仮面の中の美女
【餓狼団】と揉め事を起こした【紅蓮の月】パーティーは、完全無罪とはいかなかった。
報告書の提出と、一週間の謹慎が決まった。
謹慎と言ってもほとぼりが冷めるまで、外出を控えた方が良いとの判断から来ている。
Aクラスパーティーを一人で全滅させた。
その噂は広まり勧誘や牽制など、騒動が落ち着くまでの冷却期間に当たる。
証拠に街の中でもVIP待遇のホテルの部屋が宛がわれ、そこで掛かった費用は全てギルド持ちであった。
ただそれは別の思惑もあった。
あるダンジョンで魔物達が活性化していた。
もしかしたらダンジョンのランクが上がり、弱い魔物が弾かれ溢れ出る可能性があった。
それか……魔物の大量発生のスタンピートの可能性があった。
その調査と、出来ることなら原因の排除も兼ねて【紅蓮の月】の二人が特別措置でギルドに指名された。
他にもSランクパーティーがひとつ選ばれている。
そのパーティーと一時合同でダンジョン調査をすることになったのだ。
これは事前にギルドマスターと協議して決めた事だ。
その情報が漏れない為の隔離でもあり、その為にギルドが費用を負担している。
ただしケチ臭い事に、値段が天井知らずのワイン代は自腹となっていた。
二人は最上階に程近い部屋を宛がわれ、身の回りの世話をする使用人も一人近くに待機していた。
二人は部屋に入ると
「アリエッタ。貴女からお風呂に入りなさい。
私は後で入りますから……」
「師匠が先に……」
「無駄な問答です。
私を師匠と崇めるなら、先にお風呂を頂きなさい」
そうしてアリエッタは一足先に、浴室のお風呂に浸かった。仮面はしたままで、メイドに全てを任せた
「お名前を教えて……それと自由な発言を許すわ」
「私はサラと申します。ではひとつお言葉に甘えて……。
アリエッタ様。冒険者とは思えない美しい裸体です。
失礼とは思いますが……いえ、それ以上は言葉が過ぎました」
ここのメイドは部屋主の許可があれば言葉を交わせる。
無ければ無言のまま奉仕する。
『自由な発言』とは常識の範囲内で質問をも許すと云うこと。[使用人以上お友達未満な関係]でいましょうという意味合いもある。
メイドのサラはアリエッタの輝く白い裸体の余りの美しさに心奪われ、思わず口に出してしまった。
過度な質問は出身を尋ねる事にもなり、途中で出過ぎた行為と気付き修正したのだ。
アリエッタは浴槽に身を沈め、身体をサラに委ね洗われながら答えた
「貴女の察した通り貴族出身よ。
成人近くまでは何不自由なく生きてこれたけど、父が騙され莫大な借金を負わされ爵位を返上したの。
わたしは妾として売られるところだったけど、逃げ出したのよ。信じられる?わたしを妾に所望したのが、元婚約者の父親よ!傲慢で欲深く意地汚い男。
婚約者なら百歩譲って妾になっていたかもしれないけど、あの幼少の頃からわたしを色目で見ていた肉の塊には抱かれたくなかったから、逃げ出したわ。
そんなわたしをみかねて助けてくれたのがマーリンよ。
わたしの命の恩人で、今は世間知らずな私に常識も教えてくれる素敵な師匠よ」
「では……その仮面も?」
アリエッタはサラにも素顔を晒すつもりはない
「わたしを探している者がいる。それが誰だか言わなくても分かるわね?
ここダンジョンの街はどの貴族の領地ではないわ。
名目上は皇帝に帰属しているけど自治が認められている。ここではわたしは捕まえられない。
でも拐う事は出来るでしょう?
だからわたしはここで力を磨き、自衛出来るように己を鍛えているの。
元の身元がバレたくないのよ。折角自由を手に入れたのですもの!満喫しなくちゃ!でしょ?」
サラは今の答えで満足した。
実は没落貴族の冒険者は多い。だが多くの者達は食い詰めて仕方なく冒険者稼業に従事する者がほとんどだ。
そんな者達は元貴族のプライドがあるのか、使用人や冒険者を内心馬鹿にしていて傲慢な態度を取るものも多い。
けれど目の前の元貴族令嬢は、威張る事もなく、淡々と冒険者の自由を満喫し堂々としている。
こんな使用人に身の上話をしてくれるのも、好感が持てる
「それにね。嫌味に聞こえるかもしれないけど、わたしって相当な上玉らしいわ。師匠に仮面を被らされているのも、もちろん正体を隠す意味合いも有るけれど、この類い稀な美貌を血に餓えた野獣共に晒さない意味合いも大きいのよ」
そう言って冗談めかして髪をかき上げた。
サラは納得している。
この美しい身体の持ち主に相応しい美貌をもっているだろうと……。もしここで素顔を晒し、わたしが誰かにその美しさを洩らしてしまったら、このアリエッタ様にも危険が及ぶかもしれない。
【餓狼団】の件もある。このダンジョンの為に生まれた冒険者の街は常に危険とも隣り合わせだ。
その後。
サラは備え付けの部屋着の着替えを手伝い、部屋を後にした。
一時間後に食事はここへ運ばれる手筈となった。
運び入れて配膳をするのもサラの仕事だ。
サラはそれまての一時間、自由時間を貰った。
部屋には必然的にアリエッタとマーリンの二人切りになる。
用意済のティーセットを楽しみながら、二人はフカフカのソファーに身を沈めている。
そしてマリーンは仮面を取った。
切れ長の目の整った容姿の美女の素顔がそこにあった。
侵しがたい女神像を彷彿させる、彫像のように完璧な美しい顔。
瞳はエメラルドのように煌めいている。
そしてアリエッタも仮面を取った。




