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これは井上星がまだ小学六年生の頃、井上若実がちょうど1歳の時だった。
井上星と井上若実二人は一緒に家に玄関まで母を見送っていた。
見送る理由はほかでもない。突然会社からの連絡が来た。そのせいで、井上佳月は出かけなければいけない。父の井上智澄も、まだ休みの期間になっていないため、家にいない。
子供だけ家に留守番、共働き家庭だったら珍しくないこと。実際、井上若実はまだ生まれてない時、井上星はすでに何回も姉の井上桃花と兄の井上凜と一緒に留守番したことがあった。今はただ立場が変わっただけだ。
井上佳月は慌てて靴を履いて、手持ちのカバンを持つ。玄関の段差の前で立ち上がる。
「では、行ってくるね!」と井上佳月は二人に言う。
井上星は井上若実にさようならみたいな手を振るポーズを取らせていながら、「いってらっしゃーい……ほら。君も。」「いでらさやぁい!」と二人は順番に語った。
二人が可愛らしい様子を見て、井上佳月はちょっと仕方ない微笑みを出した。そして、二秒もなく、真面目な顔色で井上星に向いて念を押すように言った。
「星君……この間の留守番はお願いね。勝手に外に出ちゃいけないよ。」
「わかってるよ。僕は姉ちゃんと違って、勝手に外に連れ回したりはしない。若実ちゃんとテレビとか、昔の録画のアニメを一緒に楽しむつもりさ。」
「ならいいけど……」
「それに、いざとなったら、切り札を出すから。」
「切り札?ああ……アレね。」初めてやってる時あんなに嫌がってたのに、すっかりはまったな……くすぐりマン。
「うん。なんか若実ちゃんは僕がやったら、勝手に盛り上がってくれるし。楽しいもんね。ねえ?」「ねぇー」何もわかっていない1歳の井上若実なのに、楽しそうに井上星の口調を真似して、相槌を打った。
実に微笑ましい状況だったから、あまり突っ込まなかった井上佳月。井上佳月はまた微笑みを浮かべた。
なんで自分の息子はこんなにかわいいと、こっそり思っちゃったりしての井上佳月である。
可愛いとか言ったら、怒るから言わないけど……
「……とにかく、しばらくの間、家は君に任せたよ。私は夕方で帰れると思うけど、たぶん兄さん姐さんのほうは先に帰ってくるだろう。鍵の数から見て、二人とも鍵を持っていないし……ちゃんと家にいなさいね。」と井上佳月は出かける前にもう一度念を押すように言っていた。
「はーい。」
「では、行ってくるね。」
「いってらっしゃい!」「いらっさぁい!」
「あ!若実ちゃん!発音が違ったよ――」
井上佳月は二人がわちゃわちゃしているのを見て、可愛いと思いつつ、家を出た。
玄関を開いて、足を踏み出す――そして、暗闇に落ちた。
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靄。
白い靄。
どこにいるのか、全くわからないところだった。全身から、打撲傷の痛みが感じる。
僅かにまだ機能が働ける聴力が集音器みたいに周りから声を拾っている。周りはずっとひそひそ、ひそひそと。
ねえねえ、これ、動いてる?動いてる?
わあぁ!まだあたたかーい!
あ!瞼ちょっと動いた!
おきてるのかな?おきてる?
子どもみたいな声。ずっと、ひそひそと。
記憶があいまいになった。五官の機能がちゃんと働いているかどうかおかしくなっている。
あいまい、もやもや……
彼女――井上佳月はまた意識がなくなる寸前に鮮明に聞こえた声は、一つ子どもみたいな声の言葉だった。
「あ!長老!」と。




