(4)
カリー様がいなくなった日から、今日で八日目……もう一週間が経った。
五日前にギルドに訪ねても、未だに消息不明のままだった。
僕は日雇いの仕事を終わって、家に戻った。カリー様がいなくなった今、収入源は僕しかいない。生活費はまだ残っているけど、予備金を残さないと。それに、カリー様が怪我して帰ってくることも……
最悪の結果を避けるために、できるだけのことをやってみた……でも、だからこそ、考えれば考えるほど、怖くなってきた。
「……本当に、探してるのかな?見つけられるのかな?」
ギルドの人に頼んでも不安が解消しない。逆に心の中に蔓延している。
僕は無駄な考えをやめようと、家の掃除をし始めた。身体を動かせば、何となく鎮めるだろう。
だが……
カリー様がいなくなる……死んでいたかもしれない……ずっと帰らないかもしれない……
僕は……見捨てられたのかもしれない。
心の底に思わず浮かび上がった嫌な考え方が、どうしようもなく消えない。
「それに、あのお姉さんも、ずっと文句言ってたし……もしかしたら、僕が言ってたことも全然まともに扱っていない……!だって、僕は昔、奴隷だったもん!」
やだ……カリー様がいなくなるのがいや!一人にいるのはいや!
思わず、掃除している手を止めてしまった。思わず、身体を丸めてしゃがんでしまった。奴隷だった頃の癖が出てしまった。
頭を膝の間に入れて、全部を丸みに収まる。震えた体を体温に温められ、嫌なことを暗闇に沈む。
“何、その姿勢。”
“こうすれば、ちょっと安心するから……”
“まるでボールみたい。”
“……”
“もしかして……不安になったのか?”
“……”頷き。
“……じゃあ、こうするのはやめよう。俺と外に行こう。”
“……?”
“嫌なことを忘れたいなら、頭を上げるんだ。”
“……わかった。”
ごめん。カリー様。僕一人ではできないようだ。
自分を安心させるために、僕はこうするしかない。ここには、僕一人しかいないから。
嫌なことを暗闇に、全て無駄なことを暗闇に……そして、いつの間にか、僕の意識も暗闇に。
沈んで、眠る。
この間、ずっと同じような生活が繰り返していた。
翌日。
僕は、カリー様を探すために、家を出ていた。
ずっと家に待っているのは、もう無理だった。
どうせ、僕は冒険者じゃない。何をするには制限されない。主人がいなくなった今……気にかけてくれる人もいない。
そう。僕は奴隷だった。
孤児だった。
この事実は、今も変えられない。
もしカリー様が本当にいなくなったら……今度こそ、一人になってしまう。
だから、もう探すしかない。
****
冒険者協会――ギルドにて
「メリナー!」一人の中年男性がカウンターの裏にある小部屋の扉を開けて、名前の主を探している。
すると、ぽろぽろと、山積みになった素材が震動によって崩れた。一人の女性が「ああ!」と悲惨な声を出した。同時に、他のところにも同じような叫び声を出していた。
「もー!ちょっと、副会長さん!」
地面と机に、素材の多さはほぼ一人の全身を覆っている。そのため、一人の女性は頭がびょこっと素材の山頂から現れ、不満そうな顔をしている。この女性はメリナーである。
メリナーは今、鑑定の仕事をしている。
「やっと分けられたのに、あんたのせいで滅茶苦茶になったじゃないですか!」
もっと正しく言うと、この数日、メリナーがずっと鑑定している。その原因は数日前、鑑定の仕事を仲間に押し付けたせいだった。
「それに、ほら!この人たちの血と涙で努力した結果もこの様になったよ!」
また、この小部屋にもう二人の職員がいる。ほぼ生気がない目付きはどれだけ頑張っているのがすでに物語っている。
だから、素材が崩れたことに他の二人はとても悲しんでいる様子である。
「そ、そう?それは申し訳ない……」と、副会長と呼ばれている中年男性がメリナーと職員の様子を見て、申し訳なさそうな顔をしていた。
「そう思うなら、この量は少し減ってくれれば――」
「それはダメだ!」
「うっ……」
「今厳しい時期だ。人手不足のこともわかっているだろう。」
「まあ、承知しているけど……」
「文句言っていることは目をつぶってあげる。できるだけの方便もみんなに作ってあげた。だから、調子に乗るなよ。」
「はーい、はーい。わかってるよ。それで、いい副会長さんはあたしに何か用?」
「はぁ……まったく。俺が舐められたのかな……」副会長は文句を言いつつ、一つの紙を懐から取り出した。その上に書いてあるのはクエストの内容だった。そして、メリナーが見覚えのある内容だった。
「たしか六日前だっけ?君が受理したこのクエストだ。」
