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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
封印された歴史からの誘い

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礼拝堂攻略

【隔絶された時空】の魔術を得るため、念願の礼拝堂攻略です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・ 礼拝堂探索に挑戦します。

・ 多数の【魔法陣】他を入手します。

  (主人公の今後に大きく影響する【魔法陣】です)

 ジャンフランコと、更に言えばフレデリカの変貌は神学校にちょっとした騒ぎを引き起こした。


 二人とも髪色と瞳の色だけを見ると兄妹のように見える姿に変じているのだ。髪色ならまだ染めたのかと納得できるが、瞳の色が変わるとなると完全に常識の外である。


 その特異性から、下手な説明をしたが最後、異端審問に直行させられる可能性すらあった。

 だが、神学校関係者はある時を境にジャンフランコとフレデリカの変貌について騒ぐことを止めた。それにはフレデリカの母親であるフローレンスが高位の教会騎士であったことが大きい。そのフローレンスが「聖なる色を得た」と娘の変貌を歓迎しているという噂が教会関係者の間を駆け巡った瞬間、神学校関係者の誰もが口を噤んだのだから、まことソフィア教会というのは俗世と何ら変わらない世界ということである。

 結局のところ、地位とコネが何よりもモノを言う訳だ。あとは強いて言えば二人を染めたのが神々しささえ感じさせる濃密で芳醇な【闇】の色であったことが影響しているか。


 教会関係者ですら「邪悪」とは正反対の「神聖さ」を感じざるを得ない【闇】の色は、結局は魔道具を弄っていての事故の結果と説明され(こじつけられ)た。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 学校関係者が話題にするのをやめた後には、ジャンフランコとフレデリカが同じ髪色・瞳の色になったことに想像を逞しくさせては嬌声を上げる、少々背伸びした女生徒達が残っている。


 下校前、学用品をカバンに詰め込んでいるジャンフランコに話し掛ける女子生徒がいる。

「あの、ジャンフランコ君って魔導具が好きなのかしら?」

「そうですね。分解したりとか?偶に失敗して酷い目に遭ったりしますが」軽薄な笑みを浮かべ当たり障りのない答えを返す。

 学校生活にさほど重きを置いてないジャンフランコは目の前の女生徒が同級生であったとしても名前すら知らない。それとも別のクラスの子だろうか?

「ねぇ、魔道具を弄ってて失敗した時もフレデリカと一緒だったの?」興味津々に覗き込む瞳に映っている自分の姿のことを忘れて、つい「さぁ、どっちだと思う?」と返してしまう。目を丸くして絶句する女生徒の姿に、『おいおい、アラフォーの独身男じゃないんだから、その返し方はないだろう』と自分から突っ込みが入る。

「家同士が仲がいいから、時々遊びに行くんだ」と慌ててフォローするが、コレなら五歳児の答えとして許容範囲内だろうか?


 フレデリカの方を見ると彼女も何人かの男子生徒に囲まれて苦笑いを浮かべている。このままだと二人とも噂好きの子供達(ガキ共)に捕まって身動きできなくなりそう。ちょうどフレデリカと目が合ったタイミングで軽く【認識阻害】の魔法を発動させる。

 少しずつ魔法の強度を上げていくと、ジャンフランコに話しかけていた女子生徒の視線が彼から外れ、関心が薄れていくのが手に取るようにわかる。【認識阻害】の発動対象にフレデリカに絡んでいる男子生徒も入れると、フリーになったフレデリカがふぅと息を吐いてから歩み寄って来る。二人一緒に動けるようになったら【隠ぺい】の魔法を発動する。周りを見渡して二人に視線を向けている生徒がいないことを確認して、【隠ぺい】の魔法の強度を上げていく。


 フレデリカと二人教室から歩み去るが、周囲の生徒は誰一人関心を向けない。気付かれない。

 校舎から少し離れた場所には不穏な場所に踏み込む者が出ないようにするためか、鎧に身を固めた騎士が二人立っている。ジャンフランコとフレデリカは既に彼らの視界に入っているはずだが、騎士達は何の反応も示さない。フレデリカと目で合図を交わしてから歩き出す。一歩、二歩...ついには騎士達の目と鼻の先を通過しても何の反応も示さない。

