礼拝堂攻略
【隔絶された時空】の魔術を得るため、念願の礼拝堂攻略です。
ジャンフランコと、更に言えばフレデリカの変貌は神学校にちょっとした騒ぎを引き起こした。
二人とも髪色と瞳の色だけを見ると兄妹のように見える。
まったく同じ、神々しささえ感じさせる濃密で芳醇な闇の色。
教会関係者ですら「邪悪」とは正反対の「神聖さ」を感じざるを得ない闇の色は、結局は魔道具を弄っていての事故の結果と説明された。
メディギーニ商会やシュナウツァー商会の関係者からは二人が「魔道具狂い」と認識されており、「危ない魔道具を弄っていた」との説明も「然もありなん」と納得されていた。
教会関係者の間ではフレデリカの母親のフローレンスが注目を集めたが、他でもない高位の教会騎士である彼女はむしろ「聖なる色を得た」娘の変貌を歓迎していた。そうなると、学校関係者も特段の問題とするのをやめた。
あとはせいぜいジャンフランコとフレデリカが同じ髪色・瞳の色になったことに想像を逞しくさせては嬌声を上げる、少々背伸びした女生徒達が残るくらいである。一年生だけにとどまらず噂を聞きつけた上級生までが教室をコッソリ覗き込み、二人を見つけると廊下で騒いだり教室の中にまで入って来て詰め寄ったりと、なかなかに迷惑な存在ではあったが。
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下校前、学用品をカバンに詰め込んでいると、見知らぬ女子生徒が話しかけてきた。
「あの、ジャンフランコ君って魔導具が好きなのかしら?」
「そうですね。分解したりとか?偶に失敗して酷い目に遭ったりしますが」軽薄な笑みを浮かべ当たり障りのない答えを返す。
秘事の女神の使徒となってから、自分に近づいて来る女生徒が増えた気がする。そう思いながらフレデリカの方を見ると彼女も何人かの男子生徒に囲まれて苦笑いを浮かべている。
ジャンフランコとフレデリカ二人の髪と瞳の色が同じになったことから、二人が将来を誓い合った仲ではと噂になったが、それ以降、二人とも学校で声を掛けられることが増えた気がする。案外、誰かと仲が良い異性というのはハズレじゃない保証のように考えられて、仲良くする対象に数え入れられるのかも知れない。
確かに二人の間には終生の誓いがある。生命を賭して主を護る、護衛としての誓いに女子生徒達がときめきを感じるか否かは不明であるが。
いつまでも彼らに捕まっている訳にもいかず、ちょうどフレデリカと目が合ったタイミングで軽く【認識阻害】の魔法を発動させる。
少しずつ魔法の強度を上げていくと、ジャンフランコに話しかけていた女子生徒の視線が彼から外れ、関心が薄れていくのが手に取るようにわかる。同じように男子生徒の視線を振り払ったフレデリカが歩み寄って来るのを確認してから、【隠ぺい】の魔法を発動する。周りを見渡して二人に視線を向けている生徒がいないことを確認して、【隠ぺい】の魔法の強度を上げていく。
フレデリカと二人教室から歩み去るが、周囲の生徒は誰一人関心を向けない。
このところこんな風に教室を抜け出すのが毎日の習慣になりつつあるが、これはこれで魔法の操作技術を練る練習となるので悪くはない。
周囲に【看破】の魔法の兆候がないことを確認しつつ、礼拝堂の方に向かって慎重に進んでいく。
教会騎士団はようやく監視を緩める気になったのか、ここ二、三日で神学校内の要所要所に配された監視要員の数が次第に減っている。このままいくと、あと数日で監視要員が全員引き揚げることになりそうだ。校内を監視する眼が減ると、より目的地に近い場所で【隠ぺい】から【雲隠れ】に魔法を切り替えられる。誰にも気付かれず礼拝堂に接近する確率が上がるのだ。
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その後二週間ほどを安全なコース構築と準備に充てた後、いよいよ礼拝堂への接近を試みる。
手順はこうだ。
まずは放課後一度下校するため馬車に乗り込むが【雲隠れ】の魔法を発動し即馬車を下りる。馬車が出発するのを見送り、徒歩で裏門まで移動するとそこから再度神学校の敷地内に侵入する。
新学期が始まり裏門付近に結界が張られなくなったことは確認済みであるし、インク転売ヤーの検挙・捜査も一段落してから時間が経ち、付近に警戒する目が置かれなくなったことも同様。
慎重に礼拝堂に近づくと、以前は気付かなかったが礼拝堂入口が鎖で封鎖されているのが目に入る。
古い鎖であり、もう長い間封鎖されていることがわかる。
ジャンフランコは、目指すものに辿り着くためには通常とは別の入り口を見つける必要があると目星を着けている。【神測】【心眼】を起動し礼拝堂の周囲を探るがそれらしき入り口はない。
【身体強化】を発動し、フレデリカを伴い屋根の上にあがる。
小さな尖塔があり、かつては鐘楼であったであろう場所に潜り込むと、その床に小さな扉を見つけた。
少し力を入れて持ち上げるとホコリが舞い上がり、下に続く狭く急な螺旋階段が覗く。
ここまで、隠密行動を取る者を探知・感知しようとする動きは周囲にまったく感じられなかった。
礼拝堂までの到達が今日の目的だったが、次の行動に移っても問題なさそうだ。目的の部屋に侵入して 【隔絶された時空】の【魔法陣】を得ることに目標を変更する。
【心眼】を発動したまま慎重に階段を下る。階段の壁に触れると壁の中の魔方陣を感じ取ることができ、それを丁寧に一つ一つ写し取りながら階段を下っていく。
