表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
封印された歴史からの誘い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/158

思わぬ方に転がった摺合せと女神の託宣

秘事(ひめごと)の女神が少しずつジャンフランコの日常に侵入します。

 その日はロドリーゴの訪問があり、夕食を一緒に摂った後はジョヴァンナ・ロドリーゴ・ジャンフランコ・フレデリカの四人で執務室(オフィス)に入る。


「今日のご報告とご相談は、【隔絶された時空】についてです」

 ジャンフランコが【隔絶された時空】の【魔法陣】について大まかに説明し、今後の予定について話す。


「【隔絶された時空】は大きくは本体部分と魔力供給を行う部分の二つの要素で構成されてました」

 それで、と息を継ぐ。

「魔力供給に間する部分については、この邸の中、具体的には工房ですが、今の活動の延長で分析や再現に向けた作業が可能だと考えています」

「一方で、【魔法陣】本体は発動したときの影響が読めないために、おそらくリモーネ国内では実験なども難しいのではと考えています」神格の高い神々を勧請(かんじょう)する魔法陣で構成されていることを説明する。人目のあるところで神格の高い神がうっかり顕現(けんげん)したら、あちこちパニックになることは必定だ。


「その上でご相談なのですが、【隔絶された時空】 本体はミルトンのどこか実験に適した場所を探した上で進めるのはいかがでしょうか。どうしても後回しにはなってしまいますが」

「その考えは悪くないけれど、わたくしもロドリーゴ様もミルトンに入るのは避けるべきでしょうからねぇ。ジジが一人でミルトンに赴くことになるけれど、大丈夫かしら?」

「コルソ・マルケ砦のどなたかに協力を仰ぐことは出来ないでしょうか。どなたか魔道具の扱いに長けた方がいらっしゃればよいのですが」

「それは向こうで相談するしかないだろうね。それか、リモーネに拠点を移した商会の中でよい人がいないか探してもらうか」

「いずれにせよ秘密が守れるように、出入りを制限できて、多少は人目を気にしなくてもよくて、そんな場所が必要になりますね。それと協力いただける大人と」


「では、この件は後日メディギーニを呼んで詳細を詰めることにしましょう」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「これも【隔絶された時空】関係なのですが」と礼拝堂の屋根材を取り出す。

「表から見るとただの屋根材なのですが、裏から見ると」裏返して【魔法陣】が並ぶ面を見せる。

「例の礼拝堂では、この屋根材を屋根いっぱいに並べて、おそらくですが太陽の光を魔力に置き換えて【隔絶された時空】の【魔法陣】に供給していました。極めて洗練された仕組みなので魔道具として再現したいと思うのですが、これの素材は分かりますでしょうか」

 ロドリーゴが手を顎に添えている。「お付き合いのあるシュナウツァー工房あたりで聞くのも、と思ったが、出処が出処だからね」誰も訪れないとは言え、教会の礼拝堂からくすねて来たわけだし。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 考えにふけるロドリーゴが顔を上げて 「意外にジジ、君であれば自分で作れたりするのじゃありませんか?」


「ちょっと試してみます」

 神測(デジタイズ)を発動する。『分子構造くらいまでスキャンできて、超細密な3Dプリンタみたいなことができればあるいは?』右手が光るのは能力(アビ)が増えた兆しだ。【分子解析(ナノスキャン)】【細密出力(ナノプリント)


 屋根材に右手を翳すと頭の中に超細密な屋根材の構造がデータとして入ってくる。『うへぇ、情報量多過ぎだよ。圧縮とかできないものだろうか』右手が光り、少し多目に魔力が消費されていく。これは神測(デジタイズ)が何か能力(アビ)を発動している証だ。【可逆圧縮(コンプレス)


暫く待っていると、読み取った屋根材の情報がコンパクトに纏まっていた。

同じ能力(アビ)で逆に情報を展開することも可能なようだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 スキャンが終了したら今度は出力である。


『素材は【木】属性が大半で、【魔法陣】部分が【(かね)】属性か』


『【細密出力(ナノプリント)】』ゆっくりと右手を動かすと、少しずつ屋根材の複製が出来上がっていく。素材から自分の魔力で作っているので魔力消費が凄いし、分子構造から再現しているので時間が掛かる。約20分かけて屋根材が一枚。【隔絶された時空】に必要な魔力を賄う枚数を用意しようとすると、なかなかに大変そうである。


