82
時間と場所が変わって、冒険者協会の外にて。会長とモモナーが対峙している。
自分の身元をアピールしていたモモナーに、しばらくの間、二人は沈黙のままだった。
そして、率先して声を出したのは会長だ。
「……はぁ。せっかくの休憩時間なのにな。」しょうがない感じの口調。会長は折れた。
理由はほかでもない。モモナーの口答えはあまりにも自分が知っている“あの子”と似通っているから。
まあ……顔も若干似つかわしい部分もあるが、特にそばかすのところが……案外あの子は実はそばかすの方が本体かも!
こっそりと失礼な考え方をしている会長だが、モモナーはここで話しかけた。
「“副会長”……何が失礼なことを考えていないでしょうね?」若干皮肉な語気。モモナーが何となく察していた。
「え!いや、ないよ。そんなこと……」疑わしい目で見られて、会長は耐えられなく、「コホン」と咳払い、話題を逸らす。
「コホン!それより、君が言いたいことはわかった。それで、真面目な話……」
モモナーはここまで聞いて、さっきの疑わしい目つきが消えて、顔色も厳粛になった。
「――君は、メリナーなのか?」と会長の言葉が空気の中に響いた。
1秒
2秒
少しの時間が流れ、モモナーが答えた。
「ええ。そうだよ。かつて刺客であり、無理やりクソ会長に任命された、兼職の受付嬢――あのメリナーです。」
驚き……いいえ、交流していた時、会長はすでに心の準備ができた。そこまで驚いていなかった。
ただ少し混乱していた。
無理もない。ノールのこともそうだが、昔の友人が自分を見つけてきたこと、特にその友人はすでに逝去した故人だった場合、全てが自分の身に起きた時、混乱するのも当然だった。
だが、それは全て昔の経験だからこそ、起きたことだ。そんな経験がなかったら混乱しない。会長の身に起きたことがその証拠である。
ただし、こんなことが全て起きた時、もうただの偶然には見えない。見えないし、もし他人から聞いた話だったら、何かのお伽話でもそう書かないだろうと思ってしまう。
現実は小説より奇なり。会長は昔――“副会長”だったの頃――教会に通ったことがある。その時の言葉はふと蘇った。そして今、彼は思考を巡り、現実を受けていた。
「……わかった。君が自分の身分を晴らしたのなら、俺も自分がこうなった経緯を話したほうがいいだろう。」会長は左見て、右見て、少し周りの環境を観察した後、「中に話そう」とモモナーに告げた。
身をひっくり返し、冒険者協会に入ろうとすると、後ろから――
「あ、あまり長話はやめてね。アタシ、そんなに時間がないから。」とモモナーの声が伝わった。
「うん?どういう意味?」
「……時間制限があるの。毎回の時間、少しずつ少なくなっていく。」
“時間制限”、“毎回”、“少しずつ”……
「……そうか。わかった。なるべく短く話す。」
「ええ、そうすると助かる。」
「あ、そうだ。“天界”のこともついでに聞こうか?」
「お!そうだね!ウサちゃん、だっけ?」
「……本名はローランだけどな。」
「……(説教おじさん)」
「なんか言った?」
「いいえいいえ、何も言ってない。」二人は会話しながら冒険者協会に入った。
****
冒険者協会の中、ティラエスとローランが気絶のサティマを世話して、会話していた。
「やはりティラエスさんはやりすぎですよ……ずっと気絶したままじゃん。」とローランが言った。
「やりすぎだのはこいつもだ。あの子の言動は他の神官とはちょっと違う……“神官”らしくない。だがこいつは明らかに自分の思い込みで攻撃しようと思っている。」
「いいや、でもまだやってないでしょう……」
「未然に防いだほうがいいだろう。それとも何?見過ごして、もう一度ギルド内に戦闘になったほうがいいと?」
「いや、それも違うけど……ただもっと話し合った方が――」
「いいか。交流ということはな……話し合うだけでは足りないんだよ。それは、俺とこいつが身をもって知ったことだ。」とティラエスが言った。
ローランは黙っていた。ティラエスとサティマには自分の事情があるから、何も言えなかった。
しばらくの間、沈黙が続いた。すると、早くも足音が響いた。会長とモモナーの二人だった。
さっき会長がモモナーに手を出していると、一瞬で冒険者協会の入り口付近にいた。
