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六人家族が異世界に  作者: ヨガ
あの時
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 これは、とある子どもの話だった。


「リーズ!」一人の男は廊下に歩き、不機嫌な様子で名前を呼んでいた。


 男は今教会の廊下、また教会院とも呼ばれるところにいる。


 教会院、世間では遺児の収容施設だという認識が一般的である。だが、教会の人と繋がりを持っていれば、あるいは、教会の人員になれば、こういう認識はとても浅はかとしか言いようがない。


「リーズ!」男はもう一度呼んでいた。


 一つの廊下を通り抜けて、また次の廊下に渡る。早歩きの足音は本人が焦っているという気持ちが伝わっている。


 リーズと呼ばれた子どもは教会院の子、いわゆる、教会に引き取られた遺児である。経済や家庭環境の問題で捨てられた子どもが多くにいる。リーズもその中の一人だ。


「リーズ!」男はさらに名前を呼んでみた。ずっと返事が返ってこないため、男は怒り心中のあまり、諦めようとした。


 怒っている男はリーズにどうしたものかと考えつつ、踵を返そうとした時、まさに三度目の正直。男は子どもの声が聞こえた。


「はーい!」声のトーンからして、子どもは慌てている。それに、気付けられないとまずいと思うであろう。声の主は慌てていながら、「はいはい!」と声を上げ続けている。


 声が段々と近づきにつれて、足音も聞こえてくる。


 やっと返事が聞こえたから、男は踵を返そうとした時、動きを止めた。足を止めたが、怒っている様子は解消していなかった。


 男は腕を組んで、声の主を待っていた。


 しばらくして、一人の子どもは水に浸っているしわしわの服で、とても狼狽した様子で男の前に現れた。両手に抱えている竹ざるも色んな服を積み上げて、子ども一人にしては持てそうにない量だった。


「はい!ロブ神官長、リーズです。ここにいます!」子どものリーズは恐る恐るの様子で目の前の男に言った。


 この様子を見て、ロブと呼ばれた男は元々怒っている気持ちが若干沈んでいた。


「……なんだ、その様子は?あと、その洗濯物は多くないのか?」


「あ、ええと……こ、これは、その……転んだだけで……あと、洗濯物は、自分が、干したい、から……」リーズは俯いて、どもる口調で言った。


「本当か?」


「は、はい……」


「ならそれ、そのまま放っておいてもいいだろう?持ってくるのがおかしいだろう?」ロブはリーズが持っている竹ざるに指差して言った。


「あ、よ、汚れるのが、怖くて……」


「汚れる?別に今日の風は強くないだろう。」


「あ、ええと……」と、リーズはこれを言い終えて、何も言えないまま黙った。


 リーズが黙ったことにロブは不機嫌な感じにチッと舌打ちをした。


「……まあいい。結構だ。それより、大事なことを伝えに来たんだ。」


「あ、はい!ロブ神官長。」リーズはまず竹ざるを下ろして、跪く。両手を交差し、胸にしまう。これは教会の礼儀作法、女の子の敬礼だ。大事なことを伝える時、このようにしなければいけない。


 うやうやしく頭を下げている動きを見て、ロブは一瞬竹ざるの方を見ていた。だが、リーズの視線が自分に向けてくると、ロブは間もなく自分の姿勢を正して、咳払いをした。


「洗礼式の日付が決まった。三日後だ。」


 リーズは静かに聞いている。


「それでは、この三日間、三つの掟を聞かせてくれ。覚えているだろう?」


「あ、はい。三つの掟は――」


 一、常に身を清らかにし、五葷抜き(ごくんぬき)

 二、常にこん棒術を精進し、人助け。

 三、よく規律を身につくべし、自愛の元。


「――この三つの掟はおおもとに、自潔じけつ、自律、自愛という原則で作られています。」


「うん。よろしい。では、この三つの原則はどういう解釈があるのか、説明してくれ。」


 まるで小テストみたいに詰められているが、リーズは慌ててなく、説明し始める。


「身を清らかにするのは、水に感謝し、神に感謝するためです。水があるからこそ、生物はやっと清潔となる。自然への意を込めて、身を清らかにする。そして、五葷はあくまで序の口。」


「それでは、五葷というのは?」


「五葷とは、草食にしても食べてはいけない植物。それぞれは――ネギ、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、アサツキ。これらは思想と情を乱し、欲望が湧かすもの。欲望は満たされない。満たされない欲望は人を狂わせる。やがて害をなす。五葷抜きは、それらの雑念を払うためであります。」


「うん。よろしい。では次、二の部分。」


「人は、身につけることによって集中し、規律ができる。学ぶことによって、善が始まる。そして、人を助けることから、まだ自律を学ぶ。ある人が言う、“善は急げ、悪は延べよ”。この言葉はまさにそのものです。」


「よく言った。では、最後は?」


「人は、自分を愛すべし……ええと、規律ができると、人は善ができる。その善は人達だけでなく、自分にも与えるべし……人への慈愛には、中には自愛も必要……です。」


「うん。どれもわかっているんだな。」


「はい。ロブ神官長。」リーズは俯いたまま言った。


「……君に期待しているんだぞ。この試練がうまくできれば、君は見習い神官になれる。君が大好きな音楽もできるんだ。」


「わ、わかります。ロブ神官長。」


「ふん……精々掟を破らないように。」


「は、はい……」


 ロブは離れた。


 リーズは俯いたままだった。


 ****


 血の海。


 いいえ、正確には誰も血が流れていない。しかし、誰も横たわっていたままだった。


 呼吸もなく、静かに横たわる。死んでいるのだ。


「ガッガガガガガ――」と一人の歪な叫び声が途中で途切れて、静まりに返った。


 教会院の室内に一人の子ども――リーズは片隅に縮まって、震えている。


 ジュるるる……彼女は恐怖のあまり、「何か」が出た。


「あーははははは!なーんだ……結局こいつも大したものじゃないじゃん。ここのやつら……つまんねえな。」


 狂っている男……いいえ、正確には、形容しがたい存在だった。あの存在は一体何なのか、リーズには言葉が見つからない。


 男らしい狂っている人型のもの、黒い気味悪い存在、あるいは純粋な悪意……少なくとも、リーズにはそう見えている。


「……おっと、あと一人がいたんだっけ。」その存在は自分のことに気付いた。


「ぁ……」叫び声すらできないリーズは、動こうとした。逃げる隙はすでになくなったが、逃げようと思った。


 でも、


「脳よ精神よ!我に従え!」あの存在が「魔法」で止めた。


「あ!」


 リーズは逃げられない。足が自ら止めた。恐怖でも何でもない。「自ら」だ。


 精神魔法……これは、リーズが最後に思えることだった。彼女は後に――


「うーん……ま、ざこだな。適当に済ましとこうか……とりあえず――」


 “死んでくれ。”


 ――死んでいた。

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