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六人家族が異世界に  作者: ヨガ
三人のシナリオ(2)
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43

 井上若実は四歳児である。昼寝に抗えない。だから、彼女は家族と会話ができて、安心したら寝てしまった。


 そして今、井上若実は目を開けて、ちょっとした寝惚け眼をこすりながら、ゆっくりと起きていた。彼女は知らない天井にちょっとちっちゃい眉をひそめ、周りを見始めている。


 原木に作った家具と本棚、他に信じられないほど大きな机と舞台みたいな丸いステージ、最後はその舞台の上に立っているちょっと変な外見にみえる外国人風のフロン……


 知らない部屋に知らないもの、最後に知らない人……井上若実は普通に怯えていて、不安な顔でこう言った。


「……とうさん?」と井上若実が父を探している。周りを見ている仕草は家族を探している。へんなおじさんといたくないという意味である。


 井上若実、寝る前のことがすっかり忘れていた!


 当然、忘れていたから、フロンの存在も忘れた。今の彼女にとって、フロンはただのへんなおじさんだった。


 そのへんなおじさんが彼女を見て、「あ」と言った。


 井上若実はへんなおじさんを構わず、ただもう一度周りを見て、次の言葉を言った。


「……にぃに、おにぃ……」


 かあさんがいない。とうさんもいない。にぃにとおにぃもいない!ねぇねも……でも、へんなおじさんがいる!


 家族の人が誰もいなかったから、井上若実、もうすぐ泣きそうだ!


 フロンは井上若実の顔を見て、すぐ「ちょっ、ちょっと待ってくださいね!凜様!」と言って、丸いステージから降りて、慰めに行くつもりだった。


 でも、フロンは害意がなくても、井上若実からすればただの怖い変なおじさんである。


 そのため、フロンが近づいてくると……井上若実、泣いた!


「……うううぅわあああんん!」最初は鳴き声に聞こえるが、段々と号泣になっている。子供の特有の少し声を伸ばしてから泣く声だった。


 これは井上若実の不安げな泣く声だ。


 井上若実が泣いた途端、フロンは慌てていた。


「あれ?!わかみさま……いや!姫様!もう俺のことが忘れました?!」


 フロンは当然井上若実が寝てしまう前のことが覚えている。姫ごっこのことや宥めること、かなり苦労をかけたから覚えている。


 井上若実が最初の頃――井上一家の五人をハーラーリア世界に飛ばした時――フロンは井上佳月と井上星から助言を得て、何とか姫ごっこや誘導の仕方で現在の状況を説明し、やっと井上若実を宥めたのだった。


 でも、まさか今の井上若実がその記憶を飛ばしてしまった。フロンは全然考えていなかった。


 子供の記憶力がいいってよく言うじゃないの?!


 フロンは友人からの言葉を思い出しつつ、「姫様!ほら、ほら!角でちゅよー!さっきよく触ったでちょう?」と変な感じで赤ちゃん言葉を言ったが、それは井上若実の逆鱗に触った。


「いやあん!」ペチっと、小さな手が無慈悲にフロンの「角」という部分に叩いた。


「いたっ……!」いや、痛くないけど痛い……主にフロンの心に。


 赤ちゃん言葉はダメなのか?でも子供によく使われるじゃないの?とフロンは叩かれた「角」を撫でながら、落ち込んでいる。


 実は、井上若実が泣きそうだから、フロンも焦ってしまって大事なところを忘れてしまったのだ。


 井上若実は四歳児である。すでに判断力がついている子どもだ。むやみに赤ちゃん言葉で宥めることは逆に切れてしまう。


 じぶんはあかちゃんじゃない!


 自分は子どもじゃない気持ち、不安な気持ち、また自分の気持ちがうまく言葉で表現できない怒り……四歳の子どもは複雑だ。これも井上佳月と井上星二人がフロンに助言する意味だった。


 もちろん色んな状況で二人はここまで説明できなかった。フロン自身で考えるしかなかったが……


 今のフロンが焦っていて、助言のことを忘れてしまった。不安を感じた井上若実と同じ。


 結局、育児の経験や子どもの世話をする経験がないため、フロンにはどうにもならなかった。


「はぁ……」とため息をついたフロンは少し憔悴した顔で、もう一度丸いステージに立っている。


「桃花さん、凜様。あの――」


 ****


「桃花さん、凜様。あの……若実様が……起きました。」


「お!なら若実ちゃん、聞こえる?」と井上凜が早速話しかけたが、返事が聞こえなかった。


 井上凜はまだ気付いていない。フロンが疲れた声に。


「いや、その……」


「かわいい妹ちゃーん!聞こえる?」と井上桃花も話しかけた。やはり返事がなかった。


 井上桃花も気付いていない。フロンの元気がない声に。


 星くんの考えた通り、若実ちゃんが起きた。これなら、「空の声」が使える……と井上凜がこのことを考えている。


 井上桃花も、妹ちゃんが起きているのなら、「空の声」が……と井上凜と同じ考え方だった。


 両親の救出することに集中して、フロンの状態に気付いていない二人である。


 ツリーセ(井上星)だけ、「あの……二人もフロンさんの話を聞いた方がいいじゃない?」と言った。


 『フロンおじさんはなんか言いたそうだし。』と井上星が言って、ツリーセが「フロンさんは何かが言いたいじゃない?」と伝えた。


 ツリーセの話を聞いて、二人はそうだなと頷いて、しばらくフロンの返事を待っていた。


 そして、フロンはゆっくりと、まるで何かを配慮しているかのように小声で言った。


「いや、その……今、少し面倒な状況になりまして……なんか、若実様は私のことを忘れてしまったようで、ずっと泣いています。」


「……つまり?」


「つまり……若実様は二人の話が聞こえないところにいて、どうすればあなたたちの声が聞こえるようにするのがわかりません。」


 ここで井上凜と井上桃花二人が思い出した。


 井上若実、寝起きが悪い。

申し訳ありませんが、恐らくこういう雰囲気が次話も続きます。

何とか次話で終わらせます!

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