭を冷やす効果を得られるものである。嫁さんは、素に戻って僕から離れた。


「あ……そか……」


また、山吹月見は桜澤撫子にも近づき、苦言を呈す。


「なで子もなで子だよォーー!アナタ、本気で人んちの家庭、壊す気でいるのォ?それはさすがに異常だってェーー!ワタシも一人の女としてェ、看過できないよォーー!」


「ご……ごめん。ツッキー」


桜澤撫子も彼女の言葉には素直である。やはり『飢餓の魔王』は、ギャルっぽい言動とは裏腹に、中身はとても良識ある女性であった。というか、桜澤撫子というメンヘラ女より、よっぽどいい子だと僕は賛嘆したい。


落ち着きを取り戻した嫁さんは、このギャル魔王のことを改めて見つめ、彼女に声を掛けた。


「……あなたが山吹月見ちゃん?」


「うん。そうだよォーー」


「帝国の時は、シャクヤちゃんとラクティちゃんとストリクスを助けてくれたんだってね。ありがと」


「どういたしましてェーー」


受け答えながら、山吹月見は何気なく右手を差し出した。それに応えて嫁さんもその手を握る。二人の美少女が笑顔で交わした握手。ところが、この裏には、常人では計り知れない激しい攻防が繰り広げられていた。


山吹月見が感嘆の声を漏らす。


「す、すごい……ワタシがエネルギー吸収できない……」


「本気でやったら、『半沢直樹(ばいがえし)』してたとこよ。そしたら、月見ちゃんの方が干乾びてたわね」


「アハハハァ……握手しただけで負けを認めるしかないなんてェーー。ホントに強いんだねェ。ユリッペ」


「わ。その呼ばれ方、久しぶり。若い頃、よく言われた」


「じゃあ、これからユリッペね」


「よろしくね。月見ちゃん」


二人はこれだけで打ち解けたようである。もともと友達作りは得意な嫁さんだ。何となく僕も安堵した。


ところが、そう思ったのも束の間、ここで桜澤撫子が余計な口を挟んだ。


「でも、百合華ちゃん。さっきツッキー、白金くんに抱きついてたわよ」


「あ?」


その瞬間、死んだ目になった嫁さんが右手の握力を強めた。途端に山吹月見が悲鳴のような声を上げる。


「いっ!痛い痛い痛いィィィ!!!ユリッペ痛いよォーー!!!」


これはあまりにも可哀想だと思ったので、僕は嫁さんを制した。


「ゆ、百合ちゃん、アレはそういうんじゃないから、勘弁してあげて」


「あ?」


「怖い怖い怖い!百合ちゃん、目が怖い!」


ところが、嫁さんの怒りは僕にまで飛び火した。身も凍るような目つきで彼女から睨まれると、僕も脅えるしかなかった。


結局、山吹月見は、右手が若干、腫れ上がるまで握り締められることになり、涙目になってから解放された。


可哀想なことに、『飢餓の魔王』ブーゲンビリアは、世界最強たるウチの嫁さんと握手しただけで半ベソをかかされ、心折られたのであった。


僕は謝罪の意味も込めて、その場で携帯端末宝珠を一つ作成し、彼女にプレゼントした。


「やったァーー!!!ありがとォーー!!!ガネくん!超超超!大事にするねェーー!」


彼女は喜びのあまり、携帯端末宝珠に何度も口づけしていた。




さて、なんとか諍いなく話ができそうな雰囲気になり、ようやく魔王二人が僕の前に現れた本題に進められると思った。


「……で、桜澤さん、君から会いに来たってことは、何かあったんじゃないのか?」


「うん。実は、”大賢者”のヤグルマギさんが行方不明なの」


「「えっ!?」」


その告知に僕と嫁さんは仰天した。

桜澤撫子はさらに続ける。


「私がここを旅立った後に、どこかに行ったきりみたいで……」


「どんなに捜しても見つからないと思ってたら、そもそも”大賢者”はここにいなかったのか!」


「ううん。私もそう思って、心当たりを捜し回って来たんだけど、どこにもいなかったの。だから、たぶんこの街のどこかにいるんだと思う。この街だからこそ、捜し出せないっていうか」


「桜澤さんも同じ状況か……」


「こっちに戻ってきたら、白金くんたちの噂で持ちきりだったから、講義室に行けば会えると思って、ここまで来たのよ」


彼女からの情報には驚きの連続であった。実を言えば、アカデミーに”大賢者”を亡命させた張本人である桜澤撫子に尋ねれば、いつでも彼の居場所を特定できると踏んでいた。しかし、それをやらなかったのは、できるうる限り彼女の力を借りたくないと考えていたためだ。


ところが、それ以前の問題で、彼女ですら、行方不明になった”大賢者”を今まで捜索していたというのだ。


こうなると、いよいよ僕としては、アカデミー内に張り巡らされた結界のようなモノを問題視しなければならない。


「なぁ、桜澤さん、この街を覆っている不思議な磁場みたいなモノ。これは何なんだ?これさえなければ、僕のレーダーで検索することができるんだけど」


「コレね……もともとは『地の精霊神殿』で施している術式の影響で、ある程度、気配感知が阻害されてたんだけど、ここまでひどくはなかったのよね。それが、今年のある時期から、急に強くなったの。理由は私もわからないわ。何度も留守にしてたから」


