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六人家族が異世界に  作者: ヨガ
祈り姫
62/109

56

 「よーい……」一人の男が言いつつ、手を挙げて、その次にできた行動は手を下ろすことだった。


 男の手が下ろすと同時に、「スタート」と高らかな声で、多くの人に集めた木造の一室に響いていた。


 声が響いた瞬間、その人たちも目の前にある紙をめくって、次々とその紙に文字を書き始める。


 ここにいる人たちは様々で、男の子や女の子、また成人の人までもいて、全員書くことに集中している。正しいことを書く人もいれば、間違ったことを書いた人もいた。


 だが、書くことが違っても、この部屋にいる人たちの服装は統一されている。その服は灰色のローブ、袖のところに若干金色の線に織り合い、腕のところに一回りに作られていた。この一回りの線はこの人たちの一つの象徴である。


 スタートと宣言した男は時に巡回し、懐から石のようなものを取り出して、確認していた。


 厳粛と沈黙の時間が続いて、男が「あと五分!」と言うまで、誰も喋らなかった。


 そして、男の宣言により、明らかに強張った顔になった人たちがいる。主に小さい子たちから見られる。手が早くなり、文字も若干みにくくなったり……その子たちにとって、五分の時間があっけなく終わった。


「終了!では、用紙を後ろから前に出してくれ。」この言葉を言い出した男は、一列一列の各最前列に集めた用紙を取って、おおむねの感じで何枚の紙を閲覧した。


 その内容を見て、男は軽く息を吐いた。


「成績は来週で発表することになるが……見た感じ、あまり良くないな。お前ら、本当にやる気があるのか?」


 男の発言に誰も答えなかった。


「神官の見習いだからって、知識もしっかり身につけなきゃいけないだろう。」


 やはり答えがもらえない。この状況に、男はため息をついた。


「これだから若いものは……」男は全員を見回して、終わりの発言を告げる。


「まだここに残るつもりか?もう終わりだ。各自に帰れ。」


 全員男の発言に従って、各々部屋から出た。


 全員部屋から出た瞬間、どれも張り詰めた空気から解放されたような感じだった。特にこんな中、一人の女の子がそう思っている。


「はあぁ……ラーリー先生はやっぱりこわいな。」あまり大きくない声で言っている独り言だが、女の子の独り言に一つの返事がもらえた。


「これだから、わかいものはな――」とこの返事のせいで、女の子はビクッとした。


 だが、よく聞いてれば、声の主は明らかに男の声と違って、一人の男の子がわざと低くした、ちょっと拙い声だった。


 女の子は振り返ると、その人は自分と同じ年、明るい笑顔をしている男の子である。黒髪に茶色の皮膚、その緑色の瞳と対照した感じに、とても明るい性格の持ち主だと感じられる。実際、男の子の性格は外見通りだった。


「もう……ランセル君。驚かせないでよ!」


「ははは!ごめんごめん。でも、ノールちゃんは暗い顔をしているからさ。つい……」とランセルと呼ばれていた男の子が少し気まずい笑顔で言った。


「もう!」とノールと呼ばれていた女の子が膨れ顔になって、プンプンした。


「怒らないでよ。帰る時、パンとか買ってあげるからさ。あと君が好きな“モリナ”というアイスのおやつも!」


「う……本当?」おやつに釣られたノール。


「うん。うちは神官の家系だからね。これぐらい何ともない!」


 これを聞くと、ノールは最初喜んでいる顔だが、間もなく暗い顔をしていた。


「いいな……神官の家系。教師がいっぱいつくし……お金もいっぱいある。それに、ランセル君の頭もいいし……」


「そんなことないよ。むしろ俺はノールちゃんのほうが羨ましい。父さんと母さんが優しいし、面倒な制限とかもしない……俺なんか、四六時中勉強ばっかりだぞ。このくらいしないと、よくなれるわけがないって。」


