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成れの果て


クリオ伯爵は二階の執務室へ戻っていた。


早朝。日が昇って間もない時間帯。


執務室には執事とメイド長の二人が呼ばれていた。

年配の執事の髪は白く長年クリオ伯爵家に仕えてきた年数を表している。

そして横に細い眼鏡を掛けた、40代のメイド長も何事かと訝りながらもクリオ伯爵と向かい合っていた


「急な話だ。これから大事な客が来る」

「万事出迎えの準備をいたします」


執事は頭を下げる


「いや。いい。

人に見られてはマズイ客だ。

分かるか?

分からなくても良い。

だからお前達、屋敷の人間を1人残らず外出させよ。

人をやってもう宿は抑えてある。

迎えの辻馬車も着いた頃だろう。

今夜は帰って来るな。

これから来る客に会ったら命は無いと思え。

今から1時間以内にこの屋敷を出よ!

早くせい!」


執事とメイド長は早々に部屋を退去した。

直ぐに実行に移さなければ間に合わない。

二人は手分けして作業に当たった。


それから1時間後、執事は報告を兼ねて執務室に再訪した


「人払いは出来たか?」

「万事旨く計らいました。

残っているのはわたくしとメイド長他、ほんの数人の者達です。

いつでも出立の準備は出来ております。

伯爵様のご用意も済ませてあります」


伯爵は首を振り


「いや。ワシは良い。それよりもお前も早くこの場を去るのだ。

分かるな?

これからこの屋敷へ訪れる者はとてもワシやお前達でどうこう出来るヤツでは無い。

早く逃げよ。

化物のようなヤツラだ」


「あら嫌ね。誰が化物ですって?」


執務室の窓がいつの間にか開かれ、風に煽られカーテンが吹き込む。

その窓辺に青紫の顔の女が立っていた。

髪や唇は赤紫でほぼ裸体のような姿をしている豊満な美女だ


「まっ。魔族ですか?!」


執事は驚く。

魔族と接触する事は王国の法に反する。

バレたらお家断絶も覚悟しなければならない。

もし伯爵の会う相手がこの魔族だとすれば、急な人払いも納得出来る。

伯爵はその魔族を見て震えている


「なぜワシに会いに来たのだ?

一体お前は何者なのだ?

ワシにどうしろと言うのだ?」


「あらやだ。何も覚えが御座いませんこと?

貴方が送った兵隊さんに襲われたせいで、わたくしこんな姿になりましたの。

そのお礼がしたくてせっかく罷り越しましたのに、連れないお方」


魔族の女は伯爵の顎を撫で回している


「兵隊が襲った?

そうか!グレーターデーモンの傍にいたリリスという女は貴様の事か?」

「わたくし?とんでもないわ!

わたくしなんてリリス様の足元にも及びませんわよ。

それより先程のは冗談ですわ。

わたくしこの姿気に入っておりますの。

それより……わたくしの使い魔の報告は聞きまして?」


「ああ。あのガーゴイルのことだな?

聞いた。ワシと取引したいそうだな?

何だ?聞いてやる」


そのガーゴイルズがクリオ伯爵の影から現れる。

手の平程の大きさでゴブリンに翼を生やしような、命を拭き込まれた動く石像だ


「いえね。伯爵。わたくしの物、返して欲しいだけですの。せっかく目を掛けて育てておりましたのに、熟した果実が収穫前に盗まれて仕舞いましたわ」

「なっ?何の事だ?

果実なぞ知らんぞ!」


「あら?ホント?おかしいわね。

貴方の手の者に拐われたと報告が上がっておりますが?

金髪で胸の大きな娘ですわ。

これからサキュバスにするので、リリス様に献上しようとしてましたのに……返して頂けないかしら」


伯爵はギクッとした


「知らん!そんなヤツは知らんぞ!

ちなみにもしその女がいたとして、女の身に何かあればどうなるのだ?」

「どうなるって?もし傷ついていてら貴方にも同じように目にあわせて差し上げますわ。

死んでしまったら……言わなくても分かるわね?

隠しだてせず、さっさと渡して貰おうかしら?」


「しっ知らん!そんな女は知らん!」

「怪しいわね。まあ。記憶を覗かせて頂きますわ」


女は伯爵の額に自分の額をくっつけた


「あらやだ。貴方!何て事を仕出かしてくれたのかしら?

