1. トンネルを抜けると
よろしくお願いします。
――――――――――――――――――――
私の人生は、やってみたいと思ったことは、まずやってみる、またなんでも挑戦させてもらえる恵まれた環境だったと思う。挑戦したことはそのまま趣味になることもあれば、一度で終わることもある。いわゆる器用貧乏なので、体験してきたことのほとんどは習得してきた。
ただ、残念なことに
『まゆって彼氏以外はなんでもできるよね』
と友人に称される人生であった。
――――――――――――――――――――
ある日の自宅待機中、暇つぶしでアニメを観ていた。
(あーキャンプかーいいなー)
(あの景色でビールとか最高だろうな……)
(…………うん!よし!やるか!)
と新しい挑戦を閃いた。世界的ウイルス事変で流行したものの中で、アニメでも人気になったキャンプは、過去ボーイスカウトをしていたことも後押しになり、取っつきやすさがあった。
原作漫画も確認し、最新のギアを見る度に徐々にテンションがあがっていった。幼少期体験したサバイバル寄りなものではなく、文明の利器を使った快適な大人キャンプ。自分の琴線に触れるものをじっくり探し検討する。デザインもお洒落なものが多く悩みながらも、心が躍るものに囲まれたく、最低限の物を少しずつ購入していった。
初めて実行したそれは大正解といえるほど、なぜ今までやっていなかったのか不思議なほど充実した時間を過ごせた。森林の匂いや空気にノスタルジーを感じたのか、マイナスイオンで心が整うのだろうか。準備や片付けなど手間がかかるものだが、たき火を眺めながら少しずつ気持ちがリフレッシュされるのを感じた。
それから月に最低1回はキャンプをして、大自然の中でお酒を飲み、キャンプ飯にもハマっていった。
ただ、あの禍災は余波もすごく、務めていた会社は経営難に陥り、倒産の運びとなる。
有難いことに、兄と両親から「地元へ帰ってきたらどうだ」と声がかかった。当時、次兄が実家をリノベーションしており、新築のように綺麗になっていたのだ。客室や兄弟の部屋も整えられており、ある程度資格を有していたのもあって、再就職できるだろうとUターンを決断した。
久々の海鮮三昧に心惹かれたことも一因である。
溢れるキャンプギアや趣味の荷物はトランクルームに預け、仕事も決まった。しかし、田舎では移動に車が必需品である。このUターンで全くキャンプができていないし、ここはもう夢のオフロードSUVの購入一択であった。
頭金は結構痛かったが、一人暮らしより金銭負担は少なくなったので文句はない。母と一緒に料理をし、姪甥が遊びにきて、家族と談笑しながら食卓を囲む、とても充実した実家暮らしが始まった。
燃えるような紅葉が美しい頃。さっそくキャンプ心が疼き出した。
車を買ったことで気が大きくなり、思い切って新しいテントや諦めていたギアを購入した。地元の美しく壮大な山脈を眺めるキャンプにも惹かれたが、毎日出勤時に美しい景色を眺められるので候補から外す。今回は紅葉にメインを絞り、県外の温泉が隣接しているという魅力溢れるキャンプ場に決めた。久々にゆったりした一人の時間が過ごせそうだと期待に胸が躍る。
隣県へ抜ける高速道路は山をくぐるようにいくつものトンネルがある。
中は照明があるのに薄暗く、抜けると秋空の澄んだ眩しさで目が眩んだ。赤や黄色に色づく山々が、目的地への期待を煽る。何ヶ所もトンネルを抜けていくうち、(ああ自分は旅をしているのだ)と高揚感が胸を占めていた。
これが最後のトンネルだと、眩しさを予想し目を細めていた。
そこは雪国だった。
富山県をイメージしています。




