賑やかな宴
(──あれから二百年か……)
ゾギアとゲオルグを倒し、ラトゥリアの街へ帰還し……
リューマたちは、街を襲った魔族の討伐完了をギルドに報告し、二十万ゼリンという多額の褒賞金を受け取った。
で。今はその金で、討伐祝いの宴を開いているわけだが……
「アゼリアさん! フリフラ鳥の丸焼き、おかわりお願いします!」
「ちょっとフリム。さすがに食べ過ぎよ。これじゃあ褒賞金があっという間になくなるじゃない」
「ふっ。強靭な肉体は食事から生まれる。現代の勇者として、君には負けないぞフリム!」
「あなたは無理しないで、ユーリス!」
宿屋『アルヘナポルク』の酒場兼食堂にて。
フリムとミレイユとユーリスが、賑やかに食事を楽しんでいた。
その様を眺め、リューマは思う。
まったく。どうして人間は、揃いも揃って宴好きなのか。
ルドヴィグたちも、何かにつけてしょっちゅう宴をしていた。
その後、二百年の間に出会った様々な客も、ハイベルグの街で出会ったバッカスも……
皆、喜びを分かち合い、称え合うのが好きだった。
「あんたら……あんな戦いを終えた後だってのに、元気だな」
頬杖をつきながら、リューマは呆れたように言う。
するとフリムが、握ったフォークをぐっと掲げ、
「もちろん! むしろ頑張ったからこそ、お腹が減って仕方がありません! そういうリューマさんは元気ないのですか? はっ。もしかして、見た目よりもおじいちゃんだから、年齢による疲れが……?」
「誰がおじいちゃんだ、失礼な。まだピチピチだわ」
ジトッと睨み、ツッコむリューマ。
しかしフリムは、怯むどころかにこにこと笑い、
「リューマさん、ぜんぜん食べていないじゃないですか。このお肉、とっても美味しいですよ? どうぞ食べてください!」
「いや、俺は大丈夫だ。あんたらで食え」
「ならばその肉は僕がもらおう! 何故なら強靭な肉体は食事から生まれ……」
「その話はもういいから。っていうかユーリス、あなたお腹がはち切れそうよ⁈」
なんて、再び騒ぎ始めるので……
賑やかな三人を残し、リューマは静かに、宿を出た。
しんと冷えた、夜の空気。
見上げた空には、銀色の月が昇っている。
……モンスターに成り果てたはずの魔族が、知性と力を取り戻した。
それを手引きしたのは、〈新たなる王〉と呼ばれる存在だという。
そいつは一体、何者だ?
モンスターを魔族に戻し、何を企てている?
ヤツらは、強い武器を求めているようだった。
いずれまた『魔神器』を狙いに、リューマのもとへ刺客を放ってくるかもしれない。
そうなれば、きっと……フリムたちを再び危険に晒すことになる。
「………………」
リューマは、顔を上げる。
そして、振り返ることなく、街を去ろうと──
──足を踏み出した、その時。
「リューマさんっ!」
後ろから、フリムに呼び止められた。
リューマは驚き、振り返る。
するとフリムが、ミレイユとユーリスと共に、彼のもとへ駆けてきた。
「どこに行くんですか? お祝いはまだ始まったばかりですよ?」
首を傾げ、尋ねるフリム。
リューマは少し躊躇ったのち……こう返す。
「……俺は、ここにいるべきじゃない」
「え……?」
「魔族に戻った連中が、武器を狙ってまた現れるはずだ。ここにいる限り、あんたらを危険に巻き込んじまう。だから……」
「だから、なんです?」
フリムは、リューマの言葉を遮って、
「だからこそ、一緒にいるべきじゃないですか!」
真っ直ぐに、言った。
意図がわからず戸惑うリューマに、フリムはずいっと近付き、
「わたしたちは強いんですよ? それを認めてくれたのは他でもない、リューマさんじゃないですか。絶対、一緒に戦うべきです!」
「しかし、これは俺たち魔族が起こした問題で……」
「魔族も人間も関係ないですよ! わたしはリューマさんに、この街にいてもらいたいんです!」
そして、フリムは柔らかに笑って、
「言ったでしょう? わたし、『貸し武器屋リューちゃん』がないと困っちゃうんです。まだまだいろんな武器をお借りしたいですし……スタンプもぜんぜん貯まってないですしね」
さらに、ミレイユが続けて、
「あなたがいれば、魔族の方からやってくるのでしょう? ふふっ、またレアな素材を手に入れるチャンスだわ……それに、あなたが貸し出す長杖や、魔族の精神を吸い込んだあの木箱にも興味があるの。勝手にいなくなられたら、わたしも困るわ」
「リューマ! 次は僕に勇者の〝聖剣〟を貸してくれ! いつかきっと、あの剣に認められる『真の勇者』になってみせる! それまで、どこにも行くなよ!」
ユーリスまでもがそんなことを言う。
リューマは、ぽかんと口を開ける。
それから……その口を、ニッと吊り上げて、
「……仕方ねぇな。それじゃあ……もうしばらく、この街にいるとするか」
満更でもない内心を隠さずに、そう答えた。
フリムは嬉しそうに微笑みながら、リューマの手を引く。
「ほらほら。お店に戻りましょう、リューマさんっ。お食事がいらないならお酒はどうですか? 今夜は褒賞金ですべて奢ります!」
「言ったな? それじゃあ、アンブル蜜酒を樽でもらおうか」
「って、それめちゃくちゃ高いお酒じゃないですか!」
「そうよ! 樽で頼んだらいくらするかわかったものじゃないわ!」
「それと、あんたら全員、追加の武器代を徴収するからな」
「む。途中で武器を替えたこと、忘れていなかったのか?」
「当たり前だろ。褒賞金使い切る前にきっちり支払えよ?」
「うわーん、リューマさんの守銭奴ー‼︎」
静かな夜が、賑やかに染まる。
酒場へと誘うフリムたちを見つめ、リューマは──
──嗚呼、俺もたいがい宴好きになったな。と……
一人自嘲しながら、『アルヘナポルク』の扉を、そっと閉めるのだった。
一区切りついたので、一旦ここで完結とします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
まだまだ書きたいエピソードや、解決させたい本題、明かしていない設定など山ほどあります。
何より、キャラクターたちのことが大好きになってしまったので、またいつか続きを書きたいです。
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