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番外編 マルタと娘(中)


その日から、イチは私と住みはじめた。

イチは大人しく、言うがままに手伝ってくれた。


ホントはゆっくりと休ませたかったが、きっとじっとしていると死んでしまった【死の円舞団】の仲間の事を思い出してかえって辛い思いをする考えた。

私もじっとしていると、娘を思い出して泣いてしまう。


それにしてもイチがいてくれて良かった。

居なかったら、もしかしたらこの宿屋も閉めていたかも知れない。

今はイチが私の生きる希望になっている。


無口で無表情なイチが時々笑ってくれたり、ポツリと自分の事を話してくれると嬉しくて思わず抱き締めてしまう。


抱き締めるといえば、私は毎日イチと裸で抱き合って寝ている。

イチが自分の裸の模様に必要以上に心を痛めないように、私のように受け止めてくれる人もきっといると示してあげたかった。

ううん。私がイチの全てを大好きだと表現してあげたかった。


もしかしたら私は死んだ娘のルナと重ねているのかもしれない。でもきっとルナが私にイチを引き合わせてくれたのだと思う。

ルナが死んだからそのままだったら私はきっとボロボロになって壊れてしまう。

それが分かっているから優しい娘のルナは、この私よりも【死の円舞団】という家族のような仲間を一度に失った悲劇の少女を与えてくれた。

こんな……娘の死を誰に慰めて貰っても心が癒えない私が、イチの世話をして生きる喜びを感じていた。



ある日【死の円舞団】の生き残りを探す兵士達が現れた。あちこちで手がかりを探しているという。

ここの常連さんも従業員も、私が口を噤んで話さないのにイチを団員だと知っているようだった。

でも誰一人兵士達にイチを話さなかったし、売らなかった。


あの夜、何もしなかった兵士達は全ての責任を円舞団の生き残りに被せようとしていた。

奴らはあの襲撃の時、亀のように引き込もっていた。

今は我が物顔で街を彷徨くハイエナのような者達のだ。


誰もが皆クリオ伯爵直属の兵士達を軽蔑し、英雄【死の円舞団】に感謝していた。

彼らがどうしてイチを残して全滅したのかわからない。

ただ三体ものジャイアントを倒したのは確かで、恐らくグレーターデーモンも命を懸けて退けたのだろう。

皆そう噂していた。


そうそうイチは宿屋の仕事にも慣れてきた。

そしてダーレルの街が半壊して、これから先どうしようと不安だったのに、復興の為に人が集まり賑わいと活気を増した。

イチが気を使って従業員の宿に移ると言い出した。

毎日遅くまで働く私を気遣ったのだ。

私はもちろん却下した


『だってもうイチの温もり無しでは眠れないもの!』


それに……イチを一人で眠らせてはいけない。

イチは毎晩のようにうなされた

「私を殺して」「怖い」「死にたくない」「助けて」

急にブルブル震えて、そんな寝言を口にしたりしていた。

私はそんなイチをギュッと抱き締め優しく頭を撫でながら、魂に届くように何時もこう囁いた


「あなたがどんなに辛くても私が傍にいてあげる。

あなたは一人じゃない。

そして私もあなたが居てくれるから、こうして生きて行けるの。ずっと寄り添って支え合って生きましょう。

それに……あなたはとっても心優しい美人さんだから、きっとあなたに相応しい素敵な殿方が現れますよ」


ホントはそんな人、現れて欲しくない。

娘としてずっと傍に居て欲しい。

でも今は私の執着や寂しさを埋めるだけのピースではなく、イチの幸せを願えるようになった。

こんな素敵な娘が不幸のまま終わっちゃいけない。

きっと絶対!イチを幸せを共に生きる殿方が現れる。


私はそう信じている。


でも……。


少しづつイチの顔は曇っていった。


何か心の中に抱えているようだった。


イチが来てから1ヶ月程経ったある夜、ベッドの中で何時ものように裸で抱き合っていたとき、イチは私に言った


「マルタさん。お母さんと呼んでも良いですか?」


私は驚き、そして歓喜した


「ええどうぞ!お母さんと呼んで!

さあ!」


イチは笑うと私と向かいあって抱きつき、胸に顔を埋めて


「お母さん。ありがとう。

お母さんが居てくれて、わたしは今日まで生きてこれました。どうぞ……わたしを忘れないでください」

「忘れる訳ないわ。あなたはもう私の娘よ。

なんなら明日、役所に行ってホントの親子になりましょう」


イチは私の胸の中でコクンと頷いた


「そうなったら……嬉しい」

「じぁあ。明日の朝一番に御粧(おめか)しして役所へ行きましょう。

そしてご馳走ならべて、従業員のみんなとお祝いしましょう!

そういえばイチ。誕生日が分からないって言っていたよわよね。

親子になった記念に、明日をイチの誕生日にしましょう!いいわ!凄くいい!そうしましょう!

ねえ。イチ。どう?」


イチは黙って私をもっともっと強く抱き締めた。

嗚咽を漏らして泣いていた。




──次の日の朝。イチは消えていた──




私の手にはイチの髪の毛が一房、握らされていた。









「殺して」等の寝言の大半は、リリスとの夜中の特訓のトラウマだと思います。


因みに毎日二時間。

夜中に抜け出して特訓して半殺しの目にあってました。


その間マルタさんは、魔法で更なる深い眠りに付いております。マルタさん。事情知らないから、誤解してますね(^-^)

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