冬休み初日の魔法使い修行(スパルタ気味)
ジョヴァンナ無双回です。
母様過去にはいろいろな二つ名もらっていてヤバいです。
冬休み初日の朝、ジャンフランコは朝から盛大に溜息ばかりついている。
どうやら昨夜ジョヴァンナから直々に「魔法の特訓」を申し渡されたことが相当に堪えているらしい。
そもそも、昨夜の夕食時に大雑把ではあるが冬休み中の一日の過ごし方について、ある程度の計画を立てていたのだ。ジョヴァンナの「特訓」にどれほどの時間を費やすかわからないが、ジャンフランコの計画は初日からご破算である。
ちなみに、その基本スケジュールは以下のようなものであった。
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| 朝6時に起床 朝食・身支度
| 7時 魔力操作の訓練
| 9時 フレデリカと共に魔道具作成の練習
| 11時 スフォルツァ領の資料読み込み
| 12時 昼食
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|(移動)
| 13時 メディギーニ商会で「ご学友」たちと勉強&鍛錬
|(移動)
| 17時 自由時間(工房で遊んでよし)
| 18時 夕食
| 19時 魔力操作の訓練
| 21時 入浴・就寝
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ジャンフランコが一番確保したい魔道具を弄ったり魔方陣を探求したりできる時間が夕食前の1時間程にまで削られている気がするが気の所為であろう。また、魔力操作の訓練がなぜか一日4時間も入ったが、コレでもジョヴァンナとの交渉の末減らしたのだ。
なお、メディギーニ商会での勉強の時間は、シュナウツァー工房から呼び出された場合を想定して長めに取ってある。また、単なる神学校の復習・予習を延々行うのではなく、騎士学校や魔法学校の実技の共有と復習なども想定しており、「ご学友」たちとの連携や共同作業の時間を確保する狙いもある。
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そして、冬休み初日の午後メディギーニ商会訪問にはジョヴァンナが同行していた。
本来予定していた「ご学友」たちとの研鑽の予定は初日から白紙撤回である。
ジョヴァンナがわざわざメディギーニ商会を訪問しているのは、彼女が想定する「特訓」はスフォルツァ邸では出来ないため。要は地下の演習場を借り切ってジャンフランコに魔法を見せるためである。
しかもジョヴァンナの手持ち魔法の披露は今回だけで終わるわけではない。威力を抑えたとしても演習場を破壊せずに使える攻撃魔法は彼女の手持ちの中にはそう多くはないためである。影響が広範囲に及ぶ戦略級の攻撃魔法についてはリモーネ王国内で放つことは憚られ、どこでブッ放すかを解決するまではオアズケである。
単体ないし小隊規模の敵を想定した攻撃魔法をジョヴァンナが次々と放ち、それをジャンフランコが【神測】【細密走査Ⅱ】で読み取るという作業が延々と続く。その後はジャンフランコが実際に【神測】【実証】で攻撃魔法を発動させ、命中精度や発動速度などにジョヴァンナがダメ出ししてやり直しを命じる。
ジョヴァンナによる特訓のやり方は完全にスパルタ式である。
その間、「ご学友」たちは事情を知らされないまま勉強部屋に籠っているのだが、地下の演習場から延々と聞こえるこの世のものとは思えない破壊音と地鳴りに怯え続けていた。
小一時間経過したところでジョヴァンナとジャンフランコが勉強部屋に現れる。二人揃って魔力回復薬をゴクゴクと飲み干す。ジョヴァンナは魔法使い見習いたちに親を呼び出すよう命じ、ジャンフランコはその場にへたり込もうとする…のだが、ジョヴァンナがそれを許すわけもない。
「ああ、我らが戦姫様が帰ってきた」いつの間にか勉強部屋に入ってきていたメディギーニは嬉しそうにその姿を見つめる。
「魔王級の災厄」「皆殺し姫」「スフォルツァ領の最終兵器」「一騎当万」との二つ名をほしいままにした彼女の過去を懐かしむかのように目を細めたメディギーニに、「久しぶりに身体を動かしてみてわかったのだけれど、やっぱり多少の錆つきは致し方ないわ。この子のお手本になれるよう勘を取り戻さないとね」と告げる。
ミルトンの政変の折は、懐妊により彼女自身の天恵発動にリミッターがかかっており、家族を巡る悲報にも耐え忍ぶしかなかったジョヴァンナであったが、出産後5年を経てようやく全盛期に近い魔力を行使できるまでに回復していた。
逆に言えばジョヴァンナの婚約と懐妊の情報がなければ、ミルトンの急進主義者たちも革命まがいの一斉蜂起に踏み切ることはなかったであろう。
ジョヴァンナが想いに耽っていると、そこに「お召しにより参上しました」と壮年の男たちが次々入室してきて勉強部屋が一気に狭くなる。
「ファッシーナ子爵、アギーニ子爵、フィオリオ子爵に命じます。わたくしが持ってない火と金の属性の攻撃魔法、それから弱体・強化の魔法を我が子ジャンフランコの前で使って見せて下さい。シビエロ侯爵にもお付き合い願えるかしら?」
