52
「うん……うん……はい。わかりました。では、しばらくの間、星様のことはお任せください。」只今、フロンは自分の役割を果たそうとしている。
フロンがステージの上に立って、井上凜と会話している。
「……伝える時間、気持ちの整理する時間が必要だと思うので、すぐに返事できません。ですが、そちらの状況をちゃんと聞いています。必要でしたら、いつでも私に質問して大丈夫です。」
本当にステージの上に立っていれば会話ができるのかと、井上星が少し疑ってしまいそうだが、あいにく彼にはそれを考える余裕がない。
“「星様……その……あなたのキャラクターは……ツリーセ君は……死にました。」”フロンがそう伝えた後、後の話は井上星があまり耳に入らなかった。
彼はショックのあまり、放心状態になっている。
その状態に気付き、フロンは無理に慰めようとしなかった。ただ井上凜の質問に答えただけだった。
“フロンさん。この世界では、死んだ人に生き返らせることができますか?”と井上凜の質問に、フロンが“「……申し訳ありません。凜様。どんな世界でも同じです。死んだ人には、生き返りません。キャラクターでも。」”と答えた。
ここまでの話は井上星が悲しみに浸って、聞いていなかった。
よほどのショックだろう……死をどう考えた方がいいか、13.4歳の子にとって重すぎる……とフロンは井上星の様子を見て、思っていた。
だが、井上星の状態に気付いたとしても、フロンはやはり慰めなかった。できなかった。
自分の下手な慰める言葉より傷つくものがない。
自分は所詮他人だ。詳細な状況もそこまでわかっていない。こんな人が言った言葉は重みが感じられない……下手したら、逆効果かもしれない。
だから、フロンは何も言わなかった。そばにいてあげたい気持ちはあるが、その役割はもっと適任者がいる。
今、自分の役割を果たせばいい。あの伝言……フロンはそう考えて、井上凜が言ったあの子の伝言について考えていた。
なぜなら、今フロンにとって、少しわからないことが起きている。
やはりキャラクターの“ロールプレイング状態”……何かがおかしい。知っているのと全然違う。
フロンは只今、自分の役割を果たそうとしていた。
****
「にぃしゃん……」井上若実は心配な顔で井上星を見ている。彼女は自分の兄が落ち込んでいることがわかっている。だからこそ、彼女は自分なりに頑張っていた。
なでなで、ちょっとしたハグ、ぺちぺちと痛みが感じない平手打ち……しかし、どれも反応がなかった。
やはり、にぃにはどこがいだい。やはり、にぃにはぶじじゃなかった……
時には、子どもだけの特権がある。子どもだけにできることがある。
特に子どもは何がやりたいのにできなかった時、そんなことを認知した途端、このことは必ず起きてしまう。
いわゆる、子どもの大技。
この子どもの大技は、全てをぶち壊す――「……ううぅぅあわわああああぁあああ!」――全力泣き!
これは不機嫌になると、自分が無力であると、また、言語でうまく表現できないと、不機嫌の全力泣きである。
「……ちょっ!」さすがに感傷に浸っている場合ではない井上星。
「ああ!若実様!どうしました!」そして、大慌てていたフロン。
星様を邪魔しては――フロンは慌てて近づこうとすると、井上星はすぐフロンに手を伸ばし、手練れな感じで「どうしたどうした……」と井上若実を宥めていた。
さっきまで感傷に浸っているのに、すぐにここまでチェンジできるのは、フロンは井上星の妹思いの精神に少し感心していた。
だが、その精神があるのにも関わらず、井上若実は直接も粗暴な感じでぺちと井上星の手を振り解いた。
フロンは思わず「あ」と言ってしまった。
井上星は「ちょ……いたっ!」と言ったが、本当は痛くない。でも、痛くなくてもちゃんと痛いと言わないと、未来の粗暴行為に繋がるかもしれないと母から聞いていた。
だから、どんどん乱暴になっていた井上若実に、井上星はずっと「痛い!痛いよ!若実!こら!」と言っている。
しかし、井上若実は止まない。大暴れ坊になった井上若実はもう誰にも止められない。
井上星が最初抱きしめていた態勢も暴れていた井上若実によって、両手が掴まっている態勢になっていた。
井上若実はあがこうとすると、少し腰がくねって下につき、掴まるのも大変になる。
ここまでになると、さすが井上星でもちょっと怒り始めた。
「こら!大暴れてしないで!ちゃんと言葉で言って!」
子どもの力ではどうにもならないため、井上若実は涙ぽろぽろと言っていた。
「……やあいどこがいだいの……いだいの!」
井上星はそれを聞いて、はぁと嘆いた。
「なんだ……それなら、もう大丈夫だよ。ほら!」精いっぱいで作り上げた笑顔。
そして、「……うぞつぎ!うぞつぎ!」やはり止まない。
「ちょっと……」井上星は眉をひそめ始めた。苛立ちし始めたのだ。
少しずつ雰囲気が悪くなったため、フロンも心配し始めた。
あれ、もしかして……今の星様にはちょっと手に負えない……?
