第282話 噂と憶測
アカデミー最上位の学生たちを総称した尊称、『プリンス・ファイブ』。
そのメンバーの1人が、ラージャグリハ王国の第一王子クインスであることまでは聞いたが、残りのメンバーについても僕たちは聞き出していた。
貴族学生のバジルが2人目を答えた。
「まず代表として挙げられるのが、シュラーヴァスティーの大統領のご子息」
「へぇーー」
3人目を剣術部員ペンタスが語る。
「次に、理事長先生の嫡男。つまりローズマリー嬢の兄君」
「なるほど。それはイケメンだろうな」
4人目は貴族令嬢学生ジャスミンが告げた。
「そして、イマーラヤ帝国の先帝の弟君であり、現皇帝”ハルジオン13世”の叔父にあたるというお方よ」
つまりは女帝アイリスの叔父ということだが、この意外な情報を理解できなかった嫁さんが小声で僕に聞いてきた。
「あれ?蓮くん、どういうこと?」
「ほら、あの国は6年前に政変があってアイリスが即位したでしょ。その時、帝位継承権を持つ先帝の弟2人が反旗を翻した。そのうちの1人だよ」
「あ、そっか。戦いに負けたから皇帝になるのは諦めて、こっちに来て学生してたんだね」
「思ってたより若いってことが僕の驚きだけどね」
ということで、4人目についての疑問は晴らすことができた。僕は話の続きをバジルに問いかける。
「で、最後に5人目は?」
「5人目は、魔王を倒すために精霊神殿に遣わされたという勇者様だよ」
「「えっ!!!」」
これには僕も嫁さんも、いや、牡丹を除く僕たち一行の全員が度肝を抜かれた。まさか堂々とアカデミーで有名人になっている勇者が存在するとは。
思わず嫁さんは立ち上がって尋ね返した。
「こ、ここにも勇者がいるの!?」
「ここにも……とは?」
「あっ……えーーと……」
嫁さんの反応に貴族令嬢学生マーガレットが不思議そうな顔をする。これに嫁さんは言葉を詰まらせてしまった。それを見かねたラクティフローラがすかさずフォローする。
「我が国には、魔王デルフィニウムを討伐した勇者ベイローレルがおりますので、こちらの国にも勇者様がいらしたことに、とても驚かれていらっしゃるのですよね?」
「そ、そう!そういうことよ!さっすがラクティちゃん!」
だが、僕としても、この事実には首を傾げざるを得ない。これまでの旅路を考えるならば、納得いかない点が多々あるのだ。
「ちょっと待て。こっちに勇者がいたのなら、どうしてそいつは魔王デルフィニウムの件で名乗りを上げてくれなかったんだ?友好国なんだから、情報は届いていただろうに。討伐対象じゃないからか?」
「ん?どういうことだ?シロガネくん?」
「あ……いや……」
これまた不可解そうな顔で聞いてくるバジルに僕も言葉を濁した。
そもそも一般的には、魔王だけでなく、勇者が異世界から召喚された事実も知られていない。わずかにおとぎ話の中で、他の世界から降臨した、と記述されているくらいなのだ。
ゆえに普通の人々にとって、勇者とは”世界の英雄”であると同時に、どこかからやって来て、どこかへ去って行く謎の存在として、認識されている。
”勇者列伝”という授業を受けてみても、勇者と魔王による戦争の歴史が数多く遺されているが、勇者の出自と最期については一切記述が無いのである。
まぁ、この点は、現代社会の教育においても、教科書に載っている偉人は功績のみが語られるため、その出身地や晩年の様子を知っている人間の方が少数派なわけだが。
そして当然ながら、勇者召喚には討伐対象の魔王が設定されている、という事実も一般人が知るはずもないのである。
バジルたちからすれば、勇者の存在をここまで分析しようとする僕の方こそ、異質に見えることだろう。
「こちらのお国にも勇者様がいらっしゃるのであれば、是非ともお会いしたいものでございますね」
ここで、シャクヤがいつもより弾んだ声で、勇者ファンとしての意見をニッコリと述べた。彼女らしいセリフで、僕と嫁さんが作ってしまった変な空気を回収してくれたのだ。