「はい。このクエストがどうした?」ある男の子から聞いた人探しの任務。簡単に概要をまとめるとこんな感じのクエストである。
「どうやらこのクエスト、まったく進んでいないらしい。この町でも、付近の地域でも、それらしい行方が見つからなかったようだ。少なくとも、今までの駆け出しの冒険者や下っ端のやつらには見つけられない。ここまで時間が経つと、単純な失踪事件とは考えられない。俺が言いたいことがわかるか?」
「……つまり、この事件の裏には何があると?」
副会長は頷いて、言った。
「ああ、突然いなくなった中堅冒険者なんて……ただの単純な人攫いとか考えられない。普通に死んでいたという可能性はあるが……こういう結果を出して、依頼人に対しても少々無責任だろう。」副会長は少し頭を掻いて、続いて言った。
「それで……人手不足の今、君に頼るしかない。君はそれなりの実力がある。特に情報収集や偵察のことが得意だろう?」副会長は手を伸ばし、クエストの紙を差し出した。
メリナーはそのクエストの紙を見て、手を組んで、考えているふりをした。メリナーの様子を見て、副会長ははぁと嘆いて、こう言った。
「……鑑定の三日分は俺がやるから、君に頼んでも――」「じゃあ決まりね!」
メリナーはスッと副会長の紙を抜き取って、すぐに離れようとした。
「待って待って!情報を聞いてからに行ってくれ。見つかっていないとはいえ、少々の情報があるんだよ。」
「あ、そうだった。」
「……そんなに鑑定の仕事が嫌なのか?」
「つまらないもん。」
「はぁ……なら、今度サボらないようにすればいい。」
「はーい。」
本当に聞いているのかな……と副会長はそう呟いた後、続ぎに情報を記録していた何枚の紙を取り出した。どれもクエストの過程と結果を記している。
「とりあえず、まず大事な情報を伝える――」
――これは駆け出しの冒険者が先に「蓮華の剣」の仲間から情報を収集するつもりだったの話だ。
どうやら、そのカリーだけでなく、この「蓮華の剣」というパーティーの仲間たちも、全員いなくなったらしい。
****
僕ははぁと嘆いて、空を見上げる。
夕方が近づいてきた。
そろそろ帰らないと。
僕はゆっくりと原野の道路に足を踏み入れて、歩いている。
今日も……見つかっていない。町にはいない、町の近くにもいない……もっと、遠くにいるのかな?
でも、もっと遠くへ行くと、野営しなければいけない。一人の野営は危険だ……カリー様も言った。
もっと遠くに行きたければ、どうしよう?
そうこうと考えているうちに、僕は家に帰った。
家の前に立て、僅かな期待を抱きながら、ドアーを開いた。だが、目の前に広がったのはやはり暗闇の景色だった。
やはり……帰っていない。
僕は頭を垂れて、進もうとしたところ、一つの違和感を覚えた。
うん?なんか……おかしい。
僕は外で中の様子に一目を通した。
あまり掃除していない床が汚れていて、水のシミがついている。ほぼ置きっぱなしの掃除道具や柱のところに置いてあるバケツも動かされていない。
本棚、タンスにクローゼット、食器棚、机に椅子、また武器置き場や乱雑に置かれている書籍のたまり場……
屋敷の中の様子は変わっておらず、思わず自分の感覚を疑ってしまった。
気のせいかな?
でも、中に入った後、やはり違和感を感じる。
いいや……これは気のせいじゃない。きっと誰かが入ったことがある。
そう思うと、僕は速やかに蝋燭に火を立て、一つ一つのものをチェックした。アイテムがなくなったのかを確認している。
そういえば……カリー様が最初の時に言ってた。家事の手伝いが欲しいのも泥棒を防ぐためだと……
もし何かがなくなったら……
「ごめん。」僕はここにいない人に謝っていた。
そして、一つ一つのものをチェックした後、「やはりただの気のせいだろうな……」と僕は思い始めた。
一番価値がないところを最後にして、僕はクローゼットの前に立っていた。
ここには置かれているのは服だけ。泥棒なら、ここを選ぶ意味は――
「うん……?」クンクン
匂いがする。
花と草、それと泥が交じった匂いがする。少し複雑な匂いで、変な感じがする。
ここで、僕は違和感の正体に気付いた。
そうだ。空気の感じが違う……風通しの感じが違った。もしかしたら、気配を隠すために、風通しをしたのだろう。
僕はもう一度匂いを嗅ぎ、確認する。
間違いなくここだけ匂いがする。微々たるだが、変な匂いだ。
つまり……クローゼットの中に、誰かがいる。
僕は拳を握って、深呼吸をした。
開けたら殴る……開けたら殴る……
大丈夫。僕はカリー様から武技を学んだ。普通の泥棒なら相手じゃないってカリー様が保証してくれた。
さあ……来い!
僕はクローゼットを開けた。
この幕間は次話が終わります!