「どうにか、ならないか?」


「『地の精霊神殿』に忍び込んで、原因を突き止めるしかないわね。でも、今の私は、自由に出入りできる権限がないの。昔と仕組みが変わっちゃってるから」


「君の能力なら、簡単に侵入できるだろ?」


「そうなんだけどね……今は逆にこのお陰で、ツッキーが堂々とアカデミーにいられるのよ。そうじゃなかったら、達人クラスの人に気配を悟られちゃうかもしれないでしょ」


「そうか……」


確かに桜澤撫子の言うとおり、この磁場のようなモノのお陰で、僕たち一行に加わっている魔族も牡丹も、その正体に誰も気づくことがない。


仮にこの街に敵がいるとして、こちらが相手に気づけない代わりに、向こうもこちらを捉えることはできないのだ。つまり、利点が無いわけではない。この磁場を解除する手段があるとしても、それを行うのは、完全に手詰まりになってからでも遅くないかもしれない。


それを踏まえた上で、桜澤撫子は現状の行動方針を明らかにした。


「ということで、まずは先に手がかりを全て当たってみようと考えてるの」


「手がかり?」


「私が最後に会った時、あの人は、大神官エニシダに抗議しようとしてたのよ」


「抗議って、どんな?」


「内容は知らないわ。だから、これから、あの教授に話を聞くつもり」


「それは好都合だ。僕たちも付いて行っていいかな?」


「もちろんよ」


ある意味、これは僕にとっても渡りに船である。大神官エニシダと接触する口実が、まさかアカデミーに長年滞在する桜澤撫子によって、もたらされるとは。


”大賢者”の捜索も兼ねているわけであるから、これを手伝わない手は無い。


僕は、ちょうど昼食前であったことを思い出し、すぐに仲間たちに連絡を取った。


「シャクヤ、すまない。僕と百合ちゃんは急用が出来てしまった。牡丹がお腹を空かせてるだろうから、先にみんなで食事に行っててくれないか?」


『そうでございましたか。かしこまりましたわ。お気をつけて』


大人数で押しかけるわけにもいかないので、娘の面倒は仲間たちに任せることにした。


そうして、僕と嫁さんは、桜澤撫子に案内され、山吹月見と共に大神官エニシダの自宅兼研究室に向かった。


彼の屋敷と言えば、僕たち夫婦にとっては、他の懸念もある。道中、そのことを桜澤撫子に何気なく相談すると、彼女は真剣な顔で聞き返した。


「……え、その友達になったプリムラって子、エニシダ教授のとこに通ってるの?」


「そうなんだ。だから心配してるんだけど……」


「それは止めた方がいいわね。あのエニシダって大神官は、ちょっとでもかわいい子を見つけると、誰でも自分の研究室に入れて、パクリといっちゃう変態なのよ。私もできる限り会いたくないと思ってるくらいのセクハラ親父なの」


これを聞いて、嫁さんがドン引きした。


「や、やっぱり私……昨日、力ずくでも止めるべきだったね。何を遠慮してたんだろ……」


しかしながら、今さら悔やんでも仕方がないとも思う。あれだけハッキリ拒絶されたのだから、それを無理やり制止するというのは、友人として、余程の覚悟がなければ、できることではない。


語っているうちにエニシダの屋敷に到着した。桜澤撫子が、玄関で使用人に挨拶すると、直ちに執事がやって来た。


「こんにちは。ヤグルマギ研究室の撫子です。エニシダ先生にお伺いしたいことがあるのですが」


「これはこれは。ナデシコ様、おひさしゅうございます。どうぞ中へ。我が主は、今は研究室に籠っておられますが、ナデシコ様のお名前を告げれば、顔を出されることでしょう」


なんと顔見知りである彼女は、すんなり中に通された。僕たちも同行者として、一緒にお邪魔した。当主であるエニシダが研究室から出てくるまで、応接室で待つことになった。


使用人の一人がお茶を運んできた。


その時だった。



「きゃあぁぁーーーーーーっ!!!!!!」



突如として、屋敷内で女性の甲高い悲鳴が響き渡った。


「「えっ?」」


すぐさま立ち上がった僕たち一行は、胸騒ぎがして声の方角に向かって走った。こういう時、何気なく僕を守るように嫁さんが先頭を走る。


階段を駆け上がり、2階の廊下を見ると、ある部屋の前で尻餅をついているプリムラがいた。彼女は試験会場にも訪れず、ここに来ていたのだ。


「プリムラちゃん!どうしたの!?」


心配した嫁さんが声を掛けながら近寄った。

だが、プリムラはそれに反応することもできずに震えたまま一点を凝視している。


「あ……あ…………あ………………」


彼女が静かに指差した方角。

それは開いたままの扉の向こう側。


大神官エニシダの研究室である。


僕もそこに合流し、中を覗いた。

その扉の先には、我が目を疑う凄惨な光景が広がっていた。


床に仰向けに倒れた血まみれの成人男性。

血しぶきによって、真っ赤に染まった室内。

漂う異臭。


高位の神官服を着用したその男性が死亡していることは、宝珠システムで解析する必要のない程、一目瞭然であった。


その遺体には、顔が無かったのだ。


……いつから学園ラブコメだと錯覚していた?

ということで、ここから学園ミステリーが始まります。(ラブコメ要素も消えませんが)

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