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章の部分を整理するため、再投稿しました。
カリ、カリ……今、12歳の少女は手で結晶体を剥がしている。淡い黒色に染まった結晶体を。
少女が剥がしている結晶体は、竜の身体にあるものだった。角のような突起物、身体や腕など、結晶体が遍在している。
少女の隣にドラゴンがいる。ドラゴンの名はフロンである。
「どう?痛い?フロンおじさん。」と12歳の少女――井上若実が言う。井上若実は少し時間をかけて、手でカリカリとフロンの身体にある黒くなった結晶体を剥がした。ポッという音も出た。
結晶体が剥がされると、元々淡い黒色の結晶体は水が一滴の墨に浸食されたよう、ゆくゆくと漆黒に染まる。
「いいえ、痛くありませんよ。若実様。」
「本当に?ちょっとビクッとしたけど?」
「まあ……ちょっとピリッと痺れる感じがしますが、痛くありません。例えるなら……そうですね。かなり時間が経ったカサブタを剥がす感じです。」
「なるほどー」と話ながら、井上若実はまたカリカリと黒いところを剥がす。
フロンは井上若実の横顔を見て、懐かしむ表情で話しかけた。
「そういえば、星様がもう一度『キャラクター』を作って以来、もう4年が経ちました……」
これを聞いて、井上若実は一瞬手を止めたが、何も話さないまま、黒い結晶体を剥がし続ける。
「……若実様は、寂しいと思いますか?」
カリ、ポッ。
「別に寂しくなんかないよ――って言ったらウソになるね。」井上若実は手を止めて、話す。
「寂しいよ、寂しい。でも、家族がいなくなったら、もっと寂しい。」
寂しいし、怖い……と彼女が呟く。
「……だからね。私はあの時でもう決めたの。寂しく思わないよう、兄さんたちを信じるの。もちろん兄さんたちだけでない。ねぇね、父さん、母さんも信じている。だから今、私はやっている。私が今やっていることもみんなを守っていることに繋がっている。そうだろう?」と井上若実は漆黒に染まった結晶体をフロンに示すように手に持っている。
井上若実の話を聞いて、ふふんとフロンは楽しく笑った。
「やっぱり若実様は昔から強いですね。」
「っむ……なんか腹立つんだけど。」
「ええ?私、褒めているんですよ?」
「わかってるよ。でも、その“若実様”ってのがどうにかならないの?」
「ええ……?でも、若実様は昔お姫様ごっこ――」
「アレはもう昔のことでしょう?今は大人だもん!」と12歳の井上若実が言う。
「ええ……?わかりました。なんとか治してみます……」
「うん!よろしい!」と胸を張って、ちょっと生意気な井上若実。
この様子を見て、フロンはこっそりと思ってしまった。若実様はやはり若実様のままだったと。
そして、もうしばらく時間がかかって、今度こそ井上若実は手を止めた。止めた理由は他ではない。黒い結晶体がなくなったのだ。
「はい!綺麗になったよ。もうピカピカ!」
「はは、ありがとうございます。若実さm――」
「っむ!」
「……若実さん。」
「うん!」若干、調子に乗っている井上若実である。
****
これは、5年前のことだった。
「『トークン』の状況はどう?」井上星は書籍を見ながら、横目で確認している。
「移動しています。桃花さんのコマはこの近くに止まったままで、凜様のコマも早く移動しています。また、新シナリオが送ってきた情報によって、恐らく……凜様は大変な目に遭っているでしょう。」フロンは机の近くに、トークンを観察しながら言った。
トークン、TRPGでは指している意味が一つの象徴物、いわゆるコマのことだ。モンスターやアイテム、または「キャラクター」。トークンを導入することによって、現地の人と会話しなくても所在地の確認ができる。ちなみに、トークンはフロンの友人であるサリーが送ったものである。
だが現在の状況では、トークンはただのある種の応急処置である。
井上星、井上若実、フロン三人は今、舞台の上に会話することができない。理由は――
「……わかった。今見た感じ、邪魔が入っていないようだ。フロンおじさん。会話するなら、今のうちにやったほうがいい。」――邪魔が入ってくる。
「わかりました。星様。」
どうか、バレないでほしい……と、井上星は祈っている。
でも、嬉しすぎてのあまり、井上星の心配を感じていないようで、井上若実はここで話しかけた。
「おにぃとねぇねと話せるの?父さんと母さんも?」
「え?いや……」井上星は少し考えてから、話す。
「たぶんダメだろう。」
「なんで?」
「……忙しいんだから。」
「そうなの?フロンおじさん!」
「え?ええ。そうですね……」
「……そうか。」
この交流はいったん落ち着いたようだった。しかし、これは後に問題の発生に繋がることが誰も知らなかった。
年齢の部分と年数の部分を変えました。
すみません!ちょこちょこと変えて......でもこっちの方が時間的に合いますので(´・ω・)




