紅蓮の月
「おい!あれを見ろよ」
「ん?まさか……あれが噂の!」
ここはグランドロス帝国の南、セルフィア王国の国境と程近い街ヤーベ。
街の規模は小規模ながら、周辺には未踏破ダンジョンが幾つも存在するダンジョン攻略の為に生まれた街。
冒険者ギルドに宿や武器、防具、魔法、道具、情報……冒険者に必要なありとあらゆる店が揃っている。
そして冒険者が増える毎にそれに合わせて規模も大きくなっていく。
数年後には倍くらいの規模に成るかも知れない。
そこの夜の食堂兼酒場へ、多くの冒険者達の耳目を集める存在が入って来たのだ。
赤い疾風アリエッタ
青い氷刃マーリン
二人組の冒険者。
今は外套で覆っているが、フードは被っていない。
二人共お面で顔は分からない。
アリエッタは金色に微発光する無地の仮面。
マーリンは同じく無地の仮面で、こちらは銀色の微発光。
ふたりが醸し出す雰囲気から、只者でないオーラが滲み出ている。
アリエッタは赤い疾風の異名を持つだけあり、赤い。
真紅の頭髪に、赤い騎士服。
魔剣でもあるレイピア使い。
戦い方は至ってシンプル。
圧倒的な剣技とスピードで相手を翻弄し、いつしか致命傷をあたえる。
対個人戦に特化している感は否めないが、並の冒険者相手なら複数人相手でも遣り合える。
豊かな胸と細い腰。プロポーションは申し分なく、赤い長髪を風に靡かせ戦う様はまるで、舞い踊っているようだ。
もう一人は青い長髪の女。こちらも仮面をしている。
魔法使いであるが、杖を改造した短槍使いでもある。
たがあくまで主力は魔法。
氷刃の異名通り魔法で氷の刃を複数展開し、縦横無尽に操って魔物と渡り合う。
他の攻撃魔法も申し分なく、更に回復魔法まで使いこなすエキスパート。
二人だけのパーティー名は【紅蓮の月】。
攻略が簡単なダンジョンは二人で潜り、難関なダンジョンはその都度パーティーメンバーを募集し、補充するスタイル。
二ヶ月前にこの街に現れて新規冒険者登録を済ませたばかり。最低のビギナークラスであるFランクから実績を積み上げ成り上がり、今はCランクだ。
冒険者ギルドには、公認の冒険者パーティーのランク制度がある。
ランクの低い順から、簡単に見立ててみる
[Fランク]初心者や駆け出し者
[Dランク]半人前
[Cランク]ようやく一人前
[Bランク]熟練
[Aランク]一流
[Sランク]超一流って感じ!
それぞれ星マーク【☆】が付く。
【☆】───そのランクになったばかり。
【☆☆】──ようやくこのランクが板についてきた。
【☆☆☆】─熟練!もうすぐ上のランクにあがれるぜ!
[Fランク]パーティーで見てみると
【☆】初心者
【☆☆】駆け出し
【☆☆☆】もうすぐ半人前
[Sランク]は特殊で、それ以上ランクが上がらない代わりに、☆のマークが最大で五つつく
【☆】超一流
【☆☆】超超一流
【☆☆☆】国家的
【☆☆☆☆】伝説的
【☆☆☆☆☆】神話的
☆が3つ以上になると名声があがり、吟遊詩人もこぞって取り上げる程の人気パーティーになる!
上記が冒険者パーティーの振り分け。
冒険者個人は色で分ける。
ギルドから個人の実績や業績にあわせて、六角形のバッチが支給される
下から
[緑と黄色の半々]ビギナー。別名初心者マーク
[緑]半人前
[青]ようやく一人立ち
[紫]ちょっとした実力ついた
[赤]熟練者
[黒]信頼に足る者
[銅]自慢できる!
[銀]燻し銀!威張れる
[金]VIP扱い!尊敬される
[白金]超VIP扱い!人気者!有名人!
公式には名称の後にバッチを付けるが、誰も呼ばない。
例えば黒バッチの冒険者なら[ブラックバッチ冒険者]ではなく、[ブラック冒険者]と呼ばれる。
それからメタル(銅~)からは[メタル持ち]とも呼ばれ、ギルドの個室を利用でき対応も桁違いに良くなる。
街や都市の各種宿泊所でも優遇される。
複数パーティーのリーダー格になる。
貴族からも頻繁に依頼が来る。
国からも名指しで依頼が来る。
まだまだあるけど、冒険者なら誰もがメタル以上を目指すといっても過言ではない。
例え[銅]メタルでも憧れの対象である。
因みにメタルでない者達を[ノーマル]と呼ぶ。
ノーマル冒険者みたいな感じで揶揄される。
つまりは微妙ってこと。
でも中にはメタルの実績があっても、わざわざノーマルで止める者も多い。
目立ちたくないとか理由は様々だが、メタル以上になると指名クエストが増え、煩わしいと感じる者が多いからだ。
話が逸れたが、この飲み屋に入ったアリエッタ達【紅蓮の月】は未だ[Cランク☆☆]で個人マークも[紫]である。
しかし注目度が高いのには訳がある。
FランクパーティーからCランクまで上げるのに、並のパーティーなら定期的に数をこなしてをやっと一年以上も掛かるのが普通。
でもこの二人は、二ヶ月足らずで上りつめた。
更にメタル持ち冒険者の多くが彼女達の実力をメタルに匹敵して、パーティーも[Sランク]の力は要すると口を揃えて言う。
つまりは【紅蓮の月】の正式メンバーになれば[Sランク]パーティー、更にはメタル持ちになるのも夢ではないと云うことだ。
彼女達は素顔を誰にも晒したことはないが、その佇まいから相当の美形が予想され、勧誘が絶えない。
その今をトキメく大注目パーティーが 酒場に来たので、ざわつきだしたのだ。
ここに【餓狼団】という、馬鹿なネーミングの野郎だらけのパーティーがいた。
ランクはA☆で皆[黒]……ノーマルだ。
一応Aランクには片足突っ込んでいるが、今は依頼をこなせず放棄したり、胸を張って威張れるほどの実力は有していない。
盾一。戦士二。斥候一。魔法使い系二の六人編成でバランスは取れているが、パーティーの実力でAにいると言うよりは個人スペックがそこそこ高かったからゴリ押しで成ったようなもの。
今の調子じゃ、Sランクなんて夢のまた夢。
このところ失敗続きで正直Aランク維持すら危うい。
そんな崖っぷちの男臭いパーティーには、まだCランクの【紅蓮の月】の二人は自分達の成り上がりに相応しいカモに見えた。
酒も入っていたこともあるだろう。
【紅蓮の月】が席に着くと同時に、餓狼団の面々は立ち上がり二人の女子を囲んだ
「何用だ」
氷刃のマリーンが、二つ名どおり冷たい声を発する
「おいおいおいおい……怖いねぇ。話があるだけだ……」
「断る」
マリーンは察して防衛線を張る
「まだ何も言ってねぇだろう?
俺たちと組まねぇかって話だ」
「だから。断ると言った」
馬鹿は断られると分かっていなかったらしい
「女だからって優しくしてやりゃ付けあがっ……」
ここで男の口が止まる
──動けないのだ──
口だけではない。
囲んでいる六人全員の体がピクリとも動かない……。
時が止まったようなその光景を、酒場の者達も飲み食いを放棄し見守っていた……。




