同じ男に嫁ぐだなんて……
ここはとある宿屋。
グレイ一行はある場所を目指して旅をする途上だ。
本来ならばそこまでデモスの背に乗れば3日も掛からず着くだろう。
でもそこまでの道中、歩いて行くと決めた。
マレーヌの元旦那でシェリルの父である男が、『家族で二週間旅行しよう』と計画していたのを思い出した。
生前には叶わなかったが、今回〈新婚旅行〉という名目で道中の景色を楽しみながら旅を続けている。
意外だがシェリルは生まれてこのかた、村と近くの街以外に行き来したことはなかった。
元の父親とは街へ遊びに連れて行って貰うのが、楽しみだった。好きなオモチャや可愛いお洋服を買ってくれたから。
だからこれがはじめての旅行である。
ちなみにマレーヌは冒険者時代があったので、旅慣れている。
宿屋一階の食堂では、朝御飯が並べてある。
ここにはマレーヌとシェリル。リーダとイチとデモスがいる。
デモスは相変わらず執事の格好をしている。
もちろん羊の角は健在だが、イチと共に幻視の魔法をかけているのでどちらも羊角は人間の目からは隠してある。
何故だかしれっと当たり前のように仲間になった
「そろそろグレイさんを起こしますね」
シェリルが席を立つと、二階からゾロゾロとグレイ御一行様が降りてきた。
シロエとクロエに手を引かれたグレイと、遅れてリリス。リリスは何だか顔が赤い。
それを見てマレーヌとシェリルの母娘は顔を見合わせて嬉しそうに微笑んだ。
みんなが揃ったところで朝食となった。
そそくさと朝食を済ませ、今はまったりとコーヒータイム。デモスはコーヒーをえらく気に入り
「この黒々とした飲み物は何だ?旨いな」
「えっと……コーヒーですよ。私はカフェオレにして飲むのが好きです。
もしかしてデモス。コーヒーは初めてですか?」
イチは意外そうな顔をデモスへ向ける。
デモスはイチのカフェオレを取っ替えして一口飲む
「一万年生きてきて初めてだ。いつもはダンジョンの奥深くにいたからな。
我は黒いままが好きだ。
なんとも味わい深く良い香りもする」
「一万年なんて凄い冗談ですね」
マレーヌが笑う。
マレーヌとシェリルはデモスがグレーターデーモンであることは知らない。
【跳ねる子馬亭】の外で何があったのか、知らされていない。故にグレーターデーモンのことは知らず、知っていてもデモスと同じとは考えもしないだろう。
〈余計な事は知らぬ方が良い〉
それがリリスの方針だ。
デモスはリリスとルルワにずっと仕えている執事と伝えてある。
リリスはクロエに席を譲って貰い、グレイの隣にいる。
二人とも顔が艶々としている
「さすがねシェリル。
昨日ね『そろそろリリスさん帰って来そうだから、お部屋に私達がいたら邪魔だと思うの』ってね。
シェリルが私に言うのよ。半信半疑だったけど、妻の勘て凄いわね。
お二人とも。いつご結婚為さるのかしら?」
「えっ?ますたと。りりす。けっこん。するの?」
「マスタ。と。リリス。どうして。けっこん。スルノ?」
マレーヌの言葉に、結婚に憧れているシロエとクロエが食いついた。リリスは頭をポリポリ掻き
「いやー。ボクらはまだ結婚するつもりはないんだ。
いろいろ事情があってね。
ただご察しの通り、あんなことやこんなことするかも知れないけどね。でも夫婦の君たちを差し置いて独占して楽しむつもりはないよ」
「夫婦だなんて……シェリルはそうですけど、私とグレイさんはそんなんじゃ無いですよ」
マレーヌは否定する
「あーあ。それなんだが……」
グレイは腰に結わえてある魔法の袋から小さな箱を取り出した
「開けて見てくれ」
グレイから受け取った小箱を開けるマレーヌ。
同じデザインのサイズ違いの指輪が並んでいる
「素敵な指輪……これ下さるのですか?」
「ああ。アズラに作って貰った。
遅くなって済まない。結婚指環だ」
「えっ!」
マレーヌはそう言うと固まった
「でも私……グレイさんとはそんなつもりは……。
ダメですよ結婚なんて……」
「嫌なのか?」
「嫌とかそういう事じゃなくて……。
私とシェリルは親子なのですよ。
親子が揃って同じ男に嫁ぐなんて、やっぱりダメです。
グレイさんもどんな目で見られるか……」
マレーヌは俯き、声が震えている
「マレーヌ。俺は聞いた。
『俺の女になるのか?』と。
お前はそれを受けた。
お前は紛れもなく俺の女だ。
俺の女は俺の嫁にすると決めた。
お前も例外ではない。
お前は俺の女で俺の嫁だ。
お前が他の男になど抱かせん」
「例え結婚しなくても、他の男には抱かれません。
でもそれとこれとは……やっぱり親子で結婚は……」
─やれやれ
リリスは首を振った
「マレーヌ。
いつまで下らない事を気にしているのさ。
グレイから先に『俺の女になるか』と聞いたのだろう?
