(5)
うっう……朦朧とした意識によって、身体が振動しているのを感じる。
「……まさか、たった一人の子どもがここまで手こずるとは、コイツの実力も大したことねぇな。」
ザァッザァ、引きずる音。聴覚によって、誰かの独り言が聞こえる。
「だが、これで……人間の素体を集めた。」
見覚えのある声が、ずっと物騒なことを言っていた。
「間もなく、私の魔法……私だけの魔法が完成する!」
身体は痛みによって、感覚が麻痺している。抵抗はおろか、動くすらできない。
身体が、動けない。
「そうなると、何が起きるかわかるか?」
一体どんなことが起きているのか、まだ理解が追い付いていない中、一つだけわかっている。
僕は誰かに引きずられている。その誰かは……
「そう!そうだよ。」
僕は靄にかかったあやふやな視界で、やっと一人の人影を捉えた。
もし、僕を引きずっていないこの隙に逃げられればどれだけいいだろうか……でも、身体がやはり動けない。精々震えることくらいできる。
僕はただ一回ビクッとしただけで、あの人は手を離した。
「震えるがいい!怯えるがいい!そして――」
あの人が宣言するように、両手を空に掲げている。
あの人は、狂っているような目付きで僕に近づいた。
あの人は、その誰かは――
「――喜ぶんだ!その時は、君も、お前も、世界中も!全てが私を認める!認めざるをえない!この私をな!」
――カリー様だった。
このことに再び認識すると、意識はもう一度闇に飲まれた。
カリー様……
****
朝。
「ふあぁ――」とメリナーはあくびをして、背伸びをした。
今日の朝、メリナーはいつもより遅かった。なぜなら、今日からクエストをこなす時間になる。受付の仕事と違って、遅めに仕事モードに入っても良い。
かといって、昼頃に起きるのは論外だ。どんなクエストには制限時間が設けてないとはいえ、依頼人にとってどんな人に完成させても同じだ。
つまり、クエストはケースバイケースでではなく、依頼人はギルドという存在に依頼し、多人数で処理している。
そのため、クエストはいつの間にか誰かに完成させてもおかしくない。その時、同じクエストを受けた人は依頼人の報酬が得られないというわけだ。
もちろん貢献に応じて、ギルド側が報酬に出すわけだが、依頼人の報酬が丸ごとに受け取れないため、あくまで最低限の報酬である。当然、もしクエストはパーティーでやると、報酬も仲間の相談で分ける。
力を合わせれば、できないクエストがいない――これは冒険者協会、ギルドの標語である。
しかし、メリナーは「はむ、はむ……」と朝ごはんを食べている。
彼女は朝ごはんのついでに、任務の過程記録に目を通している。
ではなぜ、報酬を争っている世界に、メリナーはまだのんびりとした様子で、少し寝惚けた顔で朝ごはんを食べているというと、今彼女が受けたクエストは実質ギルド側のクエストだった。
失踪者は中堅冒険者、依頼人が報酬を出さなくてもいい。依頼人の報酬がないというわけだ。
こういうクエストは、高位の冒険者は狙わない。中堅の冒険者はギルドの報酬より、情報料を狙っている。駆け出しの冒険者たちは、情報料に金を使って、無闇に探している。
行政のクエスト、いわゆる冒険者の人探しクエストになると、大体こうなる。
「……はぁ。やはり、あのパーティーの情報以外、役に立たない情報ばっかりだな。」メリナーは簡単に紙を整理して、まとめて机の一角に置いた。残りの食べかけも一気に食べた。
そもそも、どうしてどいつもこいつも直接に依頼人に聞かないわけ?相手は誰だろうと、事情聴取が大事だろう。これだから下っ端は……メリナーはそう考えて、鼻で長い息を吐いた。
「とりあえず、坊やに聞きに行こうか。」こう言って、メリナーはすぐ色んな道具と武器を準備して、出発した。
****
そして、メリナーはカリーの家に辿り着くと、一枚の紙を取り出して、周りを見始めた。
こいつの記録によると、周りの人たちはカリーが材料を調達して、外に出たという報告があった。カリーさんは周りとの関係は良いだろうと……うん。この件は坊やも言ってたな。ここまでは情報が一致している。
けど……ここまでたどり着いたら、依頼人にも聞けよ!メリナーは心の中で突っ込みながら、目の前の屋敷に目についた。
一応情報があるから、周りのやつは後にしよう。メリナーはこう考えながら、コッ、コッとドアーを叩いた。
「坊や。受付の姉さんですよ!」
無反応。
声が小さかったのか?