声を掛けられた四人の杖の天恵持ち達はジョヴァンナの前に跪く。
だが、その四人以外にも筋骨隆々な男たちが部屋に押しかけている。
「あら、あなた達は呼んでいませんよ」と彼らに告げると、「殺生なことを言わんで下さい。姫様と若様お揃いの場に同席を認められないなど、どんな責め苦を受けるより辛うございます。騎士の身とて魔法使いとしての若様の力量は気になるのです」と返すのは亡命貴族としてメディギーニ商会に居候するチェラート伯爵だ。
成年の杖の天恵持ちを呼んだら、用もないのに剣の天恵持ちまで来てしまったわけだが、とりいそぎジョヴァンナは彼らに用はない。
「あなた達の子供達が部屋の片隅で押しつぶされそうじゃないの。仕方ないから貴方方が地下の演習場についてくることだけは許可します」
ジョヴァンナがジャンフランコを引き摺るようにして勉強部屋を出ていき、男たちがゾロゾロと付き従って出ていくと、後には未だ状況を理解できてない子供達がとり残される。
「ねえ、お父様達の魔法をジジに見せると聞こえたんだけど」
「ジジは杖の天恵持ちではないよな。あとで父上に伺えば何があったか教えていただけるだろうか」
「多分ですけど、ジョヴァンナ様から『他言無用』を言い渡されてるのではないかしら」
「だよね」
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「さて、この演習場を壊さない程度の火力まででわたくしの使える攻撃魔法は全部ジジに見せてしまったの。皆様にお願いしたいのはそれ以外よ」
「それでは小生から」と進み出たのはシビエロ侯爵。黒髪黒目の痩身から、炎の魔法を次々と繰り出す。
「そこまでで結構です。ではジジ、ちゃんと覚えているかの確認よ」
まっすぐ高速で的に突き刺さる炎の矢、ユラユラと揺れる軌道で的に近づく火の玉、的の周辺に降りしきる炎の雨など、ジャンフランコがシビエロ侯爵の放ったのと同じ魔法を次々放ち、その度に男達から歓声が上がる、
「では、次はわたしが」と進み出たのはアギーニ子爵。やや縮れた黒髪で彫りの深い顔立ちの男性が今度は金属性の魔法を放っていく。
嵐のように渦巻きながら的に近づき跡形もなく寸断した刃の群れ、的の周囲360度すべての方向から的に向かって集まる雷など、続けざまにジャンフランコがアギーニの後をなぞって同じ魔法を発動させていく。
それは、そこに集まった成人の魔法使いとジョヴァンナが満足するまで続き、後には疲労困憊して襤褸布のようになったジャンフランコが残された。
魔力回復薬の瓶を咥えたまんまへたり込むジャンフランコを横目に、ジョヴァンナが告げる。
「今日はありがとうございました。今日のことはくれぐれも他言無用に願いますね。それと、今日のお帰りは、皆様お子様を迎えにいらっしゃった体でお願いします。さすがに皆様が何の理由もなく集まったとなると、望ましくない噂が立たないとも限りません」
「それは残念。スフォルツァ辺境伯家未だ健在なりを示してミルトンの狂信者どもの心胆を寒からしめたいところですがな」
「リモーネ王国内の支援者にご迷惑をかける訳にはいかないの。くれぐれも自重をお願い」
「承りました。それにしても、若様はひょっとして全属性ですか。杖の天恵持ちではないと伺って残念に思っておりましたが、生半可の魔道士よりもよほど強力な魔法使いではありませんか。しかも、見るだけで魔法を習得できるなど、末恐ろしい限りですなぁ」
「ちょっと特殊な天恵なのです。ここまで開花させたのはこの子の努力と探究心の賜物ね」
「行く末が楽しみですなぁ。姫様手ずからお育てになるので?」
「基礎だけはわたくしが叩き込もうと思うの。でも、魔法戦を想定した訓練は貴方達のお子様達と一緒にお願いしたいわ。それと子持ちの女に今更『姫様』はやめてね。わたくしは、貴方達に『ご当主』と呼ばれる日を心待ちにしている女よ」
「かしこまりました。では本日はこれにて失礼いたします」最後まで残ったチェラート伯爵が一礼して踵を返し、演習場を辞していく。
その背中を見送る母の姿を横目に見るジャンフランコは、彼女の頭の中で地獄のような訓練計画が練られていることを知る由もなかった。
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体力の限界を超えてへたり込んでいたジャンフランコを無理やり立たせて、ジョヴァンナは上階の勉強部屋まで連れていく。そこで待っていたフレデリカに馬車の用意を指示するとメディギーニに声を掛けて汗と汚れを落とすために風呂を借りに行く。
襤褸布のようになって座り込んでいたジャンフランコだったが、ジョヴァンナがドアを閉めて勉強部屋を出ていくのを見届けると、急にそそくさと動き始めた。まっすぐにロッカーに這っていくとシュナウツァー工房で譲り受けた闇属性の魔道具を引っ張り出した。
神測を起動すると、スイッチらしき場所に左手で触れて光属性の魔力を流し込む。中の魔法陣が魔力で満たされたのを確認してから、【非破壊走査】を使って右手で中の魔法陣をスキャンする。
一つ目!