「できました」魔力もかなり消費したので、肩で息をしながら、出来上がった屋根材をロドリーゴに渡す。


 オリジナルとコピーを両手に持って重さを比較したり、ひっくり返して【魔法陣】部分を細かく見比べたりした挙げ句、ロドリーゴは机の上に放り出し両手を上に挙げた。「お手上げですね。まったく違いは分かりませんよ」「これは明るい時に外で実験して確かめましょう」太陽光を受けて魔力が流れれば成功だ。


『さすが妾の使徒。その力があれば、神々を勧請(かんじょう)するだけでなく受肉させることも、また可能であるぞ。 』耳元で女神の囁きが聞こえたような気もするが、ジャンフランコは空耳と思って受け流すことにする。少々魔力の残量が心許ないため、気まぐれで顕現(けんげん)されたら魔力枯渇で倒れかねない。


「魔力のことを考えるとゼロから作るのは非現実的ですね。必要な属性と同じようなものを素材として持ってくれば、もう少し楽になるかと思います」

『自分の魔力だけを使って無から有を生み出すのは楽ではなさそうだ。何も考えずに魔道具任せでただ魔力を流せばいいインクとはその点が大きく違う』

 そこまで考えて、例えば木材を屋根材のような構造に変質させる魔道具があれば楽ができそうだ、と思いついた。『これは時間のある時にじっくり考えてみよう』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「もう一つ。これは【隔絶された時空】 とは直接は関係ありませんがご報告を」

 騎士の戦技も魔法と同様に【魔法陣】化して取り込めた点を報告する。


「これは【魔法陣】を分析した僕の推論なのですが」前置きする。

「魔法も戦技も、ついでに言えば魔道具も突き詰めれば、【神々と約定を結び】【魔力を捧げて】【神の権能(けんのう)をお借りする】、という点は同じです。その手順を文書化したのが【魔法陣】で、【魔法陣】をインクで印刷して魔石の魔力で誰でも使えるようにしたのが魔道具。【魔法陣】を神具に取り込んで自身の魔力で発動させるのが魔法使いや騎士の天恵(スキル)。そんな風に理解すると分かりやすいと思います」


「ちょっと受け入れ難いのだけれど」

 やや引き気味のジョヴァンナに対して、ロドリーゴは興味津々で身を乗り出す。

「その結論は興味深いね。ここ何ヶ月か魔道具や【魔法陣】を研究した結果なのだろう?では、【魔法陣】を直接覚えることができれば苦労して【魔導書】を読み解く必要もないってことだね」


「確かに、【魔導書】を【魔法陣】に変換する作業はそれなりに大変でしたからね」


『神々を勧請(かんじょう)して直接約定を交わすのが一番の早道ぞ』「そもそも神々の御名も勧請(かんじょう) するための儀式も(うしな)われているではありませんか」


「ジジ、どうしましたか」

問われてハッとなる。耳元で勝手に囁く女神を無視できなくなっていたようだ。

『神々を直接勧請(かんじょう)できるなんて魅力的すぎるけど同時に危険すぎますよ』


「意味が分かりませんよね。すみません」

「ねぇ、ジジ。貴方いろいろと隠し事があるのではありませんか?」


『一番ヤバい秘事(ひめごと)の女神の件はお話したから、話さないとマズい話はないはずだけれど』

「言われてみればそうだね。ジャンフランコ君、先ほどは【魔法陣】について妙に詳しく説明してくれたけれど、君はいったいいつから【魔法陣】を読めるようになったのかな?」


『あれ?説明していなかったっけ?』

ロドリーゴが「幻の書庫」から持ち出した「目録」を取り出して開いている。

「君がこの『目録』だけを持ち出してるなんて、考えてみればそんなはずはありませんよね。この中には例えば」

 ページをめくり、指を滑らせる。

「そうそう、この『古代文字の考察』なんて僕に探すよう言ってた本じゃないですか。『禁書』と聞いて一旦は諦めたみたいですけど、「書庫」で見つけたのではありませんか?」