会長のことだから、またティラエスとローランは気絶しているサティマを世話するつもりだから、二人は会長とモモナーのことを阻止しなかった。
それに、何故か戦闘になりそうな雰囲気ではあるが、会長とモモナー二人とも戦いにならないと思っている。
実際二人の予想が当たったし、会長とモモナー二人がその間、ずっと会話していた。会話の内容は詳しく聞こえないため、気にしていなかったが……
でも、二人は仲良しの感じに冒険者協会に入っていたのは、さすがにちょっと驚いていた。特にローランは。
「あ……!」
ちょ、ちょっと会長さん!なんでまた連れて返ってくるんだよ!それに、なんか――二人は、私のほうに――ローランは思わずカウンターの裏に隠れていた。
ローランは当然ちょっと前のことが覚えている。思わず一つの単語――天界――に反応してしまったことを。そして、ちょっと間抜けで半人前の彼でもわかっている。今、その火種がまもなく自分の身にふりかかっていることを。
カウンター裏に隠れていても、会長とモモナーは構わずカウンターの近くに歩き、そのまま話しかけた。二人は彼が隠れる前にちゃんと見えていたのだった。
「ローラン――」
「ウ・サちゃん!君の会長はね、伝えたいことがあるの。アタシもね。聞きたいことがある。だから、ちょっとだけでいい。出てくれない?」
「……強引だな。」
「さっきも言ったけど、アタシはあまり時間がないの。」
「そうか……そうだな。」
「だからね、ウ・サちゃん――♪」
こうして、ローランは二人に会長室に連れていかれた……
****
「――と、こんな感じだ。」
「なるほど……つまり、アタシの件で以来、副会長は――会長はすぐに色んな理由に付けられて、左遷された、と……」
「ああ……無理やりの冤罪に結びつけ、降格させる。奴らの一貫な手口だ。」
「そんな……じゃあ、会長さんは名声がどん底に落ちたのは……」ローランの話に対して、会長は阻止するつもりはなく、ただしょうがないと肩を竦めた。
「奴らの“おかげ”、だね。首都圏のバーテリアー、ハーダル伯爵のドンテム、また三年前にいたメーラー……そんなところの冒険者協会のいざこざのおかげで、四回目でここにいたわけ……」と会長は目を閉じて、考えこんでいる様子で言った。彼にとって不快な思い出だ。だから、思い出に浸っているわけではない。自分の気持ちを抑え込んでいるのだ。
「っていうか、お前は俺と一緒にここのギルドに移動され、ギルドを建てたんだろう。何でメーラーのことまでわかってないんだよ。」と会長はローランに言った。
「いや、だって私はあの時会長さんとあまり接点がなかったし……あ!接点がありませんし――」「いいんだよ、その思い付きの敬語は……」
「え?じゃあ、このまま敬語をやめるね……」てへへと、ローランはへらへらとそのまま続いて解釈する。
モモナーはこの光景を見て、少々懐かしむよう微笑みを出した。
副会長は、あまり変わってないな……
だが、ローランは解釈を終えると、モモナーはその微笑みが収まった。聞きたいことは聞いた。彼女は会長に話しかけた。
「でも、これでよくわかった。」
「ほお?」
「アタシが『賞金首のグリン』の名前を出すと、会長はあんな反応が出たのを……それは『彼』を守るために、アタシを見極めるつもりだね。」
1秒、2秒――
「『賞金首のグリン』、それは『君』が言ったことなのか?疑問に思ってしまうけど。」
「なるほど……いいよ。アタシに言うつもりがないのね。深く追求するつもりはない。でも、先に言っておくけど。『この子』の『執着心』が怖いのよ。現に暴れそうになるし。」
実は今、モモナーは声なんて聞こえていない。が、それは嵐が来る前の静寂だ。彼女は二回も経験したからそう言える。
一回はその兄さんと別れた時。もう一回は“あの時”だった……本人の意志とはいえ、どれもちょうどアタシに変わっていた。運命論は嫌いだけど、これは必然の偶然だね。
「はは、ならその時はその時だ。今まで遭ってきたことから、執着心くらい甘いものだ。」
「……本当のことなんだよ?」
「ならば、他に聞きたいことはもっとあるだろう?」と会長はローランの方に顎で指す。