次の魔道具を取り出し、左手で魔力を流し込む。右手で中の魔法陣をスキャン。
二つ目!
そして五つ目もスキャン完了しニンマリしながら顔を上げるとちょうど戻ってきたジョヴァンナと目が合う。ジョヴァンナの目線が、ジャンフランコの顔から魔道具の一か所を押さえている左手の指に、そして魔道具に添えられた右手に、と動く。
フレデリカが諦めたように溜息をつき目を逸らす。
そこから、ジャンフランコが機械仕掛けの人形のようにぎこちなく動き魔道具をロッカーに戻す。ギギギっという軋み音が聞こえてきそうな動きだ。そして、ジョヴァンナの方に向き直ってニコリと笑って「母様、お待ちしておりました。帰宅いたしましょう」と告げる。
「わたくしは何を見ているのでしょうか。説明してくださる?」
「シュナウツァーさんが大事に保管されていた魔道具を譲っていただきまして、壊して分解したりするのが惜しく、撫で擦っていただけでございます」我ながら気持ち悪さの極みのような言い訳であるが、ジョヴァンナが信じてくれれば御の字だ、とジャンフランコは期待する。フレデリカがそっと横を向いたのが視線の端の方に見える。
「フレデリカ。あなたには何が見えましたか」
「わたくしはジジが魔道具を引っ張り出しては愛おしそうに撫で擦ってから元の場所に戻すのを見守っておりました」
ジョヴァンナの額に青筋が立っているのを見て、必死に言い繕う。
「お言いつけどおり、分解などは一切しておりませんよ。何なら魔道具の発動もさせておりません」
「それで、その魔道具は使用に耐えるのですか?」
「はい、闇属性の魔石さえ入手できれば普通に使えます!魔力が切れているだけで故障しているわけではありません!」
「魔石の魔力は切れていて交換しようにも魔石の入手は絶望的、ということであれば無用の長物です。まったくあなたは」
『あ、廃棄確定だこれ。シュナウツァーさん曰く希少な魔道具なのに。捨てるというならシュナウツァーさん に返却しなきゃ』
「仕方ないですね。持ち帰ってもいいですよ」予想外の言葉がジョヴァンナから聞こえてきてジャンフランコは固まる。「本当によろしいのですか」
「メディギーニ商会にフローレンス経由でロドリーゴ様から言伝がございました。あなたの工房の工事が完成したそうです。明日の自由時間までに基本的な什器を入れておきますし、メディギーニ商会から戻り次第工房のカギを渡します。その後夕食までの時間にお部屋に残ってるほかの魔道具と一緒に運び込んでしまいなさい」
その後、どのように自宅に帰ったか、まったくジャンフランコの記憶に残っていなかった。夕食時に抱きかかえている魔道具を離すように言われて初めて、自分が魔道具を大事そうに抱きかかえていることに気づいたほどである。
夕食後の訓練でもインクの魔道具や暖炉の魔道具ではなく、いまだ使途の判明していない魔道具由来の魔法陣を呼び出して発動させようとするなど意味不明の行動が多いことを見とがめられて、そのまま入浴と就寝を指示されることとなった。
翌朝、顔色の悪さを皆から指摘されて初めて、軽い魔力枯渇の症状が出ていたことを自覚した。完成した工房を一目見ようとしたが叶わず、朝食後早々に寝台に逆戻りし訓練までの時間を寝台の上で過ごすことになった。
ジャンフランコ君、これで大抵の魔法使いより多数の魔法を操れるようになってしまいました。
(ちなみに、文中の「手ずから育てる」は養育ではなく、魔法使いとしての訓練の方です。)
けれど、彼にとっては魔道具の解析以上に楽しいことはないのです。
母親によって数多の魔法を叩き込まれたことにより、魔道具解析のための情報が(強制的に)大量に与えられました。今後が楽しみです。
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