「あ、いえ、そんな。あの時は時間もありませんでしたし、じっくりと書庫の中を探すような時間なんて」


「ほお」これ以上ジャンフランコを追及するよりも楽に問い詰められる方法を思いついたロドリーゴがフレデリカの方を向く。


「そう言えばフレデリカ、『書庫』に入った時は君も一緒だったと聞きましたよ」

フレデリカが溜息をつく。

「ジャンフランコ様、ここはもう隠さずお話した方がよろしいのではありませんか?」

『フレデリカの裏切り者!』

「ジャンフランコ様の仰るように、確かに書庫を巡って目指す書物を探す時間はありませんでした」

ジャンフランコに助け舟を出すような説明に安堵しかけるが

「それで、取るものもとりあえず、という風に数冊の本を抜き出して持ち出しておいででした」

『フレデリカ!』

「なるほど。僕にはお預け喰らわせておいて、君は(うしな)われた書物を堪能していた訳だね」視線が怖い。ロドリーゴが右手をつきだす。

「出し給え」

『あの、父様』

「いいから、出し給え。どうせどこかに隠しているのだろう?」

「ジャンフランコ様、ここは正直に」

「ジジ、ロドリーゴ様のお気持ちを考えなさいませ。これはわたくしも庇えませんよ」

 ここにはジャンフランコの味方はいないようである。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【隔絶された時空】を広げ、書物を取り出しテーブルの上に並べる。

「ほお、しっかりと意中の書物を持ち出しているじゃないか」

「古代文字の考察」を指差す。

「あの、これは本当に偶然でして」

「ほかは...これは古代文字か。流石に読めないのではどうしょうもないな」

しばし顎に手をやって考え込んだ後

「ジジ。僕のためにコレの写本を作ってくれ給え。『書庫』に入れないのは業腹(ごうはら)だが、僕にはここにある数冊でも手に余るかも知れない。だからね」

「古代文字の考察」を指差す。

「特に、この本は僕のような研究者にとってはとんでもない価値があって、常に手元に置いて使いたい本なんだ。貴重な原本なんてとんでもないからね。気軽にめくれる写本がほしい。作ってくれるよね」

 笑顔の裏から滲み出る圧が怖い。

「かしこまりました。なるべく早く...」

「なーに、さっき見せてくれた複製を作る能力を使えばすぐじゃないかな」

 紙とインクは用意しておくからね、と押し切られる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 自室に戻る。

 本のことは仕方ない。考えなしに【魔法陣】についてベラベラ喋ってしまった自分の落ち度だ。

 【魔法陣】への理解が急に進んだのを見たら、誰だって何かあると疑うだろう。


 それよりも気になるのは女神の託宣(?)だ。頼んでもないのに耳元で勝手に囁くアレを「託宣」と呼んでよいかは別として。


『其方が目の前のものをそっくりそのまま写すのを見て嬉しくなってしまったのじゃ。許せ』

勧請(かんじょう)したつもりはないのですが、いつの間においでになったのですか」

『使徒である其方とは常に繋がっておるのよ。困った時にすぐに助力できるようにな』

「先ほどはそのお陰で困ったことになりましたが?」

 女神からの返答はない。


 それにしても、とジャンフランコは考える。自分はあの時『神々の御名も勧請(かんじょう) するための儀式も(うしな)われている』と言った。それは、いつだったか読んだスフォルツァ領の口伝の一つにそういうのがあったのだと思う。これが頭に残っていたのかも知れない。


 そう言えば、「幻の書庫」から本を数冊持ち出していたが、「古代文字の考察」以外の本には手を着けてなかった。これらも時間をとって読み込んでいけば、新たな気づきがあるかもしれない。