 秘事の女神(グヒヤデーヴィー)の触れ込み通り、彼女の使徒となったジャンフランコの隠術を【看破】できる者など存在しないということか。ジャンフランコは次第に大胆になっていき、教会騎士団の厳重な監視網のド真ん中を平然と歩いてゆく。二人を見咎める者はいない。監視網など存在しないと言わんばかりにジャンフランコとフレデリカの二人が最短距離を通って礼拝堂に近付いていく。


 礼拝堂の手前で一度立ち止まる。前回は【雲隠れ】の気配に惹かれて裏手に回ったが、今日は正面から近づく。前回は気付かなかった鎖が礼拝堂入口を封鎖しているのが目に入る。風雨に曝され赤茶けた錆で覆われた鎖を見る限りでは、もう随分と扉が閉ざされたままと分かる。偽装?厚い錆に擦れたり剥がれたりした形跡はなく、正真正銘、この鎖を外し閉ざされた扉に触れた人間は長きに渡って居ないはずだ。


 に、しても、ジャンフランコが探すべき入り口はこことは別にあるはずだ。目指すは【隔絶された時空】を形作る秘術。分かりやすい入り口から辿り着ける場所に堂々と晒されているはずもない。どこだ?【神測(デジタイズ)】【心眼】を起動し礼拝堂の周囲を探るがそれらしき入り口はない。四囲にないなら、上か?

 素早い身振り手振り(ハンドサイン)で上に向けて移動することを伝えると、フレデリカの懐から魔道具が二つ出てくる。【身体強化】の魔道具を受け取って身に付けると、軽く反動を付け屋根上へと跳び上がる。剣の天恵持ち(騎士)ではないフレデリカは言わずもがなだが天恵(スキル)のおかげで自ら【身体強化】できるジャンフランコまで魔道具に頼るのは、教会騎士団の監視下ではジャンフランコが天恵(スキル)で発動する【隠ぺい】の魔法が生命線だからだ。

【身体強化】を全開にしてフワリと屋根上に接地すると周囲を見渡す。


 目に付くのは小さな尖塔。指差すとフレデリカが頷き一つで返答し、二人でそろそろと近づく。かつては鐘楼であったであろう場所に潜り込める場所がある。その床に小さな扉を見つけた。

 少し力を入れて持ち上げるだけで舞い上がるホコリにヒヤリとする。そっと、そーっと扉を持ち上げた先には真っ暗な空間がある。【身体強化】を視力に回すとごく僅かな光にも視神経が反応し始める。暗闇の中に徐々に明暗の違いが見分けられるようになり、遂には物の形が辛うじて判別出来るようになる。階段だ。白黒(モノクローム)の視界の先に、下に続く狭く急な螺旋階段が覗く。

 フレデリカと顔を見合わせて頷き合う。ビンゴ、だ。目的の魔術はこの先にあるに違いない。


 螺旋階段を下り、慎重に扉を閉じると外界からの視線を完全に遮蔽したことになる。ふぅと息を吐いてから【隠ぺい】を解除する。この先に隠術は必要ない。

「もう喋っても大丈夫かしら」

「ああ、多分ね。さすがに明かりは灯せないから視界は【身体強化】で視力を強化したままで」二人慎重に螺旋階段を下る。ジャンフランコが階段の壁に触れると壁の中の魔力の流れを感じる。この壁の向こうにも魔導線か【魔法陣】があるのか。「ちょっとゆっくり降りるね」『【神測(デジタイズ)】【非破壊走査(NDI)】』......【魔法陣】だ。この壁の向こう側にあるのは見たことのない【魔法陣】。丁寧に一つ一つ写し取りながら階段を下っていく。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 螺旋階段は長く、礼拝堂の地下にまで届く。終着点は螺旋階段以外に出入り口のない10m四方程の広さの部屋だった。

「ここが秘術の隠された場所なのかしら」「一見したところ、何もない部屋のようだけど」「そうね......あら?」

 何事かに気づいたフレデリカがジャンフランコの肩を軽く叩いて下を指差す。指差す先にあるのは床だ。いや、ただの床じゃなかった。床全面に大きく複雑な紋様が描かれている。何より、足元から脈動するような魔力の流れを感じる。

