holiday 第百八十三話 ありがとう
マリアが吐息を漏らしながらも口を開く
マリア「何躊躇ったのよ」。
「人様の大切なものを奪ったクセに」。
カイ(この顔、あの時の..)
(ここは伝えないと。でも俺が言うなんてあまりにもおかしくないか?)。
マリア「さっさとやりなさい!」
(いや不細工でもいい。伝えたい!)
カイがマリアの方へ這いつくばりながら寄る。
体を起こし正座の形となる。
カイ「マリア」。
カイが頭を地面に擦り付け平伏する。
カイ「本当にすまなかった!」
マリア「.....は?」
カイ「謝ったら終わりとかではないのは知っている」。
「ただ伝わってほしい」。
「俺は自分周りのことしか頭になくユネルコを自分の想いだけで殺してしまった」。
「だがお前達にも家族、大切にしている人がいるってこの悪い頭がやっと理解できたんだ」。
「だからもう終わりにしたいんだ」。
「お互いが削り合うだけの不毛な争い」
床が大粒の涙で斑点が作られる。
「だから、生きてくれ」
マリア「何よそれ下らない」。
「お前らの願望だけでユネルコ!クー!ヤマ!トノ!しょうや!ピー!マロンの死を無駄にしろとでもいうのか!」
「かめしゃんも攫ったっていうのに!」
「私がここを生き残ろうが残らまいがこの命の重みを...」
(あれ?なんで?これ以上言葉が..)
カイ「無駄になんてさせないさ」。
カイの声に震えはあるものの弱々しさはどこにもない。
「ピーとかめしゃんを解放する」。
N「なんだと。ピーは生きているのか?」
カイ「危害を加えない者はせめて..」
N「いや意味がわかんない」。
「危害になるかはそんなもんテメェらの裁量じゃないか」。
(ん?裁量って。私はさっきから何を抱えて..)
カイ「そうだよな。お前達からしたらそりゃそうだ」。
「だけどな、失ったものは戻らないが今いる者達で繋げることはできる」。
「俺達がそれを証明していると思う」。
「お前がここで死ぬ必要なんてない!」
「だから生きてくれ!」
その言葉はマリアの脳内に問いを投げられた。
マリアは人を陥れる為、心理学、感情について理解した。理解したが彼女にもそれが移った。
だが、何か一つ足りないようなもどかしさに彼女は苛まれていた。
その何かは今、考えたのだ。
マリア(何であいつは怒りを抑えているのだ..)。
(こいつ、まさか..!)
その時、マリアは何かに気づいたように感じた。
それがあたりかは決して分からないが。彼女なりに解を見出したのだ。
マリア「...ははっ。そりゃそうか」。
「どうやら私は負けてたみたい」。
マリアが体を起こした。
カイが片足でゆっくりと立ち上がる。
その顔は涙でぐしゃぐしゃになりながらも笑みが溢れた。
マリアに手を差し伸べた。
その手をマリアが取る。
はずだった。
その手は繋がらず倒れ伏した。
倒れたマリアの首は消え、血がゆっくりと流れる。
カイ「...?」
「敵に負けた上、こんな醜態。やはりユネルコ軍は揃いも揃ってクズだ」。
女性のようなだがどこまでも重圧を感じる声だった。
カイは声のする方に目を寄せたが彼はもう限界を超えていた。
力なく床は額をぶつけた。
(マリア。一体どうなったんだ..?)
視界のない中、カイは反対側からも似たようなものを感じ取った。
男がマリアのもとへ歩み寄り優しく抱いた。
(それに無限にも感じるこの質量。前にも感じた)
(でも温かい。愛と熱を帯びている..)
その男は薄れゆくカイの頭にそっと手を置く。
男はしでかした罪、するべき責務を持ち直した。
堂々と。しかし堂々とだけでは終わらない感情を胸に立つ。
壊れた天井から降る黒い雨を互いは被る。
男へ流れた黒い雫は額から二つに別れ両目を通りやがて顎先へ収束した。
雫の跡が残る。
これは悲しみなのかはたまた別の想いなのか。
そんなもん彼にとってはどうでもいいのかもしれない。
男の者と女の者が遠くから静かに向かい合う。
互いが互いの目的、決意のもと。そこに些細な揺らぎすらない。
これはもしかしたら決まっていた事柄だったのかもしれない。




