みんなアイ$
僕の放ったドロップキックは、前世パワーのなせる技だ。
なぜか大したダメージはないが、技の見た目だけならアニメにも劣らない派手さがある。
シュン!シャッ!ドンッ!といった具合だ。
いやドンドコ?どどっどどん?ど……僕のマンボウ以下の表現はともかく、僕のドロップキックは凄まじのだ。
避けるのなんて、超人でもなければ無理なはずだ。
しかし――
「あらあら、おいたはダメよ」
――母さんはそれを片手で止めた。
いや違う。いつの間にか平凡な中年女性の姿は消えており、代わりにいたのは銀髪オッドアイの美少女だった。
僕は驚愕し、思わず叫ぶ。
「誰だ!母さんを返せ!僕の母さんは小ぶりを主張するオデブさんだったんだぞ!あのカバみたいな尻は魅力的だ!わかるか!ってよく言われたんだ!」
「あら、誰がそんなことを言ってたのかしら?」
びっくりするほど鋭い眼光が僕に突き刺さり、そこで気づいた。
あ、これ母さんだ。
姿違うが、あの鋭い眼光は、父さんを折檻するときのそれに違いない。
僕の背中を冷たい差がつつぅっと伝い落ちた。
母さんは普段は温厚だが、それは怒ったときの凶暴さの裏返しでもある。普段静かな人ほど、ためている怒りは大きいのだ。
そして母さんは、それが通常の人間の1万倍ぐらいあった。
(まずい怒らせた、えっとえっとえっと……)
デブやなんだと言ってたのは近所に住む浪人生のガジタさんだが、あの人には恩がある。人形決戦兵器のプラモデルをくれたのだ。だから売れない。
つい口走ってしまった言葉の出口を探して、僕は高速で頭を回転させた。
その結果ーー
「と、父さ…ん…」
「そう」
ひときわ鋭い眼光を放った銀髪オッドアイ美女になった新マザーは、離れて暮らす父のことを思うかべているのだろう。
遠くの空を見上げ「覚悟しておくことね」とつぶやいた。
それからしばらくして、その鋭い眼光を収めた母さんは「びっくりしたでしょう?」と僕に微笑みかけた。
「あ、うん。なんか人の運命が決まる瞬間を目にしてびっくりしたよ」
「なによそれ」
新マザーはクスクスと笑うと「ちょっとルッカちゃんに頼んで、若返りの薬をもらったのよ」とのたまった。
いや母さんそれ若返り違う。
改造や。
髪の毛、体型、背丈、顔、声……遺伝子の八割は改造さてる。もう原型残ってないよ。
そうは思っても口には出さない。
僕は懸命な人間なのだ。
変わりに口から出たのは、僕の純粋なる疑問だった。
「母さんはなんでまた若返ろうと思ったの?別にあのままでも良かったでしょ?」
「あら嬉しい。でもやっぱり女性は若返りたいものだし、それにね」
「それに?」
「ルッカちゃんが一人で芸能界いくのって心配じゃない?だから母さんも一緒にアイドルしようかなって。それに夢だったのよ」
新マザーはそう言って、恥ずかしそうにはにかんだ。
きっとそれを聞いた僕の目は、一瞬のうちにサキュバスに生気を吸い取られたおじいちゃんみたいな目になった。
いや夢は夢でも夢物語にしておいてよ、もう学校どころか自宅周辺数百メートルですら歩けないよ!
僕はそう思いつつも「頑張ってね、母さん」と声に出した。
再度告げよう。僕は懸命な人間なのだ。