「あはは。そうだね。勇者様がこの学園にいるなんて感激だよ」
「だねぇーー。カッコいいね」
僕たち夫婦は笑って同意することで誤魔化した。
学園生徒トップ層の『プリンス・ファイブ』についてはどうでも良かったが、日本人の勇者がここにもいるかもしれないことがわかったのは大きな収穫であった。
その後もしばらく彼らと談笑し、昼食の時間は過ぎていった。
僕が懸念している”殺人鬼魔族”の噂についても聞き出した。ただし、アカデミーの学生たちは、そこまで気にしていない様子だ。
「あぁ……そんな感じの通り魔事件が先月、起こったよな。でもまぁ、首都から派遣された騎士団も調査しているみたいだし、大丈夫じゃないかな」
「それに、王国の第二王子ヘンビット殿下も王国騎士団を呼んだそうですわ」
「イザって時には、わたしたちは剣術部員のペンタスが守ってくれるわよね?」
「もちろんだ。魔族ごとき、オレの剣の錆にしてくれるよ」
バジル、マーガレット、ジャスミンは呑気に構え、名指しされたペンタスは自信満々に胸を叩く。
どうにも学生というものは、現実を正しく見据える力に乏しい部分があるが、貴族家出身の彼らは、それに輪をかけて能天気だ。魔族という存在の脅威をここまで甘く見積もる人間を、僕はこの世界に来てから初めて見た気がする。
これに心配したダチュラが低い声で忠告した。
「一人のハンターとして、君たちに言っておきたい。魔族を甘く見るのは命取りだ。もしも出会ったら、一目散に逃げろ」
「「はぁーーい」」
「「………………」」
マーガレットとジャスミンはウットリした表情で返事をしたが、他の男性陣は、少し煙たそうな顔で、小さく頷いた。
そして、最後にアカデミーに慣れていない僕たちにとって、学生としての重要な情報も得られた。
「ちなみに試験って、どんな感じなの?」
「まぁ、授業で習ったことをしっかり覚えた上で、自分で論じられるようにすれば、大抵は合格できるよ」
何気なく尋ねた嫁さんの質問に、キザな学生エボニーが答えたのである。だが、これに嫁さんは首を捻った。
「え……自分で?論じる?」
「うん……ん?何か、おかしなこと言ったかな?」
再び会話が噛み合わない現象が起きた。嫁さんとしては、試験に対するアドバイスをもらおうとしたのだが、出題傾向や暗記ポイントなどの話ではなく、予想外の返答が来て、唖然としたのだ。
この瞬間、僕の頭の中で、瞬時にこの世界の実情が思い浮かんだ。思わず、身を乗り出して聞いてしまった。
「もしかして!試験って、全て、論文形式なのか?」
「えっと……ごめん。それ以外の形式の試験って何があるんだ?」
エボニーは呆気に取られるばかりである。
僕は重大な事実に気づき、嫁さんに力強く告げた。
「なんてことだ!百合ちゃん!あとで特訓しよう!論文を書く練習を!」
「ちょ、ちょっと待って!どういうこと?」
動揺する彼女の手を取り、僕は席を立って店内の隅に向かった。嫁さんと密談するためである。
「百合ちゃん、落ち着いて聞くんだ。ここでは、たくさんの設問が並んでるような、僕たちの知ってる試験問題は出ないんだよ。選択式とか記述式とかを問わず」
「え、え、……え?」
「全ての試験が、論術式の試験なんだ」
「えぇーーーー!!!!」
驚愕した嫁さんが青ざめて叫んだ。
これは無理もない。物事を論述するということは、普段からやっていたり、過去に練習した経験が無い限り、一般的には、急にやれと言われてもやれるものではない。
かつて僕が会社の新人教育を任された時、入社したばかりの大卒の新人に研修日報を書かせても、ただの感想文が提出される、というケースが何度かあった。文章の内容に”課題”も”分析”も”具体性”も無いのである。大卒ですら、そうなる場合があるのだ。
まして短大に通った経験がわずかにあるだけの高卒の嫁さんに、いきなり論文を書けと言っても悲鳴を上げる他ないであろう。