今度メリナーは少し力を入れて、「坊や。あたしですよ!綺麗なお姉さんですよ!」ともう一度ドアーを叩いた。
しかし、無反応だった。
ドン、ドン……三回目だ。
ここまで無反応になると、メリナーは嫌な予感がした。
「……勝手に入っちゃうよ。」メリナーは取っ手のようなドアノブに手をついて、ちょっと驚かそうという感じで揺らすつもりだったが……予想外のことが起きた。
開いた!
ドアーが簡単に開いてしまった。
「鍵を閉めていない……」
あの子はそんなに不用心な子なの?メリナーは取っ手を見つめて、眉をひそめた。
そして、メリナーは周りに人がいるかどうかチェックしていた。
クエストがあるとはいえ、今の彼女はとても不審者のように見える。
周りの状況をチェックした後、住民がいないとわかった途端、メリナーはゆっくりと扉を開けた。
メリナーも「……悪いお姉さんに入らせてしまうよ」と言った。
やはり無反応だった。
扉が少しずつ開いて、彼女に目に映った視界もゆっくりと広がった。同時に錆びた鉄の匂いが伝わった。
それは散乱とした景色だった。
まさに戦っていた後の痕跡だった。
特に一番有力な証拠は、所々に地面についた窪みにもなれそうな血痕である。
「これは一体……」メリナーは驚いた様子で、目の前の景色を見定める。
「……とりあえず、もっと確かめないと。」
驚いても混乱してもしょうがない。メリナーは中に入って、警戒しながら捜索し始めた。
あ、そうだ。捜索する前に、まず「バリア」のスクロールを……
メリナーは一つ紙質の巻物を取り出した。開いて、破る。
すると、彼女の目に透明な膜がゆっくりと全身に覆っていることが見えた。
まだ何かの危険が残っているかもしれない……人間の「バリア」の効力は一日につれて弱くなるが、重ねかけることができるから、「結界」より使い勝手がいい。
「では――」メリナーは屋敷を捜索し始めた。
****
「魔法の痕跡がある……そして、戦闘の感じは……このクローゼットが発端か?あと……この匂い、確かこの花の匂い……あの森の群生地帯しか生えていないはず……あと、戦い方は――」
ふぅと、メリナーは一通りの捜査がし終えた。
全ての状況から察するに、メリナーは結論をまとめた。
「間違いなく、坊やは攫われたのだろう……」そして、連れていかれた場所は恐らく、この町から数十キロメートルに離れた森――「命の森」に。
どんな人でどういう動機で攫ったのがわからないが……この坊や、最後まで抵抗したのだろう。少なくとも戦いの痕跡はそんな感じだ……
坊やの実力は不明だが、ある程度のやり合いがあった。でも、相手の方が実力が上だった。特に狡猾さが見える。アイテムの使用とスクロール、また魔法の痕跡が残っている。
「……こんな感じでしょう。」メリナーは悲しみの気持ちを抑えて、情報を整理していた。
坊や……こう考えると、メリナーは頭を横に振って、余計なことを考えないようにした。
私情にのまれて、判断力が鈍って、危険に陥ったのが冒険者の間にもよくあることだ。
メリナーはそれを避けたい。
このこと、まず副会長さんに知らせた方がいいな……
メリナーはもう一つのスクロールを取り出して、「伝言、お願い!」と言って、スクロールが紙質の鳥に変わった。
メリナーは全ての情報を鳥に伝えた後、外に放り出した。
「『命の森』か……」
「命の森」は駆け出しの冒険者たちもよく採取しに行くところだ。
魔物がいない上、距離は体力の鍛錬に向いている。薬の採取にも知識が蓄える。
だからこそだろうか……時々「命の森」では良からぬ企みの奴らが隠している。
「今回もそういう感じだろうか……」メリナーはそう呟いたが、女の直感がそうじゃないと感じている。
まず中堅冒険者が失踪し、その後同じパーティーの仲間もいなくなった。そして、今回は失踪者と直接関連している人が攫われた……
事前に計画しているのなら、この進展はあまりにも早すぎる。
なぜなら、これではまるでバレることを考えずにやっている。見せびらかすようにやっている。メリナーは血痕を見てこう考えている。
犯人はかなり衝動的で、後のことを考えていないか……あるいはバレた方がいいと考えている……
そう。まるで今のように。
「……誰?」メリナーは鋭い目で曲がり角に隠れていた人に目につけた。それは一人の男だった。
メリナーは隠匿の専門家として、容易く見破った。
「!」そして、見破られたとわかった途端、男は何も言えずに逃げた。
「待って!」
メリナーはすぐ男に追い付こうとした。
