仮初めの宿
グレイにとってただの通りすがりの仮初めの宿の筈だった【跳ねる子馬亭】
マレーヌとシェリルの母娘が拐われるというリリスからの情報提供を受け、この宿でその時まで過ごし対処し消え去るつもりであった。
この母娘とも仮初め。
ほんの10日ほどでこの宿から旅立っていたことだろう。
だが縁は奇なり。
ダーレルの街が大規模な魔物の襲撃を受け、歓楽街は半壊。火事は何故かリリス達の登場に合わせて一瞬で収まったが、それでも死者は千人を越える大惨事となった。
アルネ村に戻る壮年の村人達も、この【跳ねる子馬亭】を襲う筈の兵士達も街の復興に駆り出された。
そして手強いと目された〈死の円舞団〉の連中はほぼ全滅。生き残ったイチだけがゼロことクロエと雌雄を決する為に決闘に臨み、試合には勝ったが内容的には負けに等しくなんだかんだで仲間になった。
そのダーレルの街の復興の為、兵士達は一月以上も出立が遅れた。
その間に娘シェリルのグレイに対する気持ちは膨れ上がり、その想いは憧れの期間から愛する対象へと変わりもはや抜き差しならない所まで行き着いた。
結婚である。
今宵結婚パーティーがある。
臨時休業で貸し切り。
リリスは周辺に結界を張り、誰も近づかないようにした。
初めは母マレーヌは報告も兼ねて村人を招待しようとしていたようだが、それは却下された。
そして身内となったから、なぜ此処に来たのかの理由を話した。
領主のクリオ伯爵が母娘を狙っている事。
あわよくば母娘共に我が物にせんと企んでいる事。
そしてその為なら手段を選ばす、アルネ村そのものを滅ぼしてでも母娘を手に入れようとしている事。
壮年の村人が駆り出されたのはその際に抵抗なく執行できるように、という思惑もあった。
残った女子供年寄りを人質に取られれば、最早マレーヌ親子には、領主の女になるほか選択肢はなかったであろう。
それを聞いたマレーヌはやはりという顔をした
「実は……」
とマレーヌが取り出したのは首から下げたネックレス。
これはマレーヌの旦那から送られた物でダンジョンからの発掘品でもある。
マジックアイテムでダンジョン内ではぐれた時、その生死を確かめ合う為の物だ。
ネックレスはペアになっていて、魔力を込めて先端の宝石を握るとどんなに離れていても相手の宝石が光る。
遠くの相手はそれに気付き自分の宝石に魔力を込めると、こちらの宝石が輝くというものだ。
そして誰の魔力にも反応するのではなく、持ち主の魔力にだけ反応する。
つまりマレーヌがいいたかったのは
「グレイさん達のお話しを聞いて確信致しました。
もうわたしの旦那は生きてはいないでしょう」
ということだ。
マレーヌと旦那はどんなに忙しくても一日二回このネックレスでお互いの安否を確認しあっていた。
寝る前と、朝起きて暫くしてからの二回。
遠くの旦那がネックレスに魔力を込めると、マレーヌのネックレスの宝石が光る。そしてマレーヌは自分のそのネックレスに魔力を込めれば旦那のネックレスが光るというやり取りだ。
それがグレイさん一行がくる数日前から旦那からのネックレスへの連絡は途絶え、マレーヌがいくら魔力を込めても旦那からの返答つまりマレーヌさんのネックレスが光ることはなかった。
そして生きていると連絡は来るのだが出所が怪しく、もしこんなに近くに来ているのなら、あの旦那がアルネ村のマレーヌのとこへ帰らない筈はない。たとえ半日でも必ず顔を出す筈。
それがアルネ村を素通りして、ダーレルに向かうという。それもモンスターの山狩りなんて……。
たぶん何らかの形で旦那は殺されダーレルの魔物狩りで死んだことにでもして、兵士が『旦那が魔物狩りで死んだ』と嘘の報告がてら母娘を連れ去る算段であったであろう。
そうなれば、マレーヌには抗う術はなかった。
「恥を忍んで申し上げれば、女の勘で旦那に何らかの取り返しのつかない事態が起きたとわたしは思い、そして何故かわたしたちにも火の粉が降りかかるような、そんな嫌な予感に囚われておりました。
それでその頃にいらしたグレイ様御一行を、わたしなりに見極めておりました。
あわよくばわたしたち母娘の保護を、最悪娘シェリルだけでもグレイさんに預けて火の粉を振り払おうとしておりました。
ちょっと想定外だったのは、わたしちょっと自惚れるくらい身体には自信があって、その……あっちの方もそれなりに経験を積んでおりましたから、グレイさんをわたしの虜に出来るとふんでおりました。
それがわたしの誘惑にも反応を示さないし
『ロリ○ンでも仕方ないかな?』
なんてシェリルを送り出してみても興味なし。
実は内心焦っていました。
だから、既成事実だけでも作ろうと一緒にお風呂に入ったり同じベットの上で裸で添い寝したりして、もしもの時は助けて貰おうと考えておりました。
シェリルはこの事は知りません。
利用しようとしていました。
申し訳ありません!」
「いいさ。今更。オレたちも助けるつもりだったんだ。
シェリルの事を想ってやったことだろ、マレーヌさんが謝ることではない。
頭を上げな」
『グレイさんてやさしい。でもなんであんなにいつも上から目線なんだろう』
途中加入?のイチは事情がよくわからなかったが、サンの報告にあった清楚な母と清純な娘の姿から少しかけ離れている理由はわかった。
この一月の間、肉体的な進展は無くてもお互い裸でいられるくらいには心が近付いていたのだろう。
母マレーヌなりに女の武器を使ってでも、娘を助けたかったという想いは伝わってくる
「でも……娘も……わたしも……グレイさんに本気になってしまいました。
娘からグレイさんを奪うつもりはないですが……時々でいいので……わたしも……こんなおばさんですが可愛いがってください」
顔を真っ赤にして、凄い色気醸し出して、恥ずかしそうに頭を下げた。
グレイもどうしたらいいかわからない顔をしている
─ちょ!さすがにそれはアカンわ!
イチはそう思う。鬼畜外道案件だ。
「いいですよ。もとよりそのつもりですから!」
新婚そうそうシェリルは爆弾を投下した。




