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旧支配者達の夜会





 暗黒の太陽が空を飛んでいる。もはや現実の世界とは思えない。暗い砂漠に砂嵐が吹き荒れて、そして膨大な二つの魔力と巻き上げられた砂粒がぶつかって青い稲妻を鳴り響かせている。

 痩せこけた馬に乗る死の神のような男。純白の馬に乗り弓を持つ女神のような女。

 もはや戦いは神話の域に達していた。


 「逃げる?冗談はよせ。これが何かわかる君らでは無い」


 セトは木箱を掲げた。僕はその木箱を見てハッとした。だってそこには、アウシルの魔力があったのだから。

 ロゼッタストーンはセトがつけてると言った、そしてその前にアウシルのアレを僕らが持っていると言った。つまり……あの木箱の中身はアレだ。


 「逃げたならば私はこの木箱を破壊した上でホワイライダー、カペラを殺す。だが君らが私の前に首を晒すというのなら、木箱だけは見逃してやろう」


 僕はどうする?このままアイシスとスビアと逃げるか?それともここで戦ってセトを倒す?でも今のセトを倒せるとは僕には思えない。生物としての格が違うんだ。


 「お父様の……シュン!分かってるよね」


 「スビア、やってくれ!」


 スビアはピーちゃんの目をアイシスの目に合わせた。アイシスの肉体は硬直し、動けなくなる。


 「ごめん。僕らはあの戦いについていけない」


 アイシスに弛緩剤を打って、彼女を背負う。後ろでは戦いが一層過激となっていた。


 「残念だよ、兄弟。じゃ、全員殺すか」


 セトは逃げ惑う僕らを尻目に、木箱を砕いた。瞬間、僕はアウシルの魔力が周囲に散らばっていく感覚を覚えた。もう、あの人を完全な形で復活させる事はできないんだ。


 「ちくしょう……でも今は」


 今は生き残ることを考えよう。アイシスやスビアまで死なせる訳にはいかない。だからカペラさんは僕に逃げろと言ったんだ。


 「そう、シュン行きなさい」


 カペラさんの声が聞こえた気がした。僕はただ逃げる事しかできない。


 「死から逃れ得ると思うなよ」


 目の前の暗黒の霧が人の形となり、セトとなった。そうだ、あたり一面が暗くなって影になってるから、セトの影に入ったり出たりする能力で……


 「でも貴方は私から逃げれない。骸骸骸(ムクロカラカラ)


 地面から這い出た輝く骸骨たちはセトの肉体を掴んで離さない。しかし、こんなものが魔法なのか?僕には災いにしか見えない。


 「セト、この輝く死体は貴方の殺してきた人達だ。貴方に彼らをもう一度殺す事ができるの?」


 セトはただ遺体に埋もれていく。その白骨を折ることも砕くこともしなかったのだ。


 「そうだな、一度死んだものをもう一度殺すのは不道徳だ。だが私は……」


 「貴方の影の移動、あれは自分の肉体を一度分解して別の場所に再現している。つまり貴方は一度死んでいる。そして、貴方の死を生にする力には結構な体力を使う」


 カペラさんは弓を構える。あの無音の矢で骸骨ごとセトを射抜こうとしているんだ。


 「ホワイライダー、お前は忘れている。何故己が己の身をフンコロガシに堕としたのか」


 骸骨の拘束は緩やかに外れる。彼が外したんじゃ無い。骸骨がセトを離したのだ。


 「貴方は何を言って……」


 「長いフンコロガシ生活で己の魂を忘れてたのか?アヌンナキ=ニンフルサグは唯一権限を手放したのだぞ」


 瞬間、彼女の弓は砕け、骸骨たちは輝きを失って地に伏した。


 「くっ……骸骨!なんで私の命令を聞かないんだ!」


 崩れた骨が砂になっていく。彼女の乗る白い馬は徐々に輝きを失い、やがて骨となって砂となる。


 「アヌンナキ=ニンフルサグはラーに同調していた。自由意志あるのみと。故にその力はお前には扱えない」


 影で作った刀。セトはカペラの首元に冷たい刃を押し付けた。


 「さぁ、ホワイトライダー。おやすみの時間だ」


 刃が振り下ろされる直前、もう僕は黙ってられなかった。


 「セトォォォ!!!」


 青い幽霊の馬が現れる。そして僕は今、その馬に乗っている


 「嬉しいなブルーライダーッ!受け止めてやるよッ!」


 右手に火属性の大太刀を生成する。そして馬から飛び降りて、奴の胸倉を大太刀で裂いた。


 「なっ……!?」


 火属性の刃は奴の胸倉で止まり、その服を焼くことすらできてない。純粋に魔力のバリアが強過ぎるんだ。僕は、馬を出しても奴に勝てないのか?


 「何故人は理解しない」


 目が合ってる、アペプと同じような赤い蛇の目。あぁ、やつは死そのものだ。


 「シャアッ!!」


 右目のレーザー、されどそれすらも届かない。


 「いや、理解しない、では無いか。何故目を逸らす?人類の実現可能な最大幸福が0である事が。私は日記も他者が読める字で書くタイプだぞ」


 「……ごめんね、シュン」


 白い馬が僕の服を噛み、無理やり背中に乗せる。そして凄まじい速度でその場から離れる。

 離れていく戦場。いやだ、死んでほしく無いんだ、カペラさんに……


 「シュン!スビアとアイシスと行きなさい!」


 白い馬はちょうどアイシスを背負ってピーちゃんを抱いているスビアの隣を通る。僕は彼女の手を取って馬に乗せる。馬は再び走り出し、暗闇を抜けた。


 「カペラさん……」


 馬に乗せられながら、後ろを眺める。暗闇の中に一瞬、青白い光がピカッとした。そしてその数秒後、中心から白い光が溢れて、暗闇を飲み込んでいく。これは、カペラさんの魔力だ。


 「あぁ!あぁ……カペラさんの命が広がっていく……これじゃ……」


 ごめんなさい、この子は貴方にあげるわ。

 小さな声が右目の奥から聞こえた。

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