「……て、ていうか、なんでそんなことになっちゃってるわけ?試験内容が厳しすぎない?そんなに私たちに単位を取らせたくないのかな?」
嫁さんは絶望に満ちた顔でドン引きしている。僕は彼女の気を落ち着けるために理由を解説した。
「考えてごらん。問題を作るのって、実は教師の立場からすると意外と大変なんだけど、その完成した問題用紙をどうやって学生の数だけ用意するんだ?」
「え?それはもちろん印刷とかコピーで…………って、あぁーー!!!」
「でしょ?問題用紙をコピーできないんだよ。印刷技術も無いんだから」
「ってことは、試験問題をどうやってみんなに知らせるの?」
「おそらくは黒板に書くんだ。”なになにを説明せよ”とか、”こうなる理由を述べよ”って感じの問題をね。そうすれば解答用紙もただの紙で済む」
「だから論文テストになるんだ!それ、大学とか短大で、たまにあるヤツじゃん!」
「それがこっちでは日常茶飯事なんだよ」
「どうしよ!私、論文なんて書いたことないよ!」
「そう思ったよ。帰ってから特訓しよう。僕が教えてあげるから」
「りょ!頼りにしてます!旦那様!」
理由がわかれば安心するというもので、表情の和らいだ嫁さんは、了解のポーズをしながら、僕にくっついた。席に戻るとバジルが心配して声を掛けてきた。
「あのーー、どうしたのかな?」
「いや、何でもない。今の話、先に聞けて助かったよ。ありがとう」
「ははは。よくわからないことで褒められたな。シロガネくんたちは面白いね」
感謝の意を伝えると、キザな学生エボニーも笑っていた。
そうして昼食の時間は過ぎ、僕たちは午後の講義に向かうことになった。
「じゃあ、また!シロガネくん!そして、みんな!」
「ああ。またな」
「「ごきげんよう」」
バジルを筆頭に優雅に挨拶した貴族学生たちは、僕たちとは違う方向に去って行った。彼らは、今は午後の講義を取っていないらしい。
「……思ってたより、いいヤツらだったね」
次の講義がある教室棟に向かいながら、僕は感想を漏らした。これが、今の僕の率直な意見であった。
彼らは、僕たちに対しては非常に親切である。心から慕ってくれている雰囲気も感じられ、得られる情報も実に有意義であった。それだけを見れば、とてもよい友人に思えた。
「そだね……。なんとなく引っ掛かるトコもあったけど」
「……?」
しかし、嫁さんの顔には、妙に暗い影があった。彼女は、直感で何かに気づいているようだが、まだ具体的にその正体を掴むには至っていないらしかった。
この日は、午後の授業を淡々と済ませ、帰途についた。
ベナレスの我が家での夕食時、やはり話題はアカデミーの勇者の存在になった。嫁さんが軽い調子でその話を口にした。
「それにしても、まさか、あの街にも勇者がいるなんてね。やっぱり日本人なのかな?」
「『地の精霊神殿』で召喚された日本人。……ありえない話では全く無いね」
僕も自身の見解を述べる。すると、ラクティフローラが相槌を打ちながら、もう一つの推測を語った。
「その場合、呼び出したのは、十中八九、大神官エニシダ殿でしょうね」
「いつ呼び出したのか。討伐対象は誰なのか。是非とも会って聞き出したいな」
「あの教授に近づく理由が、また一つ追加されましたわね」
王女と互いに頷き合う僕。ところで、個人的には、もう一つツッコみたいことがあった。
「ていうかさ、メンバーに勇者がいたら、『プリンス・ファイブ』って、本当に戦隊ヒーローみたいじゃないか。5人揃って魔王と戦ったらどうなんだ」
これに嫁さんが楽しそうに乗っかる。
「あはは。誰がレッドなのかも決めてほしいね」
「でもなぁ……。イマーラヤ帝国と違って、シュラーヴァスティーは、もとからラージャグリハ王国との友好国なんだ。やっぱりデルフィニウムの時に名乗りを上げなかったのが気になる。ラクティは何も聞いてなかったのか?」
「ええ。当時のわたくしがそれを知っていましたら、確実に王国に招聘していたはずです」