話題が自分に振ってくると、ローランは自分が実は無理やり会長室に連れて来られたことを思い出した。ビクッと肩が震わせ、逃げ出そうと足が動こうとした。
だが、そうさせるまいと、モモナーが先に「まてまて!」と、強い力でローランの腕を掴んでいた。
「ああ!いたい、いたいです!」
「ごめん……でも、アタシは別に食ったり殺したりはしないし、なんでそんなにアタシのことを怖がっているのよ。ちょっと傷つくんだけど?」
「だ、だって、そのモモナーというのは『単発のモモナー』でしょう!怖いに決まっています!」
「ええ……?」敬語まで……
「そう言えば、お前らの戦いに入る前に俺もこいつから聞いたな。どういうことだ、その称号は?」
「いや、その称号が知っているなら、ここみたいなギルド――」「ギルドブレーカーだよ!」とモモナーはローランに口を挟まれた。
モモナーは話が中断されて、少々不機嫌だった。その気持ちが察知した会長は申し訳ない感じに「……すまん」と言った。
「いいのよ……逆に考えて、これはこれでいいかもしれない。この子も情報屋だろう?」
「え、ちょ、ちょっと、なんでしって――」
「おお。よくわかったな、それで――」「ちょっ!会長さん!何で教えたん?!」
「……そう慌てるな。それに、お前がさっき言いたいことは肯定するようなものだ。本当に情報を与えたくないなら、まず話題の主導権を自分のものにしろ。」
「う……それは……」
この状態を見て、モモナーが会長に言った。
「なんか大変だね。」
「……まあ、お前の時よりだいぶ楽だ。」
「なによ。アタシがとてもヤンチャみたいなその言い方……」
「ヤンチャしている頃があるだろう。」
「……ま、否定はしないけど。」
この答えを聞いて、会長はため息をついた。
また、口に出していないが、ローランは少し二人の関係性が気になっていた。こんな会話をしていたら、ローランでも考えられる。もしかして、昔から知り合っていたのか?と。
「……とりあえず、お前はこの子に怖がっているのはよくわかった。怖がるなとは言わない。ただ一つだけ聞かせていい。」
「もしかして……天界のこと?」
会長はモモナーの方に顔を合わせ、アイコンタクトで意志を示した。モモナーは相手の意志を受け取って、「そうだ」とローランに伝えた。
「大事なことだ。この子にとって……」とモモナーは視線が自分の体に向いてこう言った。
少しおかしい行動だが、モモナーが真剣に言っているのだとローランがわかっていた。少なくともモモナーの気持ちがそう伝わってくる。
だからローランは、恐怖心を抑え込んだ。
「わかった……でも、そんなに期待しないでね!そこまで詳しく知っているじゃないかもしれないし、その――」「いいんだよ!」
今回はモモナーが口を挟んだ。
「やっとの手がかりだ……諦めない。この子は、そう伝えている。」
何を言っているのかと……ローランはちょっとわかっていないが、説明するだけなら、そこまで深入りする必要はない。だから彼は会長に話しかけた。
「じゃあ、会長さん……アレを貸してほしい。たしか一ヶ月前に採ったヤツ、会長さんも何個があるはず……」
「うん?ああ、アレか」と会長は引き出しから何かを探していた。
会長が探している間、「アレ?」とモモナーは気になってローランに聞いてみたが……
ローランからは、「無理やり連れてこられたんだから今は持ってない」と答えになってない返事がもらえた。
なにその答え……と返そうとすると、会長は何個の粒ものが机の上に置いた。
その一粒一粒は、キラキラと虹色の輝きを放っていて、つぶらな瞳みたいに半円状のものだと思われる。しかし、しっかり見ていると、実は半円の部分は宝石状みたいな形で、下は円錐状の形をしている。ざっとみ、キノコみたいな半円の表面と画鋲の先端である。
モモナーはすぐにローランが言ったアレがこのものだと理解した。それでも、彼女はこのものの名前がわからなかった。見たことがないから。
「これは?」
ローランはゆっくりと首を振っていた。
「まだ正式の名前がない。古代の遺物……化石、あるいは、“結晶体”。」
結晶体……
「ま、歴史についての研究だな。こいつの趣味だ。俺も時々付き合わされている。」
「……なるほど。それで、このものは天界との関係性は?」
「実は、この結晶体の中には、魔法の力が秘めている!」
???