「でも、来週の成績が発表する時、私……」


「ノールちゃん。暗い話はもうやめよう?せっかくテストが終わったし、俺は今遊びたい気分だよ。」


「……わかった。」


 二人は帰り道に遊んでいた。ランセルも約束通り、パンとアイスを買った。


「おいしい?」


「うん!おいひい(おいしい)!ランセル君ほはへる(もたべる)?」


「いいの?じゃあ、いただきまーす!」二人の仲良し姿は微笑ましいである。町中の人々も時々その姿で笑うようになる。


 多少の不便、多少の制度に困っている人がいるが、ここはいかにも平和な町である。ノールはランディと遊びながら、時々思っている。


 この平和な生活は、きっと人生の最後まで続けられるだろうと。


 しかし、人の生活はいとも簡単に変化が訪れる。最初は、あまり気にかけるほどの変化ではない。


「……来週から、もう成績の発表はしない。気になる人は自分で聞きに来るがいい……では、授業を続きます。」


「……ねえ、ランセル君。ラーリー先生、なんか機嫌が悪そうですけど……どうしました?」今日ノールの席、隣にいるのはランセルだから、少しこそ話ができる。


「なんか父さん――いや、先生の話によると、学校の制度が変わるらしい。ほら、生徒の中に貴族がいるじゃん?なんかその人たち、成績が悪いのは先生のせいだっていちゃもんをつけてただって。」


「そう……なの?そういうことなの?」


「さあね。でも成績くらい、俺はいつでも聞けるから、あんま変わらないけど。」


「そう……」


「必要なら君の成績もついでに聞こうか?」


「いや、いいよ。自分で聞くから。」


「そうね。そのほうが父さんにも好印象だし。聖女の道にも一番近い。」二人がここまで話すと、ここで二人のこそこそ話は一人の大きく響いていた声に挟まれた。二人は同時にその声にびっくりした。


「そこの二人!静かに!」


「「すみません!」」と、二人はラーリーに睨まれていた。


 だが、変化はこれだけじゃない。


 またしばらく時間が経つと、二人が庭で話をしている時、気付いたことを話す。


「……なんか、教師が減ってない?特に男性の教師は……」


「うん。なんか人件費が足りないとか……」


「じゃあ、なんで新入りの女性教師が増えるの?」


「わかんない。でも、うちの方が増えている。元々三人いるけど、今はもう五人いる……日程がもう詰めすぎて、遊べないくらいだよ。」


「……そう。大変だね。」


「これ以上増えないといいんだけど。」


 また、その次の変化。


「先生!それ、もう教えましたよ。」


「あら、そうしょうか?でも、別にいいじゃん。復習として考えればいいわ。ちなみに、みんな!喜んでいいわよ。テストがなくなったわ。」女教師の発言に、素直に喜んでいる人が少数いた。


 しかし、ほとんどの人は困惑だった。


 また、授業で学べば学ぶほど、おかしくなり、わからなくなってきた。ノールは然り、ランセルも然り。


 そんなある日。


「ランセル君……あの――」


「ノールちゃん……あの――」


 二人はお互いに伝えたいことがあっと。話しかけた時、偶然声が重なった。声が重ねたことによって、二人は見つめ合って、笑っていた。


「ごめん。被っちゃって……どうした?ランセル君。」


「いやいや、ノールちゃんこそ、何が言いたい?」


「いやいや、ランセル君先に言って。」


「いやいや、ノールちゃんから言ってよ。」


 同じ押し付け合いが繰り返して、二人はまた笑っていた。


「もう。わかったよ。私が先に言えばいいだろう。」二人は笑いのまま、話している。


「私、家族と一緒に決めたんだ。神官学校をやめるって。」


「……そう。」


「……あまり驚いてないね。」


「まあ……俺の父さんも今の神官学校はもうしなくていいって。この前、クビにされたし……」


「あの……こういうのもアレなんだけど、ラーリーおじさんは本当に……手を出したんですか?その……女子生徒に――」


「そんなことあるわけないだろう!確かに父さんはちょっと嫌な人だけど……でも……とにかく、そんなのはアイツらのでたらめだ!」


「う、うん!わかっている。私も信じるよ。ラーリーおじさんのことを。」


「……神学の問題があるなら、また父さんに聞けばいい。たぶん喜ぶだろう。何せ、アイツは自分の一生を神に捧げるつもり人だから。」


「うん。そうする。ちなみに、ランセル君は……学校をやめた後、どうするつもり?」


「今年の課業が終わったら、この町を出て行く。元々この家を出たいから、神官になるつもりだ。」


「……たしか、神官になるには巡礼する必要があるよね。」


「うん。見識を広めるために、他の町の知識を身につけるために、また、人々の生活と苦痛を知る必要があるから……巡礼する。まあ、俺の場合、目的がちょっと違うけど、知っておいても損はない。だから父さんが許してくれた。」