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螺旋階段の終着点は、礼拝堂の地下であろう、10m四方程の部屋だった。
床には全面大きく複雑な【魔法陣】が描かれ、部屋の四方は階下に向かって狭く深い溝が掘られている。
ここまで降り立てば安心と【雲隠れ】の魔法を解除する。先に「幻の書庫」に入った経験からすると、ここはもう昔からこの場所を隠し続けてきた方の【雲隠れ】の魔法の効果範囲に入っているであろう、
まずは【細密走査】を発動して、床に広がる【魔法陣】を写し取る。ふと見上げると天井にもビッシリと【魔法陣】が描かれている。
目に付く限りの【魔法陣】をすべて写し取り終わると階下に続く溝を覗き込む。外側に向けてハシゴが造り付けられており、下っていくと縦横10mほど、奥行き方向には1mもないような異様な部屋になっている。壁面にはやはりビッシリと巨大な【魔法陣】が描かれており、すべてを写し取るとハシゴを登って戻る。
隣の溝に移り、更に隣の溝、と同じことを繰り返す。
最後の部屋だけは若干様子が異なっていて、外の壁から中に向かって斜めに部屋を突っ切る構造があり、ハシゴと【魔法陣】は、それを避けるように配置されている。これは、おそらく地上から「幻の書庫」に至る階段の外側であろう。
ハシゴは更に階下に向かって伸びており、降りた先は天井が低い10m四方程の部屋である。部屋の四隅の柱が、おそらくは「幻の書庫」であろう部屋を支えている。この部屋は天井・床を巨大な【魔法陣】が覆っている。
すべての【魔法陣】には僅かではあるが常に魔力が流されており、それを逆に辿っていくと壁の中に隠された複雑な【魔法陣】に辿り着く。
魔力の供給元は螺旋階段の上であり、それが【魔法陣】を経て各属性に分けられ、「書庫」を取り巻く【魔法陣】に供給されていることが分かった。
繊細で巧みな構造、その見事な造りに感動を覚える。おそらくは先に【雲隠れ】の魔法を授かった先人の仕事であろう。何百年もの時を経てなお作動し続け、知識を失われないよう守り続ける。その仕事に素直に感動する。
部屋の周囲を覆う複数の大規模【魔法陣】だけではなく、魔力供給のための複雑な仕掛け、それを含めたすべてが「幻の書庫」を覆う【隔絶された時空】を構成する要素となる。これを持ち帰り解析し、いずれは新たに自分のための【隔絶された時空】を作り出す。そのためのすべての要素をジャンフランコは手にしたのである。
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目的は果たしたが、夜闇に紛れて脱出するため部屋の中でそのまま夜を待つ。待っている間、【魔法陣】の解析に手を付けたい衝動に襲われるが、帰路の安全のために魔力の回復に努める。帰りは【雲隠れ】の魔法を常時発動したままそれなりの距離を移動する予定であり、無事に脱出できるかどうかはジャンフランコの魔力残量にかかっている。念のため用意した魔力回復薬をチビチビ舐めながら身体を休める。フレデリカは、狭い場所でも有利に立ち回れる武器、刺球つき棍棒を構えて螺旋階段の先への警戒を怠らない。
ふと、誰かに呼び出される感覚を覚える。フレデリカを近くに招き右手と右手を重ねると、女神グヒヤデーヴィーが二人の間に顕現する。
「これがあ奴の仕事かの」女神が周囲を見渡し嘆息する。何百年もの間継続して作動する【魔法陣】というのは、神々の目から見ても偉大な仕事なのであろう。
「其方はこの【魔法陣】を使って何をするつもりじゃ?」
「ここと同じ時空を別の安全な場所に作り上げ、隠された書庫の蔵書を移します、または写本を作り、幻の書庫をもう一つ作り上げます」
「それはなかなかに豪気な夢よの。其方のような者があ奴の仕事を引き継ぐのであれば、あ奴も浮かばれようと言うものぞ」女神は寂しそうに笑うと、「其方に感謝する」とだけ告げて神々の世界に戻って行く。
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ようやく日が暮れると【雲隠れ】の魔法を発動して部屋を後にする。
螺旋階段を登りきり隠し扉を閉じると、鐘楼の床に礼拝堂の屋根を葺いたのと同じものと思しき30cm四方程の板が何枚か置いてあったのに気付いた。おそらくは余りか予備であろうか。一つを手に取ってみると非常に軽く頑丈な薄い板で、裏返すとここにもやはり【魔法陣】が描かれていた。フレデリカと目を合わせ頷きあい、1枚ずつ拝借して鍵の疑似魔導具の先の空間にしまい込む。
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【雲隠れ】の魔法を発動したまま神学校の敷地を離れ、二区画程先で待機していた馬車に乗り込み【雲隠れ】の魔法を解除すると馬車が動き始める。
尾行を撒くために暗く込み入った区画に乗り入れると馬車ごと【雲隠れ】の魔法を発動する。これを何度か繰り返した後にスフォルツァ邸に到着すると、ようやく二人は緊張を緩めることができた。
ここから、また解析と実験の日々が始まります。
今回の新要素:
・ 「隔絶された時空」を構成する魔法陣(複数)
・ 礼拝堂の屋根を葺いていた板材
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