でも、星様は佳月様と一緒にアドバイスをくれたし、そんなはずが――
「……わかった。もう知らん!」と井上星が言って、すぐプイと近くの椅子に座った。井上若実も構ってないようずっと暴れている。
え……!二人の状況を見て、フロンは先に井上星に話しかけた。一番話しかけやすいため、また、話が分かってくれるため、井上星に話した。
「い、いいんですか?星様。そのまま放っておいて……」
「違うよ……このままでは僕まで崩れてしまうから……」井上星は元気がない感じに背もたれしている。
ああ……そうか。
「気持ちを整理する必要がありますよね?」
頷き。
「わかりました……」フロンは状況を理解した後、井上若実のほうへ見始めた。
期待していなかったが、それでもフロンは井上若実に近づいた。
「若実様~」弱々しい感じで話しかけたが、フロンの声が全く届かなかった。
「うあぁあああぁあああ!うぞつぎ!」
ぺち、ぺち。
「いや……いた、痛いよ!」
ぺち、ぺち、ぺち――
この号泣……前の何回よりも勢いがすごい!フロンは叩かれながら思っていた。
「……フロンおじさん。無理しなくていいよ……僕は後でやるから。」と井上星は二人の方向に一瞥した。
「それはわかりますが……二人どもに無理させたくありません。お互いを思っているからこそ、何とかしたいというこの気持ちはわかります。だから、少しでも手伝いたい……いったい、いたい!」(うわぁあああ!)フロンは下手な演技をしながら言った。
「……それに、あなたたちをあの世界に連れて行った私にも責任があります。あまり役に立たないかもしれませんが、手伝わせてほしいです。」
井上星は長い鼻息をした後、「わかったよ」と言った。フロンはそれを聞いて、視線を向いた。
……母さんの言う通りだな。妹がいると、例え自分は何があっても、色々調子が狂うものだった。
ただの兄さんらしいところを見せるだけでは足りない。こういうのは、ちゃんと向き合わないと……
「若実ちゃん!」と井上星は椅子から立ちながら、大声で言った。
「ひ、星様……!」
泣き止んでいないが、井上若実は少し頭を向いた。
もちろん井上星は危険行為をするつもりはないため、椅子から降りた。
だが、大げさに降りていた。
「とっ!」ジャンプして、一歩一歩、動き一つ一つ、全部大げさに動いた。
いらない動きも入れつつ、近づいていた。
フロンと井上若実二人も唖然とした感じに静かになった。
そういえば……こんなことを初めてやった時、かなり照れてしまったけど……みんなずっと褒めてくれたな。
「若実ちゃん!」
ビクッ。
「僕は、誰だと思っている?」こう言い始めると、井上星はとある有名な子どもアニメオープニングを歌い始めた。
井上若実はそれを聞くと、目尻に涙を汲んで、青ざめた表情だったが、どこがちょっと嬉しそうな感じに口角が震え上がってしまった。
そして、オープニングが歌い終えると、「さあ、答えてごらん。若実ちゃんよ……」とわざと低い声を作って言っていた。
まだ理解が追いついていないフロンだが、井上若実は答えた。
「に……にぃしゃん。」当然な答えだが、チッ、チッ、チッ……と、井上星は指一本を立てながら揺らした。
「僕は、無敵の、星だ!」大げさなポーズを取り、滑稽な動きをする。
ここでフロンはやっと井上星がやりたいことがわかった。
でも、こんなことをしているのに、何で若実様は……フロンは再び視線を井上若実に向いた。やはり青ざめた感じで、妙な笑顔になった表情だ。
「では、無敵の星は、どんな技があるのか、わかるか?我が若実ちゃんよ。」
「い……」
「い?」
「フロンおじさんはわからないだろう……教えてあげよう。」
無敵の星はな……と井上星は言いつつ、両手の指を気持ち悪い動きをし始めた。
「くすぐりの刑がすごいんです!」
「いやあ――!あははぁっ!わは!いぁ、はっはははは!」井上若実は走ったものの、すぐに井上星に掴まり、くすぐられていた。
「こら!さっきまでの悪い子は誰だ!ずっと大暴れしていた子は誰だ!」
ぐちぐちぐちぐち――
「あははは!わははははは!」
「答えないとやめないぞ!」
ぐちぐちぐちぐち、ぐちぐちぐちぐち――
「あははは!い、はあはは、わが、ははははは!わがっ!はははははは!わがみです!ごめんなああははちはい!ごめんなはははい!」
そして、答えたにも関わらず、もう少しくすぐりが続いていた。
「もうあははは!わはぁごたえだ!もうごたえた!じゅうぶん!じゅうぶん!」ドンドンと叩いた後、指がだんだんと緩くなった。
お互い身体が寄せて、体温を感じている。そして、一滴の水が井上若実の小さな手に落ちた。
井上若実はそれを見て、井上星の顔を見た。背を向けられていたフロンには見えないが……井上若実はそれを見て、抱きしめた。
「これで……わかった?無敵の星は……もう大丈夫だ。」
「……うん。ごめんなしゃい。」
井上星は、井上若実を撫ででいた。