「そうか……」


「そんながっかりな顔をすんなよ。俺はまだ帰るからさ。」


 (がっかりなのは君の父さんが阻止しないからだよ……別に君なんか……)


「え?なに?」


「……約束よ。絶対帰ってね。」


「わかっているよ。それに、巡礼は一年もかからないし、路上も安全なところしか通らない。心配するな。」


「でも……」


「わかった。じゃあ、この飾り、持ってて。」ランセルは自分の首に付けている金のペンダントを取り出した。


「ちょ、ちょっと!これは君の父さんが数少ないあげたプレゼントじゃ……」


「うん。その意味も含めて、君に貸したものだ。つまり、約束の印ってやつ。これがあれば、俺が帰る保証があるってわけ。」


 自分の手に持った飾りを見て、逆に心配になってきたノール。なぜか、彼女の心の中に不安しか広がっていない。


「本当だよ?」


「本当本当。心配性だな。君は。」


「もう!茶化すなよ!」


「ははは!」


 そして、一ヶ月……


 二ヶ月……


 三ヶ月……


 二人が時々一緒に過ごして、時間が過ぎていく。


 やがてランセルは課業を終えて、巡礼しに行った。


 しかし、ノールの心配通り、ランセルは帰らぬ人となった。


 一年が経っても、ランセルの姿が見えなかった。


 ****


 今日の朝、ノールは珍しく遅めに起きた。彼女は夢を見たのだ。


 それは15年前の夢。懐かしさがあって、悲しみもある夢だった。


 彼女は帰らぬ人のペンダントを身につけて、早朝の祈りに励んでいる。この習慣を身につけたのは、14年前だった。まるで不運の続きで、彼女の両親は帰らぬ人の後、殺人に巻き込まれて、いなくなった。


 その殺人のことは冒険者協会に関わって、また、失職に繋がっていて、何名の重要職を左遷し、クビにしたが……関係者たちに、特に殺人にあった親族に、何もやらなかった。慰めの言葉しかかけなかった。


 その肝心な慰め言葉も、“もう死んでいた人たちだ。前を向くんだ”と。


 あの時以来、ノールはもう冒険者協会と関わりを持ちたくなかった。


 実際、彼女は一人の知り合いの家族と町を出て以来、冒険者協会に行ったことは一度もなかった。


 流浪人の友達、町中の治安の助っ人、家庭の悩み相談者……いつの間にか変質者のたまり場となった。


 彼女は一生、冒険者協会と関わりたくない。


「ラーリー先生。」とノールが一つの扉を開いた。


 ここは巡礼途中の旅館。ノールとラーリー二人は今、「永遠に終わらない」巡礼をしている。


「……ノールか。」と、憔悴している目付きのラーリーだが、その身なりは決して不埒な感じではない。むしろ、ずっと身を清めている感じではある。少し老年に近い皺寄せの顔が、年齢はたった中年四十代の前半、普通の人が見たら、決して思わぬ外見である。


 その目に見られて、ノールは避けるつもりもなく、ただお辞儀をして、返事した。


「はい。おはようございます。早朝の礼、終わりました。」


「……そう。おはようございます。」ラーリーは返事した後、再び目を瞑った。


 ラーリーは何の指示もなく、じっと座っている。


 ノールも静かに待っている。


 時間が流れていく。


 その時間、もはや一時間以上に経った。


 ラーリーはゆっくりと目を開けた。


「……ノール。」


「はい。」


「神様からの啓示が来た……」


 ノールは少しラーリーの言葉に迷っていた。なぜなら、今回の言葉遣いは少し違う。


 普通なら、“神様のご啓示”だが……今回の啓示、何が違うのか?