これは、彼女が命を失うことに繋がることだった。
****
「はぁ……はぁ……」メリナーは息を吐きながら、周りを見ている。
彼女は今原野にある、一つの森の外に立っている。
この森は、「命の森」だ。
実は、メリナーは追走している途中、男が目指している場所に何となく気付いた。
だが、彼女は諦めてはできない。
もしそう推測して、本当は違う場所を目指していたら、誤情報に釣られることになる。そうなると、何も解決できない上、次の被害者が増える。
そんなことはどうしても避ける必要がある。
もし途中で追いつけるなら、それは最善のことだが、メリナーは男に追いつけなかった。
明らかに身体能力が向こうの方が上だった。
二人はずっとギリギリ見失わないところの追走戦は、男が森に入った後、正式に終わった。
メリナーは少し悔しがる感じで周りを観察している。
「仕方ない。魔法を使おう。」メリナーは目を閉じて、魔法を使い始めた。
魔法を使うには、どうしても時間が必要だから、あまり使いたくないが……これだけなら――
――――――
感覚魔法:
直列、横列、また四角いの中の数字を重複しないように並べてください。
XX|XX 31|42
X2|31 42|31
───── → ───
X3|24 13|24
2X|X3 24|13
成功
――――――
数秒をかけて、メリナーは五感上昇の魔法を使った。五感は更に鋭くなった。
「……よし。これで、細かい痕跡でもわかるようになる。」
一応、もう一度副会長さんに伝えておこう。今、「命の森」にいる。犯人らしい人物もいるかもしれないっと……
「ふ……」メリナーは深呼吸をして、森に入った。
****
プチッと、激痛。
「うあぁ!」反吐が出るような激痛だった。
「ははははぁ!叫べ!私のために叫べ!」
激痛の中に、何も意識できない。目すら、開けられない。ただただ、叫ぶことしかできない。
「や、やめ……て……」
僕はやっとの思いで、線のような視界で景色を捉えた。それは見覚えのある人、しかし、知らない人だった。
「カリー……様……」
「ははは!お前は本当にバカだな。すでに言っただろう。お前のカリー様はもう消えたんだよ。」
「ちが……う……カリー……様……」僕は、あのモヤモヤとしたものを見ている。
あのすでに知らない人に変貌した存在より、僕は、なぜかあのモヤモヤとしたものが見たかった。
「うるさいな……まあ、もうすぐ、お前は記憶がなくなる存在になる。喜べ。何もかもが失うぞ!私の成就の礎、不老不死の定石……お前の犠牲は何たる偉大なものかわかればいい。そして、いなくなれ!」
プチッ
「うああぁ!」
「大丈夫さ。お前の身体、全てを使わせるよ。知ってるか?人間を素体に作った『創造体』、今まで誰も見たことがないんだぞ。」
僕は……
「世の中はこういうものだよ。力が全てだ。お前が弱い。弱い奴は、精々強者の踏み台になればいい――」
****
“「世の中はこういうものだよ。力が全てだ。お前が弱い。弱い奴は、精々強者の踏み台になればいい――」”
それは、瀕死の少年が一矢報いの行動だった。
相手に血のつばを吐く……これだけの行動だった。
だが、この行動が相手の不興を買った。
“「……いいだろう。お前を『精神体』にしても、永遠に苦しみを味わえばいい!」”
彼女――メリーナはそれを目視していた。
惨たらしいやり方だった。
“「うあああぁ――」”
坊や……!メリナーには、何もできなかった。
あの男の姿が森に入ると、ずっと見つからなかった。しかし、痕跡だけが残った。まるで導いているように、ずっと延々と森の遺跡に伸ばしている。
メリナーはその痕跡を追跡して、ここにたどり着いた。
そして、彼女は今、石造の階段の側に隠れて、冒険者としての正しい行動をやっている――静観。
迂闊に手を出してはいけない。道具と武器があるとはいえ、万全な準備ができていない。特に当の失踪者本人が……おかしくなっている。
どうにも事情がまとめられない。
……とりあえず、場所を確認した。これはすぐに教えた方がいい。
少年がもう一度の叫び声に、メリナーは一瞬足を躊躇ったが、やはり静かに遺跡を出ていた。
……ごめん。坊や。
メリナーは遺跡を後にした。
遺跡と距離を取った後、彼女はすぐスクロールを取り出した。
「伝言!お願い!」彼女は急いで全てを伝えた。
普通なら、これ以上の仕事は彼女はやりたくない。危険すぎる。
それに、人が見つかると、彼女の仕事が終わりだ。