あんな命令をして、もう生きていないのでは無くて?

酷いわ。あんまりよ。

これじゃあリリス様に罰を受けて仕舞いますわ」

「許してくれ!知らなかったのだ!

何でもする。領地の女なら誰を連れていっても構わん。金もやる!だから……」


伯爵の言葉はそこで止まった。

顎の下に置かれた女の指先が、二重顎を貫き脳天まで達している。

伯爵の両目両耳、鼻や口から同時に血が流れた


「ひっ!」


主人の絶命する様子を見せられ、執事は腰を抜かした


「あらやだ。坊や。まだ居たのかしら?

そうね。わたくし。この豚を殺せて気分が良いの。

見逃してあげても宜しくてよ。

今から十数える間に消えて下さるかしら?

ひとーつ。ふたーつ……」


「ひっ!ひぃー!」


執事は這いつくばりながら、()()うの体で部屋を出ていった。


顎から脳天を貫かれ絶命した筈の伯爵の目が動いて魔族の女を見た


「いつまでこうしているつもりかな?リーダさん」

「いえね。こんな経験出来るなんて。もっと余韻に浸っていたいのよ。

それでは失礼致しますわ。リリス様」


リーダが指を元へ戻すとクリオ伯爵の肉肌がボコボコ蠢き、リリスの姿になった。

何時もの紫のメイド服だ


「それにしても女を育てていたというのは無理があるんじゃない?リーダ、君は一応生まれたばかりでしょう?」

「あらやだ!でもあのお髭の坊や。口から出任せを信じたみたいよ。ハッタリでも言った者勝ちじゃないかしら?」


二人は顔を見合わせてフフフと曰くありげに笑った。

すると突然日が翳った



「リリス様。万事終わりました」



開け放しの窓から執事の姿の男デモスと、彼にお姫様抱っこされたイチが入ってきた。

イチは恥ずかしそうにデモスから降りる


「みんなご苦労様。

で。あいつはどうだった?」

「えっと……わたしが行った時にはもう崖下に落とされていました。でも切り刻んだ肉片が散らばっていました」


「そうか。そうか。報いは受けたのだね。

ところで女達の魂は解放して上げたようだね。

何人かボクの中を通る際に、感謝を述べていたよ。

復讐してくれて有り難うってさ。

良くやったねデモス君」


椅子に座ったリリスがウィンクすると、デモスは恭しく礼をして


「はっ。有り難き幸せ。

全てリリス様の仰せの通りに……」


「でも。アイツの死体は必要だよね」


リリスは腰に下げた魔法の袋に手を突っ込むと、なにかを掴んで地面に置いた。

手の平サイズの小さな豚だ。

それが見る見る大きくなる。


只の豚の死体だ


「全く。魔法の袋にぶっ込むと、折角の魔法が解けてしまうんだよね。

いちいち変身させるのメンドイよ」


そして豚の死体に手を置いた。

豚はゴボゴボと肉がうねり、クリオ伯爵の姿となった。




★★★




それから間もなくして伯爵邸から、火の手が上がった。

窓からグレーターデーモンと魔族の女が飛び出てきた。

その悪魔の王の手には何かを掴んでいた。


突然の火の手に慌てふためく執事や玄関で待機していた僅かな使用人達。

勢い良く燃える屋敷に最早打つ手はない。


そこへグレーターデーモンが空から急行下してくる。


執事達は頭を抱えて蹲る。


ドサッ


何かが落ちてきた


「醜くくて要らないわ。

あなた達に返してあげるわ」


女の声がする。

恐る恐る目を開けるとそこには女の姿もグレーターデーモンもいなかった。


只地面に肉塊が転がっていた。


それがクリオ伯爵の成れの果てであると気がつくまで、暫くの時を要した。


〈クリオ伯爵は魔族と取引に失敗し、悪魔王と魔族の女に殺された〉


それが公式の記録となった。



魔族と交渉した罪でクリオ伯爵家は領地没収の上、断絶となった。







【豚の報い】はまだ続きます。


リリスが何故にクリオ伯爵になっていたのか?

殺された女性は一体誰か?


次回からは何だか恒例になってしまった

種明かしに成ります。


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