「それは……?」


「冒険者協会に、行くらしい。」


 ラーリーは少し拳を握った。当然、ラーリーにも冒険者協会に不満を抱えている。


 自分の息子の失踪、つまり、巡礼が終わったはずの時期に帰ってこなかったことに対して、冒険者協会の態度は“自己責任”だと、人探しに手伝わなかった。


 そのため、彼自身もノールと同じ、ずっと冒険者協会に関わりを持つつもりはない。


 二人の間、静寂がしばらく終わらない。率先して話をした人はノールだ。


「……行くんですか?ラーリー先生。」


「不本意だが……神様の啓示だ。行くしかない。大事なことかもしれない。」


「……わかりました。」


「君は行かなくてもいいぞ。」


 ノールは首を横に振った。


「私も大人です。わがままを言うつもりはない。」


「……わかった。でも、君は外で待ってればいい。」


 ノールは頷いた――と、その時、彼女の脳裏に一つの声が響いた。


 いいえ、正確には、二人の声だった。


 “「ダーメ!」”それは男の子っぽいの声だった。若干成長期に入って、不完全の変声期になった感じである。


「……え?」ノールはその声を聞いて、疑問の声を出した。


 ノールの声を聞いたラーリーが外出の準備をしている手を止めた。


「どうした?」


「ラーリー先生は……何も言ってなかった……でしょう?」とノールは確認する感じで言った。


 ラーリーは疑問の目をしているが、「ええ」と返事した。


「じゃあ、この声は一体――」ノールは自分の脳に指で指す途中、また一つの声が響いた。


 その声はノールの全身にキィンとなるほど、凄まじい女の子の大声だった。


 “「やーだ!凜おにぃと桃ねぇと話がしたいもん!」”


 “「ダーメだ!わがままを言うんじゃない!忙しいって言っただろう!」”


 “「いやあ!うわぁあああぁああん!にぃにのいじわるぅうう!」”


 “「こら!叩くんじゃない!降りてしま――」”男の子の声はここで中断した。残ったのは女の子の号泣だけ。


「な、何という健気で健やかな号泣……素晴らしい声だな。」とノールは言いながら、蒼白い顔色になった。


 ラーリーはノールの顔色を窺って、少し見当がついていた様子。


「……もしかして、ノール。これは、神様のご啓示かもしれない。」


「……え?神様の?」


「ええ。君の脳内、声が届いているだろう?」


「え、ええ。」


「神官学校の時、君みたいな生徒を何度も見た。これは初めて啓示を受けた時の症状だ。実際、私は最初啓示を受けた時に身体の調子もあまり優れていなかった。」


「ラーリー先生が?」


「ええ。身体が一瞬重くなった。今となっては、やっと少し慣れたが、その感覚はどうにもいい感じではない。」


「で、でも……ラーリー先生。正直に言って、身体にはそんな感じがしない。むしろ、号泣がすごくて、すごくて……キィンとした感じです。」


「号泣?」ラーリーは手を顎につき、考えこんでいた。


「……ノール。さっき何か聞いただろう?その内容は?」


「え?ええと、最初はなんか争っているみたいだけど、今は号泣しかしていない……たしか、リンおにぃと、モモネェについてだっけ……正直、あまり覚えていません……あ!でも、“ダーメ”って言いました!これだけははっきりと覚えています!」


「だめ?」


「うん。だめ……」


「ダメ……争う……号泣……リンおにぃ、モモネェ……そうか。神様が一人しかないわけじゃない。複数いることも――」


「うっ!ごめん。ラーリー先生。ちょっと泣き声がすごくて、頭が……」


「たぶん……君の方こそ、本当の啓示だ。やはり行くのはやめよう。」


「え?で、でも、先生の……」


「俺のはいい。後で原因を説明する。今はゆっくり休め。」


 ノールは号泣に耐えながら、頷いた。ラーリーは自分の部屋を譲って、他のところに行くことにした。


 そして、号泣が止まっても、二人は冒険者協会に行かなかった。これは神様のご啓示だと、ラーリーが思っている。


 でも、何でそう思っているだろうと。ノールは聞いてみた。


 この疑問に、ラーリーは一つの答えを言った。


「君は、あの日以来、毎日欠かさず、早朝の礼をしていただろう。」


「はい……」


「……実は、男の神官より、女性神官の“祈り”、つまり、聖女の言葉の方が一番神様へ届けやすい。」


「え、そうですか?そんなこと……」


「そんなこと、学校では一度教えたこともないだろう?だが、こういう決まりだ。ちゃんと祈りを捧げれば、いずれ啓示が顕現する人が現れる。現れた人は抜擢され、聖女となる……だから、申し訳ないが、聖女になるには、実は成績より、信仰心が一番重要だ。」