ならシェリルの母だろうが親子だろうが、グレイはマレーヌを一人の女として生涯を添い遂げる決めたんだ。
考えてご覧。グレイはマレーヌがシェリルの母だから結婚しようとする訳じゃない。
マレーヌという女と結婚するんだ。
これから魔王になろうって男に、今更下らない人間の倫理観や貞操観念を持ち出さないでくれる?
マレーヌ聞くよ?
君はシェリルの母としてグレイが好きなのかい?
それともマレーヌ個人としてグレイが好きなのかい?」
「それは勿論」
マレーヌは顔を上げて胸を張った
「マレーヌとしてグレイさんが好きです!」
「なら決まりだ。マレーヌ。お前は俺の妻だ。
シェリル。お前は嫌か?」
「嫌な訳ないでしょう?あなた。
嫌なら初めから反対しております。
マレーヌ共々末永くお願い致します」
「よし。それならば何の障害もないな」
そしてマレーヌの持つ小箱から、小さなサイズの指輪を取り出すとマレーヌの左手の薬指につけた
「これでマレーヌは晴れて俺のだ。
今度は俺をマレーヌのにして貰えないか?」
「はい。喜んで……」
マレーヌは大きめのサイズの指輪をグレイの左手の薬指につけた。
シェリルとの結婚指環と重なり、フィットしてまるで一つの指輪のように見える
「これで俺達は夫婦となった。
マレーヌ。お前も人に聞かれたら『グレイの妻』だと堂々と名乗れ。
俺も『俺の妻だ!手を出すな』と言えるからな。
それと結婚式と披露宴は、目的地に着いたら執り行おう。良いな」
「はいお任せします。それから末永く……可愛がってください」
マレーヌの顔が真っ赤に茹で上がる。
リリスはそんなマレーヌを見てニヤリと笑い
「はいはーい!今日は早いけどお開きってことで!
もう一泊しようじゃない?
でも今日の分の遅れは取り戻さないといけないから、明日は早くに宿をでるよ。
という事で……」
リリスはグレイの手を掴み、マレーヌの手に握らせる
─えっ?ちょっと?何ですか?
困惑するマレーヌとグレイの手をとったリリスは、その手を引っ張って階段のところまで誘導する
「ちょいと早いけど、今から初夜ってことで……。
という訳で行ってらっしゃい!」
ぐいっと二人の背中を押す
「心配しないで!誰にも邪魔はさせないから。
ごゆっくりどうぞ」
「もう!リリスさん。からかわないで下さい!」
真っ赤な顔で恥ずかしがるマレーヌの肩を抱いたグレイ
「じゃ。行こうか奥様」
「えっ?はい。その。えっと……。
お手柔らかにお願いします」
そして二人で階段を昇り、部屋の中へ消えた。
それからお昼になるまで、部屋の中から艶っぽい声がずっと聞こえていたとかいないとか……。
ただ部屋から出たとき……マレーヌの顔も艶々としていたのは間違いない。
お昼を終えると、二人はまたすぐ部屋に引っ込んで……。
一応。
あの日以来
二人はにゃんにゃんしていなかったで
マレーヌさんは、はっちゃけました
ベッドの上でね……




