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「これで終わりました。神官様。」
「ありがとうございます。店主様。そして、すみません。ご迷惑をおかけして……」
深緑色の薬草を潰して、膏のようなものが包帯につけ、ノールの体中に巻いている。ここは旅館。少し前に、ノールはとある原因で重傷を負っている。
今、彼女の傷の処置がし終えるところだった。
「大丈夫ですよ。神官様。この旅館は元々神官の巡礼のために作られたから、これくらいどうってことはありません。」と旅館のフロントの後ろ、いわゆる受付のカウンター裏に、旅館の店主が薬草を一つの箱にしまって、薬草の箱を棚に入れた。
店主が言っている様子は心底にそう思っているようで、皮肉で言っているではないことがノールに伝わった。店主の広い心にノールは感謝している。
「ですが……たしかラーリー様、でしたっけ?」店主の隣に、旅館の経営に手伝っている娘さんが言っていた。ノールの視線が隣の娘さんに移った。
娘さんは若干ボサとした束ねた髪型をしており、亜麻色の髪色と合わせてどこか可愛げを感じる。頬と鼻筋の通ったところに点在しているそばかすも人に親近感を湧かせる。
だが、今ノールはその可愛さのある顔に、心配の感情しか見られていない。その原因は考えなくてもわかる。主に少し前に見られていたラーリーだった。
「何でこんなことをするんでしょうか?旅館の破壊だけでなく、生徒まで傷つくなんて……何というか、様変わりしすぎませんか?」
この質問に、ノールはゆっくりと首を振った。
「私も……よくわかりません。先生はどうしてこうなったのが……」この問題の答え、ノールでもよくわからない。
部屋のドアを破壊し、ぶっ飛ばされた。ノールの身に起こったのは簡単に言うと、この一言に尽きる。
しかし、その起因、こうなってしまった原因は何なのかがわからない。彼女には一つだけ確信できる。
アレは……先生ではありません。このことだけ、気絶寸前のことを思い出せば、ノールは確信できる。
“すまない。ノール。先生はここまでのようだ”
“残りは続かなくてもいい。“
“俺の身体に乗っ取ったあの人に、関わらない方がいい。”
……あれは間違いなく先生の話だ。
だがこのこと、ノールは言うつもりがない。
なぜなら、“関わらない方がいい”というのは“深入りすると危険が及ぼす”という意味だろう。ならば、このことはあまり多くの人に知らせない方がいいと、ノールが考えていた。
また、言わない理由はこれだけじゃない。自分が勘違いした可能性もあるし、考え方が跳躍しすぎたかもしれない。何より、ノールはどうにも予感がする。アレの正体を知ってはいけない。知っていたら、恐らく莫大な事件に巻き込まれると。
だから、彼女はこのことを伏せていた。
「そうですか……本当に何も知らないんですね?」
「うん。」
何となくノールは事情を説明してくれないことに気付いた娘さんは少し落ち込んでいた。
「……本当は何が隠してない?」
「デイリー。」
「だって、この怪我、どう考えても何も知らないわけじゃ……」
「デイリー!」
デイリーと呼ばれている店主の娘さんは口を噤んだ。店主は二人の様子を見て、こう言った。
「デイリー。詮索するのはもうよせ。」
「でも、私はただ心配で……」
「それでもやめよう。それに、もうすぐ仕事の時間だ。」
「う……」
旅館の朝は神官の朝より遅れているが、それでも普通の住民より早い。紫色の天空になって、太陽が昇りそうなところから準備する。朝ごはんや掃除などの雑事もこの間でこなす。ノールのことに気になっているが、店主の言う通り、仕事の時間が間近である。
「ずっと一人のお客様に気に留めるわけにはいかない。神官がいなくても、ここは一つの旅館だ。仕事しに行け。」
「わかってるよ。父さん。ノール様……ごめんね。」
「ううん。大丈夫ですよ。デイリーさん。むしろ気遣ってくれてありがとう。」ノールに礼を言われて、デイリーはやっと微笑みを出して、離れた。
神官の巡礼、いわゆる巡礼するための旅館はどの町にも定まっている旅館があるため、10年以上でも巡礼が繰り返すと、旅館の人と知り合うのが当然である。ノールとデイリーはまあまあの知り合い関係である。当然店主もノールと知り合っているが、娘ほどではない。
離れたデイリーの姿を見て、店主が言った。
「すみません。うちの娘が……」
「ううん。隠しているのは本当ですから。」
「そうですか……」店主は目を閉じて、少し考えこんでいる様子。あまり驚いていなかった。
したがって、「水は方円の器に従う……こちらは神官様の気持ちを受け取るしかほかないようですね。」と言った。
「すみません。」
「そう決めているなら、謝る必要がありません。こんなことより、神官様はどうするつもりですか?」
どうしたいと聞かれると、ノールは沈黙した。答えたくないじゃない。混乱しているのだ。彼女自身もわかっている。今後どうすればいいか、これこそ重要な問題だということを。
だが、先生の言う通りに巡礼を諦めて家に帰るのか。それともこのまま巡礼し続けるのか?あるいは、先生の様子をしている人を見つけ出して、真相を聞くか……
心底にやりたいことは何なのか、どういう気持ちで先生がいなくなったことを受け止めるのか、ノールには到底わからなかった。
元々、死んでいたような生活だったから。
15年前、好意に寄せた相手がいなくなった。そして、14年前、自分の両親もいなくなった。また今日、一緒に巡礼する仲間も失った。
失うことだけ続いた彼女は、どうすればいいか自分でもわからなかった。
失いすぎて、心が麻痺している。色々起こりすぎて、混乱している。二つの心境が混ざるとさらにわからなくなる。