 鍵の疑似(quasi)魔道具を使い、もう一度本を取り出す。


 一番上に置かれていたのは「八百万の神々」と表紙に書かれた本で、中身は現代の言葉で神々の伝承をまとめた本であった。


 その下にあったのは、古代文字が表紙に書かれた古い本だった。先ほどロドリーゴが尻込みした本。

 表紙を暫く見つめていると、「神々への道標」と現代の言葉がオーバーラップする。

『其方、必要な書物を間違えずに選び取って手元に置いておるではないか』

 耳元で囁く女神を無視して表紙をめくる。


 見開きの一方には薄く彩色された神々の似姿が描かれているが、名前は相変わらずうまく翻訳されないのか読み取れない。

『神々の名なら妾が教えるぞ』


 簡単な伝承に続けて、見開きの反対側には【魔法陣】が描かれている。

『かつて、人はこのような【魔法陣】を書き写しては神々を勧請(かんじょう)して約定を結び、それをもって魔法や戦技をものにしていたのじゃ』

【魔法陣】の内容は【神の勧請(かんじょう)】【約定の印の【魔法陣】(認証コード)】【神々への供物】要は、【魔法陣】の祝詞的な部分を抜き出したようなものだ。

『其方なら【魔法陣】を【神具】で読み取って魔力を流せば事足るぞ』


 供物として書かれているのは魔力の場合がほとんどだ。時々 血だの魂だの物騒なのも混じる。

『大抵は術者と敵対する者の血肉を捧げるのだがな』


 ロドリーゴの言う通り、自分用の写本を用意した方がよいかも知れない。

『この書物には相当の魔力も込められておる。写しを取るなら相応の魔力も覚悟しておくのだな』


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『其方、試しに一柱勧請(かんじょう)しようなどと考えてはおるまいな。思うより魔力を必要とするぞ。今宵の其方は魔力を使いすぎておる。やめておくが良い』


耳元で勝手に託宣する女神を無視し続けるのにも飽きてきた。

それに神々の勧請(かんじょう)の仕方の書かれた書物を見つけて少しアドバイスをもらいたい気分だ。


「それでは、わたくしの魔力が枯渇するまでの間、(ぬし)様に暫し夜更かしのお供を願えますか?」


 神測(デジタイズ)秘事(ひめごと)の女神の約定の印(認証コード)の魔方陣を呼び出し、御姿を投影するように勧請(かんじょう)する。


「ふむ。それでは少し昔話でも語ってやろうぞ」

「旧スフォルツァ領で記録された口伝。あれは本当に起こったことなのですか」

「あの時は、真に人とは度し難いものと怒りを覚えたぞ。自らの信奉する神を至高のものとするくらいなら目を瞑るがの。唯一と定め他を排するなど愚の骨頂よ」

溜息をつく。


「女神ソフィアとはどのような方なのですか」

「元々は生命が母の胎から生まれ出ずる瞬間を守護し祝福する女神であった。それがソフィアの使徒を僭称する輩に神性まで歪められてな。あ奴は万物を寿ぐ全知全能の神などと持ち上げられて逆に不貞腐(ふてくさ)れてしもうた。今や生まれた赤子に天恵(スキル)を与えるだけしか権能(けんのう)を振るわんようになっておる」


「父ロドリーゴもそのように嘆いておりました。どのように呼びかけてもお言葉を賜ること能わず、と」

「ほぉ、あ奴はソフィア教の坊主か。ふむ、【光】と【闇】の属性を持たずにソフィアに仕えるのは辛かろうな」

「【光】に加えて【闇】も、ですか。まぁ、母やわたくしがいることからお分かりのように、父の場合は『坊主』の前に『生臭』がつきますが」


「坊主の妻帯を許さぬのであったな。ソフィア本来の権能(けんのう)からわかる通り、その戒律もソフィアにとって腹立たしいものの一つよ。あ奴がソフィアに疎まれるとしたら、むしろ其方に弟妹がおらぬことの方じゃな」

『子供に面と向かって言うことではないのですが』

「それは...【闇】属性もなければお仕えできない方なのですか?」

「種子が芽吹くまでは昏い地中で育つものであろう?女の胎に生命が宿ってから月満ちるまでのご利益(りやく)を祈ってやらねば、あの女神は拗ねるぞ」

女神が苦笑するのが見える。

「其方さえよければ、妾が父御に直接託宣してもよいのだぞ...其方そろそろ魔力が底を尽くな。妾はこれにて()ぬゆえ、そのまま床に就くがよい」


 女神の姿が消えるとジャンフランコも寝台に倒れ込む。急に襲いかかる眠気に抗しきれず、そのまま意識を手放した。

なかなか書庫にたどり着けないロドリーゴさんも女神に引き合わせてあげると少しはご機嫌が直るでしょうか。


今回の新要素:


・ 分子構造レベルで目の前のものをコピペする能力(アビ)

  【分子解析(ナノスキャン)】【細密出力(ナノプリント)

・ 大量の情報を圧縮する【可逆圧縮(コンプレス)

・ 神々を勧請(かんじょう)するといろいろショートカットできる。

・ 神々は使途を常時監視して好きに顕現(けんげん)できる。

・ 神々を勧請(かんじょう)するための本が「書庫」から持ち出した中に含まれていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


初めての作品投稿です。


誤字・脱字など見つけられた場合は、ご指摘をいただければ幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