「この床一面の模様がお探しの物かしら?」

 フレデリカのその問いに答える前に、ジャンフランコが神測(デジタイズ)を起動して紋様にかざす。間違いない。これも【魔法陣】だ。ジャンフランコが頷くと、それでフレデリカには伝わる。

「床と壁の間に溝のようなものが見えるかい?」「ええ。落ちないように気をつけないと」全面に【魔法陣】が刻み込まれた床の四囲は壁に接していない。床の縁が階下に向かって落ち込んだようになっている。大きな部屋の中に一回り小さい立方体がスッポリ収まっていると言えば判るだろうか。床だと思っていたのは立方体の天面だったわけだ。


 まずは【細密走査(ディープ・スキャン)】を発動して、床(天面)に広がる【魔法陣】を写し取る。暫くして判ったが、丁度人が一人蹲(うずくま)ったくらいの面積の【魔法陣】が無限に繰り返し刻み込まれているようだ。


【細密走査(ディープ・スキャン)】を続けて床の縁に到達する。そこから階下を覗くと、壁側にハシゴが作り付けられているのが見つかった。床の縁から壁までの距離は大人一人の肩幅くらい。大人なら手を伸ばせば楽々届く距離だが、五歳児の身長では少々アクロバティックに飛び移る必要がありそうだ。

「わたくしが先に降ります」フレデリカがハシゴに飛び移ると、慎重に下に向かって降り始める。続いてジャンフランコ。

 ハシゴに取り付いて見回すが、目の前の壁面に【魔法陣】らしき物はない。壁の奥に魔導線らしき魔力の流れを感じるのみ。振り返ると背中側の壁面〜立方体の側面か〜そこにはやはりビッシリと【魔法陣】が描かれている。『コレを写し取るのか』壁面と立方体の側面との間の空間は子供の手では届かないくらいの奥行きはあるが、側面〜これも10m四方くらいはある〜の一面に描かれた【魔法陣】をくまなく写し取る作業には子供の身体にとっても微妙に狭い。

「下も安全そうです。そのまま降りてきて下さい」

 苦労しながら何とか下まで【魔法陣】を写し終わってもハシゴは更に下まで続く。立方体はどうやら部屋の床から離され、四隅に立つ柱で支えられているようだ。床に降り立ち下から立方体を見上げると底面にも【魔法陣】が描かれている。


 ああ。本当に立方体が一回り大きな部屋の中にスッポリ収まっているのか。

 底面が床から浮かされているところまで徹底している。

 天面、側面、底面いずれにもビッシリと【魔法陣】の描かれた立方体。おそらくは残る三つの側面にも【魔法陣】が描かれているはずだ。

 入り口となった尖塔の位置関係を基準に現在位置を推測する。間違いない。立方体の位置は、礼拝堂の真下。ドンピシャ「幻の書庫」の位置と重なる。

 天井・壁面・床全ての面の外側に【魔法陣】を刻まれた立方体。それこそが、あの「幻の書庫」そのもの。そこを覆い尽くす【魔法陣】こそが「幻の書庫」を「隔絶された時空」に封じ込める魔術の正体ということになる。


「うん。間違いない。これこそが探してた物。「幻の書庫」を成立させている魔術の正体だね」初めて見る大規模な【魔法陣】の構造にジャンフランコの声が熱を帯びる。「あと残りの【魔法陣】も確認してしまわないと」


 その後、残る三つの壁面についても苦労しながら【魔法陣】を取り込む。

 最後の壁面だけは若干様子が異なっていて、外の壁から中に向かって斜めに立方体に繋がる円筒のような構造があり、ハシゴと【魔法陣】は、それを避けるように配置されている。これは、おそらく地上から「幻の書庫」に向かって降りていった階段の外側であろうか。


 別の発見もあった。すべての【魔法陣】には僅かではあるが常に魔力が流されており、それを逆に辿っていくと床から壁面へと繋がる魔導線があり、最終的に螺旋階段の壁面の奥に隠された複雑な【魔法陣】に辿り着く。