それでも、ノールはなんとか一つの答えに絞り出した。
「……巡礼、し続けると思います。」
「そうですか……今時、巡礼する神官はもういないから。神官様のことを応援します。」
「ありがとう。」
「どうってことはない……むしろ、俺には応援しかできません。」
「その気持ちは支えになります。店主様もあまり自分を蔑ろにしないでください。」
店主はしょうがない笑顔をしていた。
「では、神官様は今日もゆっくり休んでください。この怪我の状況は早めに出発するのはよくありませんし……デイリーもきっと神官様のことが気になっているでしょう。時々彼女と話をしていください。」
「はい。そうします。」
「では、俺もそろそろ――」店主は言いながら、仕事しにいくつもりだった。
だが、ノールは呼び止めた。
「あ!あの……店主様。」
「うん?」
「そういえば、一つ聞きたいんですが――」
グリン、モモナー、ともも、ムーンちゃん……ノールは四人のことについて店主に聞いてみた。
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冒険者協会。
かつて、流浪人の友達、町中の治安の助っ人、家庭の悩み相談者などなどと呼ばれていた、奴隷でも気軽に頼れるところだった。
困ることがあれば冒険者!力を合わせれば、できないクエストがいない!一時期とても流行っていた標語で、数多くの子どもでも自分の夢は冒険者だと言い出す時期があった。
しかし、このところはいつの間にかトラブルメーカーしか生まないところとなった。こんなところになった明確な時期がはっきりとしていない。覚えている人もいなかった。変わったことだけが確実だと。
とある人はサンタリアーの町、路上のベンチに座って、考えていた。
五官が整っているが、無精ひげを生えているため、若干不埒な姿になっている。またコートも履いていて、その姿は普通の人から見たら、もはや退廃的だった。
だが、無精ひげ男にはちゃんと正職がある。今は休憩の時間を取っているだけだ。少し過去のことに浸っている彼は一人の男性職員に呼ばれていた。
「――会長さん!」声の主はまだ距離が遠い。
その声は聞こえても聞こえないようなもので、会長と呼ばれた男は一回目の呼びに無視した。当然聞こえないふりをしたほうが正確な表現である。
だが、「会長さん――!」、「会長さん!」と……
だんだんと声が近付きにつれ、声量が無視できない程度になると、会長と呼ばれていた無精ひげ男はやっとため息をついて、諦めの精神がない声の主に折れてしまった。
「はぁ……今は休憩の時間って言っただろう。」自分の近くに走ってきた一人の若い男性に、会長は不満な顔で言った。
「で、でも、会長さん!大変です!」
若い男性の慌てっぷりと対照して、会長は全く緊張感がない感じで男に答えた。
「お前の大変なことは大体大変じゃないぞ。最初は自分の日程表がなくなった。その次は机の脚がアンバランス的で、ずっとコトコトと……そして、前回はあんパンがなくなっただっけ?あのな……俺はお前の母さんじゃないんだぞ。」
「違うんですよ!会長さん!今回は本当です!」
会長の目の前の若い男性は、“今回は”でも突っ込みの力が入らなくなるほど、数多のやらかしことをやってきた。特にさっき自分があげた例みたいに、色んなしょうもない報告をしにきたのだ。
確かに問題があれば俺に聞いてって言ったけど……これは極端すぎる。
しかし、本当に大きな問題が起きたら、それは自分の失職になる。だから、無視してはいけない。
ゆえに、この男性の報告に会長はため息をついた。
「はぁ……聞くだけ聞くとしよ。」
何で俺の下につくやつはこんな曲者ばっかりだろうな……会長は左遷前のことを思い出して、とある人の顔を思い浮かぶ。あの人は15年前の知り合い、今はもういなくなった。とあるクエストで、殉職になった。
……思い返せば、自分の人生もあの時に一変したな。と、会長は考えながら、男性職員の報告を聞いている。
自分の話を聞いてくれることに、男性職員はホッとした感じに嬉しそうだった。
「冒険者が喧嘩していたんです!」
珍しく些細なことではないことに驚いていたが、それでも会長はあまり表情が変わらなかった。
「今時、珍しくもないだろう。自分でなんとかしろ。」
「ですが……それは会長さんのことをめくって、喧嘩しているんです。」
「は?」自分はいつの間に人気者になったのか?目の前の男が言っている意味を汲み取ていると、会長は思わず心の中に突っ込みを入れた。
だが、こんなことは起きるはずがないと、会長はしっかりわかっている。
だって、サンタリアーの町はシンプルな町だ。住民は人情深く、景色が綺麗で、環境も複雑ではない。その上、農業も励んでいる……いわゆる、ここは田舎の町だ。
そして、ここに設立された冒険者協会も実に閑散である。こんな辺鄙な冒険者協会の支部に、自分をめくって喧嘩しているやつはいない。そもそも、ここの冒険者協会に女性の冒険者と職員がいない。
ゆえに、その喧嘩事はどんな感じなのか、会長には大体の想像がつく。
「“早く管理人を呼び出せ!じゃないと、ここをぐちゃぐちゃにするぞ!”って、それで他の人たちが気に食わないようで、喧嘩し始めた。どうします?会長さん!」
「……喧嘩しているやつはよその冒険者なのか?」
「はい。そうです。見ない顔です。」
「なるほど……これは確認した方がいいな。」
「本当ですか!じゃあ、私は――」
「お前も来い!冒険者の職員なら、これくらいできないと!」
「で、ですが、こんなの受付の仕事範囲内に入らないでしょうが!」
「うちにはある!それともお前、社交に興味があるのか?」
「……わ、わかりました!やります!やりますから!」
こうして、二人は冒険者協会に行った。