でも、彼女はもう一度遺跡の方向に目を振った。
……監視が必要だ。
この考えは、メリナーの罪悪感が働いているせいだった。
メリナーは勇気を出して、遺跡に向かう……といったところ――
「小ネズミはコイツか?」――ありえない人物の声が近くに響いた。
草むらから、さっきまでメリナーがずっと見ていた一人の人物が現れた。
「なっ……!」メリナーは驚いた目でカリーの姿をしている人を見ている。
「そう驚くな……私が気付いてないと思ったか?」
メリナーには隠匿の自信がある。少なくとも、この人にばれていないと思っている。
「……どうやって?」
「『精神体』だよ。」
「精神体」、普通なら、精神体は操れない存在のはず……つまり、この男には精神体を操る手段がある。
「お前……カリーさんじゃないよな。」メリナーはさっきの少年の言葉を思い出して、こう言った。
すると、「カリー」は人に寒気を感じるほどの不敵な笑みを出した。
「まあ、そうですが何か?」
「お前は……誰だ。」こうなったら、少しでも情報を抜き取る!メリナーは武器に手をついた。何時でも臨戦態勢に入れるように。
「……ががが、ははははぁ!さすがギルド内で追跡できる女、ここまで知っておいてもそれを私に聞くとは。時間稼ぎ?それとも、私から情報を抜き取りたい?」
「何を言っている。この愉悦犯め……」ずっと痕跡を残しておいて、追跡できない方が無理がある。
「まあ……ともかく、お前にも死んでもらうよ。私のためにね。」
やはり、そう簡単にいかないか!メリナーは武器を抜き取って、すぐにでも先制を仕掛けるつもりだ。
だが――
「脳よ精神よ……」
こいつ、戦闘しながら魔法を使っている!
二人はたった三回の攻防が交わって、勝負が決まった。
「……震えるがいい!」
――――――
精神魔法
XXXX
不明。
XXXX
――――――
メリナーは頭が曇っていると感じた。
全てが終わるという感覚だった。冒険者として、初めて感じた絶望感だった……
そして、脳内にある声がこう呟いた。
“死ね。”
メリナーには抗えなかった。
身体も制御できなかった。
「うっ!」
パリン!と、バリアが自分によって破られた。首のところに、痣ができている。
「はぁ……はぁ……」そして、制御が外した瞬間、メリナーは逃げるつもりだった。
「おや……なら、もう一回。」
メリナーは足を運ぶ瞬間、彼女の手も、動いていた。
命の森に、珍しく鳥のさえずりがさいた。
****
僕は……いつここにいたのだろう。
僕は……なんでここにいるのだろう。
僕は……いつまでここにいればいいのだろう。
僕は……一体誰だろう。
ある日、僕のところに、一人が訪れた。
その人は、こう言った。
“すまん。俺がいたせいで……君にこんな目に遭った。”
なぜ謝るのだろう。
わからない。
またある日、僕のところに、もう一人が訪れた。
その人は、こう言った。
“ごめん。坊や。あたしがもっと実力があれば、話が変わるだろう。”
なぜ謝るだろう。
わからない。
そして、最後の人、僕はその人を神様と呼んでいる。
“申し訳、ありません。全然、君のことが、助けられなくて……本当に申し訳ありません。でも、いずれ、君を助ける人を連れてくる。少しずつ、思い出して……もし、思い出せれば、その時、わたしがあの人たちに頼める。”
“君は、「シナリオ」として、解放される。”
僕は、神様の伝えによって、何とか、頑張っていた。
記憶が、少しずつ思い出した。
だが、肝心な記憶は、どうしても思い出せない。
一つの存在がずっと僕を邪魔していた。
それは、悪意。
****
ホロロン――遺跡に轟きの音。
「ここは安全な場所のようだ――待って。リンディ。」
「……なんだ?この醜い『ドール』たちは。」
「……趣味悪いな。」
「そういえば、何年前、この遺跡に趣味のわるい魔法使いがいたそうよ。」
「ふん……つまり、こいつらはそいつの傑作か?」
「……なんかこちらを攻撃したがるようだな。」
「なら、さっさと解決しよう……しばらく、ここに居させてもらうよ。『ドール』ちゃんたちよ。」
****
ねえ、星。
どうして、僕は君に出会えることが嬉しいと思う?
どうして、僕は短い間だけで、こんなに幸せだったと思う?
それは、君の優しさが、僕に人生の全てを思い出させてくれたから。
“星。君と出会えて、嬉しかった。”
“短い間だけど、僕は……幸せだ。”
そして、ありがとう。カリー様。受付の姉さん。
また、
さようなら。
次話、本篇に戻ります!