「そうなんだ……」


「ええ……しかし、神官学校はいつの間にか、祈りの役目を放棄し、本末転倒なことをやり始めた。成績だけを重視するところになった。後に、成績すらも放棄し、一つの社交場となった。あそこはもう……学校とは言えない。」


 しばらく、静寂が続く。


「は……神官ではない俺が言うのも、もう説得力がないだろう。気にしないでくれ。」


「そんなの――」ありません――とノールはまだ全部の話を言い終えていないが、ラーリーは勝手にノールのところから離れた。


 ノールは呼び止めることができない。何せ二人は所詮、一緒に「永遠に終わらない」巡礼をしているだけの仲間だ。苦痛を味わえるための巡礼。


 この巡礼、人生の最後まで終わらない。とノールが思っていた。


 しかし、人の生活にはやはり変化が訪れる。その変化はいいのか悪いのか、人によって変わるであろう。


 これはまたある日の早朝。


「ラーリー先生――」扉を開いた瞬間、何が起きたのかノールは全くわからなかった。


 パダンと。浮遊感とともに浮いた後、やっと状況が理解したノールはしっかりと頭から全身に地面と接吻した。


「かは……かは……ラ、ラーリー……先生?」ノールはやっとの気持ちで頭を挙げて、ラーリー……あるいは、その雰囲気が全く違う人となった存在を見ている。


 ラーリーの姿をしているその存在は、ただ地面に横たわったノールを一目をやって、何の関係もない様子で通り過ぎた。


 通り過ぎた時、一つの言葉を口にした。それは一度もこの人の口から聞いたことのない言葉だった。


「ふん……死に損ない獣人め。」


 ああ……違う。この人は、先生じゃない。先生じゃない……けど……


 ノールは涙がぽたぽたと流れ、心が、痛めている。


 全身の痛み、また精神にも伝わった痛み、ノールは気絶寸前だった。


 そんなノールに、気絶する前に、聞き覚えのある声が聞いた。


 “すまない。ノール。先生は……ここまでのようだ。”


 あとは君次第だが……残りは、続かなくてもいい。


 そして、俺の身体に乗っ取ったあの人に、関わらない方がいい。


 ……これだけだ。


 ノールは気絶した。


 ****


 すみませんが……


 う……


 すみません!と、ノールは起こされた。


 気絶した時間はどれだけ経っていたのか、彼女にはわからない。しかし、まだ自分のことが気付かれていないことからして、また、全身の痛みも引いていない感じからして、そんなに長くないだろうとわかっていた。


 でも、自分はどうして起きただろう?


「……さっき、たしか声が――」と独り言をしていると、ノールの脳内に声が響いた。


「ああ!やっと返事が来ました!あなたは、“祈り姫”ですね!」


「祈り……姫?」


「ええ、神様のご教授に授かる聖女――“祈り姫”、そう呼ばれていますよね?」


「え、し、知らない……」ラーリーからもそのような話も聞いていない。


「え?おかしいな……たしか厳重な規律を課す神官学院から卒業する一人前の聖女って書いていますが……」


「……確かに昔は神官の見習いをしていたけど、卒業もしていませんよ?」


「そうなの?うーん。でも、こうして繋がることができれば、間違っていないはず……それとも、これも仕掛けされていたのか?」


「ええと……仕掛け?」


「……ああ。申し訳ありません。こっちの話です。気にしなくていいです。自己紹介は遅れましたね。フロンと申します。」


「フロン……様。」


「あ、ええと、様付けしなくてもいいですよ。」


「でも、フロン様は神様でしょう?」


「うーん……違いますけど、違くもありませんが……あ、ああ!ごめんなさい!そうですね……すみません。時間がないので、説明を省いてもらいます。実は、私たち、祈り姫さんに一つ頼み事がありまして……」


 私たち……


「わかりました……神様のご啓示なら。」


「本当に申し訳ありません。祈り姫さん。君に、四人のことを探してほしい。その四人の名前は、“グリン”、“モモナー”、“ともも”、“ムーンちゃん”です。外見は――」


 ノールの巡礼は、まだ終わらない。なぜなら、彼女は新しい運命に入っていた。だが、この運命に入った時点で、遠くない未来に永遠に終わらない巡礼が終わる。なぜなら、彼女の未来に待っているのは――消えたと思っている、姿が変わり果てた一人の故人である。

長々と書いてしまいました。

申し訳ありません!


*今月の課業じゃなくて、今年だった!

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