話が跳躍しすぎて、モモナーは満面の疑問形で会長を見ていた。視線に気付いた会長は、「俺を見るな……」と、“自分で聞け”みたいな感じに指でローランに指した。
「ああ、ええと、魔法は種族によって、その概念は違うということくらいはわかっているでしょう?」
「ええ、まあ……常識だからね。」
「だが、魔法の概念が違えと、魔法に形成した力は、いわゆる、力の源はどこから来たのか、考えたことはありますか。」
「……なるほど。言いたいことがわかった。つまり、その力の源は天界からだと言いたいんだね。」
「そう!そして、その力の源を秘めているものは今、ここにあります!」ローランはまるで「OOが登場!」みたいに、大袈裟に結晶体をアピールするよう両手を振っていた。
「おおー」モモナーは一応雰囲気に合わせて、拍手した。
「じゃあ、このものを使えば、天界のどこかに繋がれるってこと?」と会長はものを取ってこう言った。
「いいや。私、使ってみたけど、ただ魔法が使えるようになるだけだよ。」
……
「は?」
「いや、これはただの消耗品だよ。たぶん、古代のスクロール的なものだと思う……」とローランがこの事実を告げた。
****
人は時には寒気がする。特に、危険なことがせまってくる時、人にも危険本能というものがある。
だから、井上星には見えなくても、自分の身に何かが迫ってきたことくらい感じている。でも、足が動けない。どこに逃げればいいかもわからない。
だから、フリーズになってしまう。
そもそも、見えないものに反応するのは普通にできないことだった。むしろ感じれるだけで、褒めるべきことだった。
ただ、ここはこんなに甘い状況ではなかった。
「脳よ精神よ――」我に従え!
「精霊よ、頼む――」マインドシールド!
魔法の戦いが突然に起きた。
フロンが前に立ち、自分を守るように戦っている。
ピキィ、ピキィという音とともに……
何、この音?井上星には見えないものが破裂している。
あまりの唐突さに、ほぼ放心状態になっていた井上星はこの状況にふさわしくないことを考えていた。
そして、「ぷはぁ!」と、フロンは大量の血を吐いた。
幸か不幸か、井上若実の姿を乗っ取っているその存在は、それでもフロンのことが気になっていない。
ずっとフロンおじさんのことを気にしていない……
「なんーだこれは……何でわたくしの『魔法』は防がれるんだ……いや、そもそもよく見たら、お前は何者だ?」その存在はずっと井上星から注目を逸らさず、話しかけた。
だが、その存在は次の瞬間、またすぐ気が変わったようで、「いや、どうでもいいか……とりあえず――」と言って、もう一度あの言葉を言った。
「脳よ、精神よ――」
フロンはゆっくりと自分の手を挙げて、井上星に指した。
「……精霊よ頼む、マインドシールド……」
ピキィ、ピキィ……井上星は暖かい感じがした。だが、暖かい感じの反対、ピキィピキィという不穏な音がずっと、彼に嫌な予感をさせていた。
直感で分かる。
この音は、良くない音。
この音は、フロンおじさんから伝わってきた音。
”結晶体”の破裂。井上星がわからなかったことが今、進行している。
投稿が遅くなり、申し訳ございません。
今回の話はちょっと長くなってしまいました!