 魔力の供給元は螺旋階段の上にあり、それが【魔法陣】を経て各属性に分けられ、「書庫」を取り巻く【魔法陣】に供給されていることが分かった。

 繊細で巧みな構造、その見事な造りに感動を覚える。「幻の書庫」を構築した存在〜おそらくは先に【雲隠れ】の魔法を授かった先人と同一人物であろう〜の仕事であろう。

「ねぇ、考えてもみてよ。この魔術は一過性の物じゃない。何百年前か分からない、そんな昔から作動し続け、「書庫」に隠された知識を破壊や経年劣化から守り続けているんだ。どんなことを学び、どんな経験を積んだらこんな素敵な魔術を構築できるんだろうね」


「書庫」の全周を覆う複数の大規模【魔法陣】に加えて、その【魔法陣】に絶えることなく魔力を供給し続ける複雑な仕掛け、それを含めたすべてが「幻の書庫」を覆う【隔絶された時空】を構成する要素となる。これを持ち帰り解析し、いずれは新たに自分のための【隔絶された時空】を作り出す。そのためのすべての要素をジャンフランコは手にしたのである。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 目的は果たしたが、そのために大量の魔力を消費した。

 帰りは【隠ぺい】の魔法を常時発動したままそれなりの距離を移動する予定であり、無事に脱出できるかどうかはジャンフランコの魔力残量にかかっている。念のため用意した魔力回復薬をチビチビ舐めながら身体を休める。そうして時間が経過すれば脱出する頃には日も暮れ、夜闇が隠術の効果を底上げしてくれるだろう。

 待っている間、【魔法陣】の解析に手を付けたい衝動に襲われるが、帰路の安全のための魔力の回復が最優先である。

 その間フレデリカは、狭い場所でも有利に立ち回れる武器、刺球つき棍棒(モルゲンステルン)を構えて螺旋階段の先への警戒を怠らない。

 ふと、誰かに呼び出される感覚を覚える。フレデリカを近くに招き右手と右手を重ねると、妖艶な美女〜女神グヒヤデーヴィー〜が二人の間に顕現(けんげん)する。


「初めて目にするが、これがあ奴の仕事かの」女神が周囲を見渡し嘆息する。何百年もの間継続して作動する【魔法陣】というのは、神々の目から見ても偉大な仕事なのであろう。

「其方はこの【魔法陣】を使って何をするつもりじゃ?」

「ここと同じ時空を別の安全な場所に作り上げ、隠された書庫の蔵書を移します、または写本を作り、幻の書庫をもう一つ作り上げます」

「それはなかなかに豪気な夢よの。其方のような者があ奴の仕事を引き継ぐのであれば、あ奴も浮かばれようと言うものぞ」女神は寂しそうに笑うと、「其方に感謝する」とだけ告げて神々の世界に戻って行く。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ようやく日が暮れると【隠ぺい】の魔法を発動して部屋を後にする。

 螺旋階段を登りきり隠し扉を閉じると、鐘楼の床に礼拝堂の屋根を葺いたのと同じものと思しき30cm四方程の板が何枚か積んであるのに気付いた。おそらくは屋根を葺いた余りか予備であろうか。一つを手に取ってみると非常に軽く頑丈な薄い板で、裏返すとそこにもやはり【魔法陣】が描かれていた。フレデリカと目を合わせ頷きあい、1枚ずつ拝借して【鍵】の疑似(quasi)魔導具の先の空間にしまい込む。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【隠ぺい】の魔法を発動したまま神学校の敷地を離れ、二区画程先で待機していた馬車に乗り込み【隠ぺい】の魔法を解除すると馬車が動き始める。

 尾行を撒くために暗く込み入った区画に乗り入れると馬車ごと【隠ぺい】の魔法を発動する。これを何度か繰り返した後にスフォルツァ邸に到着すると、ようやく二人は緊張を緩めることができた。

ここから、また解析と実験の日々が始まります。


今回の新要素:

・ 「隔絶された時空」を構成する魔法陣(複数)

・ 礼拝堂の屋根を葺(ふ)いていた板材

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初めての作品投稿です。


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