僕の疑問に王女が答えてくれたが、それを聞いて嫁さんがおかしそうに当時を述懐した。
「そうよねぇーー。ラクティちゃん、勇者大好きだったもんねぇーー」
「い、今はお姉様一筋ですわ!」
恐縮する王女に僕は現状の推理を述べてみた。
「……考えてみれば、王国は異世界勇者が存在しないと断定したから、ベイローレルを勇者に仕立て上げた。つまり、共和国にも勇者がいるはずはないと踏んでいたんだ。ということは、この国の勇者は、アカデミー内でだけ有名になっていて、共和国としても存在を認識していない可能性があるね。どうしてそうなったのかは知らないけど」
「なるほど。……だとしますと、国からの依頼ではなく、召喚者が独断で『勇者召喚の儀』を行った可能性がありますね。通常では考えられないことですが」
「うーーん……腑に落ちない点が多々あるけど、今はこれ以上、詮索してもキリが無さそうだ。本人を捜した方が早いかもね」
「ですわね」
とりあえず共和国の勇者については、話を打ち切ることにした。だが、ここで嫁さんが現状の課題として、急に真面目な意見を言うのだった。
「問題なのは、あの街に勇者がいるのに、この私が全く気づかないってことだよ。やっぱり不便な所だね。あそこは」
「敷地面積としてはベナレスよりも狭いのに、危機が迫っても何もわからない。今まで訪れた、どの地域よりも、アカデミーは危険な地と言えるな」
「だね」
「みんな。これからは、アカデミー内での単独行動は厳禁とする。必ず誰かと一緒に行動するように。いいね?」
僕の指令を聞いて、一同は一斉に深く頷いた。
この後、嫁さんのために論文テストへの対策勉強を行ったが、これにはダチュラも参加した。彼女もまた、物事を論述するなど、全く経験のない普通の女子であった。二人とも泣きながら勉強していた。
さて、この後も一日一日と学園での日々を僕たちは過ごしていった。
シスルとプリムラについては、全く疎遠になってしまい、講義室で最前列にいるのを見かける以外では、顔を合わせることすら無くなっていた。
大神官エニシダの講義終了後にラクティフローラが声を掛けに行く作戦も、常に人気者である僕たちは、あっという間に学友たちに包囲されてしまい、身動きが取れなくなって失敗する。
そうしたことを繰り返すうち、無駄に数日が経過してしまった。
講義7日目の翌日は、エニシダの講義は休講であり、ついに8日目となる11月13日となった。
この日を逃すと、残る14日で全講義日程は終了し、最終日の15日は試験日となる。
ここで、痺れを切らしたラクティフローラが妙案を思いついた。
「お兄様、よくよく考えましたら、真面目に講義を受ける必要はありませんでしたわ。わたくしとピアニーは、今日の講義中、講師が出入りする脇の入口の外で待機することに致します。講義終了後に、そこでエニシダ教授に挨拶しますわ」
「あ。言われてみれば、そうだね」
この案には僕も目から鱗が落ちた。何も学生だからと言って、講義を最後まで忠実に受けなければならない理由は無かったのだ。
「ごめんね、ラクティちゃん。授業内容は蓮くんと一緒にノートに取っておくからね。なんなら”スマホ”で録画もしておくね」
「ていうか、ぶっちゃけ、ラクティとシャクヤには不要な講義だしね」
申し訳なさそうな嫁さんと共に僕は王女たちを送り出した。
彼女たちは、講義が始まる直前から、宣言したとおりに計画を実行した。こっそり裏口から回ることで、他の学生に見つからずに講義室の脇に待機することができた。
やがて講義が終了する。早速、講義室から出てきた大神官エニシダに王女は声を掛けた。
「エニシダ先生、ごきげんよう」
出待ちしていたかのように登場した2人の美少女を見て、彼は目を丸くした。だが、その容姿があまりにも綺麗なため、女好きの彼は、怪しみつつも、決して無下にすることはなかった。
「何かね、君たちは?……見かけない顔だな?」
「わたくし、ラージャグリハ王国が国王、ソルガム・アジャータシャトルの娘であり、”大賢者”ヤグルマギ・クシャトリヤの孫でもあります、ラクティフローラと申します」
「なっ!!!」
彼女の名を聞いた途端、エニシダは度肝を抜かれたように警戒心を露わにした。それでも、ラクティフローラは優雅な笑みと仕草でシャクヤを紹介する。
「そして、こちらにいるのは、イトコのピアニー・クシャトリヤです。是非ともご高名なエニシダ先生にお話を伺いたいと思いまして」
言われたシャクヤは、静かにペコリとおじぎをした。
だが、大神官の口から出た言葉は、二人の予想外のものだった。
「西の王国の王女殿下から、直接お声掛けいただけるとは光栄の極み。しかし、申し訳ありませんが、私からお話するようなことはありません。それでは」
「え……?」
意外なことに、初めこそラクティフローラとシャクヤの美貌に関心を寄せたエニシダであったが、あっさりと別れを告げ、そそくさと逃げるように去って行った。
これには、王女たちも呆気に取られた。
「どういうこと?……好色な人物だという話だったから、てっきり私の美貌でイチコロだと思ったのに」
「今の気配、何か隠し事をしているようにも感じました。レン様に相談致しましょう」
シャクヤの進言どおり、いったん戻ることにした二人。ところが、この時、彼女たちのすぐそばにある出入口から飛び出し、足早にエニシダを追いかけて行く女子学生がいた。
「あら……?あの子はプリムラ?」
「エニシダ様を追いかけていかれますね」
「後を付けてみるわよ」
プリムラの行動を怪しんだラクティフローラは、シャクヤと一緒に彼女を追いかけることにした。
教室棟を裏から出たプリムラが向かった先は、二階建ての古い洋館であった。
そこは精霊神殿のすぐ近く。
大神官エニシダが居住し、研究室として使っている建物である。
アカデミーの教授は、それぞれ自身の研究室を与えられているのだが、地位の高い者は一軒家を持ち、自宅兼研究室としている。使用人も雇っており、もちろん関係者以外立ち入り禁止だ。
特にセキュリティ意識の高いエニシダは、アポの無い訪問者は全て門前払いするらしい。
僕たちが、これまでにこの地を訪れなかったのは、それが理由である。ここを正面から訪問するのは最終手段ということにしていた。
「あの子、エニシダ教授と何か関係があるのかしら?」
不審に思ったラクティフローラであるが、ここで事を急いで、問題を起こしてしまってはいけないと考える。
すると、ちょうど建物の近くで、おしゃべりしていた貴族家出身の男子学生の声が聞こえた。
「なぁ、あそこって、確かエニシダ教授の研究室があるトコだよな?平民の小汚い女子が入って行ったぞ」
「さすがはエニシダ教授。好き者だよな。貴族令嬢だろうが、農民だろうが、気に入った女なら、誰にでも手を出すらしいぜ」
「ま、そのお陰で、農民ふぜいが研究室に入れるんだ。持ちつ持たれつだよ。土臭い農家の女なんて、カラダ売るくらいしか能が無いのさ」
ヘラヘラと笑いながら話している彼らを、王女は遠くから横目に見ながら、ムスッとした顔でシャクヤに告げる。
「なんか私、あの人たちを殴ってきたいんだけど」
「ダ、ダメでございますよ!ラクティフローラ!」
半分は冗談なので、王女はシャクヤの制止をすぐに受け入れた。そして、エニシダの自宅兼研究室を見ながら、ラクティフローラは嘆息した。
「普段の私なら、ここからでも、あの子の気配を探れるのに、この街では、どの部屋に入ったのかもわからない。ほんっとに不便よね」
愚痴をこぼす王女の横では、シャクヤがプリムラ本人の身を案じている。
「プリムラ様のお顔がドンヨリされておられましたので、わたくし、少々、いえ、かなり心配でございますわ」
「でも、これ以上は、しょうがないわね。今日のところは戻って、お兄様にお知らせしましょ」
”聖王女”と”姫賢者”は、気になりつつも調査を終了し、僕たちと合流して、この件を伝えてくれるのであった。




