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一方、井上凜はフロンに話しかけたが、返事がもらえなかった。
「またいなくなりました。」と井上凜がツリーセに言った。
『確かに返事がなかったね。』
「そうですか……いないでしたら、仕方ありません。では、どうします?休憩します?休憩のついでに、ちょうどリンさんは僕に何が聞きたいか整理できますし……」
「いいや、今は休憩しません。なぜフロンさんがいなくなるか、少し気になっています。」と井上凜が考えながら言った。
「なぜって……急用とかじゃないでしょうか?」
「ええ。私もそう思います。では、その『急用』が何なのか、気になっています。」と井上凜が言いながら、遺跡の周りを観察し、蔓のところに行った。
「でもそれは、僕たちには知りようがないじゃないでしょうか……」とツリーセが井上凜の動きを見ながら言った。
逆に、井上星は兄が『急用』の言葉を強調した感じで言ったことから、何が言いたいか少しわかってきたが……なんで兄が蔓の靭性を確認しているのかわからなかった。
井上凜は蔓の耐性を確認しているように何回も引っ張っていた。
蔓は人の体重が耐えられないとはいえ、繊維の靭性が手の力では千切れなそうだ。
「確かに知りようがないですが、私の意味は――」『たぶん、兄ちゃんが言いたいのは、フロンおじさんのところに予想外のことが起きてしまって、何かの事故があるじゃないかっていう意味だろう。』「――ということです。」
「そして、その『事故』はもしかして家族に何かあったじゃないかって……」と井上凜が心配な顔をしている。
「なるほど。確かにそういうことでしたら、休憩できませんね。僕も手伝いましょう。」
「ありがとう。」
「それで、僕はどうすればいいでしょうか?」
「そうですね。まず、この蔓が何本かほしいので、手伝ってほしいです。」
「わかりました。お安い御用です!」ツリーセは自信あふれる顔で胸を手で叩き、井上凜の側に近づいた。
ツリーセは少し退いてほしいという意味で、手を横に移動した。井上凜はジェスチャーの意味がわかって、少し退いた。
「この蔓は手の力では千切れないから、こうして――」ツリーセは一足が壁について、まるで壁に歩くつもりの感じで蔓を引っ張っている。
「――全身の力で使わなきゃ!」とツリーセが全身の力を使いすぎて、ほぼ赤面になった。蔓はツリーセの要望を応えたかのように、プチと一本の蔓がちぎられた。
全身の力を使ったせいで、蔓をちぎった際、ツリーセは態勢のバランスが保てられなくて、簡単に尻餅をついた。
この状況を見た井上凜はすぐ「大丈夫ですか」と関心を示し、近づいた。
『ちょっと痛かったよ……ツリーセ。』と井上星も言った。
ツリーセは恥ずかしい笑顔になって、自分のお尻を触りながら立っていた。
「ごめんね。星。そして、大丈夫です。リンさん。」
「無事ならいいんですが、無理しないでほしい。説明してくれたら、私がやればいいですし……」
「それはわかっていますが、実践した方が早いかなって……」
『せめてやる前に言ってほしいんだが……』
「ごめんね。星。」
『……いいけど。』
そういえば、キャラクターを作った時、少しバカっぽいという設定にしちゃったな……と井上星は少しこの蛇足の設定に後悔している。
「でも、教えてくれてありがとうございます。もっと何本かほしいので、残りは私がやります。体格も私の方が大きいですから。ツリーセさんは隣に休んでください。」
「いいえ、二人でやった方が早いですから、僕も手伝います。」決意が固い表情をしているツリーセに、井上凜は自分が何を言ってもしょうがないとわかった。
「うーん……わかりました。じゃあ、無理のない範囲でやってください。」
「わかりました。」
そして、二人はしばらく何本の蔓を集めた。
ツリーセは少し蔓の用途に気になって、井上凜に話しかけた。
「しかし、リンさんは蔓で何をしたいでしょうか?」
「うーん……星くんならわかると思います。」
『僕が?』
「なんかわからないらしいよ。」井上星の疑問の感情も感じていたツリーセが言った。
「ああ――その、君はよく父さんと野外活動をしていたじゃない?そういう知識。」
『あ!なるほど。サバイバル用ね。』
「サバイバル用って言いました。」
「そうです。それに、この遺跡に来る前に、目印も付けておいてなかったから。今回迷わないようにして、目印を作りたいです。」
「なるほど。」
「ええ……よし。これで大丈夫だろう。」二人が一緒に何本の蔓を集めた。各腕に円のようにグルグルと回っている蔓の縄が掛けてあった。
「うん。では、早速探しに行きましょうか?あなたたちの家族を。」
「そうですね。」
二人は遺跡を後にして、出発した。
歩いている間、二人はもう少し交流している。
「ちなみに、ツリーセさんは『判定』のことがわかっていますね?」これは井上凜が一つロールプレイング状態に対しての疑問である。
「ええ、わかっていますが……それはあなたたちに力を貸したような感じです。僕には判定するが必要ありません。元々『キャラクター』として存在していますから。」
井上星は内心で「へえ、不思議だな」と感心しながら、井上凜が結論をまとめた。
「つまり、ロールプレイング状態は……キャラクターの性能をそのまま発揮できるようになるということでしょうか?」
「はい。そういうことです。」この話を言った後、ツリーセは少し迷っていた。
それは何が話したかった気持ちだった。ツリーセはうまく表情を隠したから、井上凜にはバレなかった。
でも、身体が同じだから、井上星にはその気持ちが感じ取れた。
『うん?どうした?ツリーセ。なんか……』
「ううん。何でもないよ。星。」
井上星は自分がはぐらかされていることがわかっている。
『いや、何でもないじゃないだろう……』
「うん?星くんは何を言いましたか?」
「僕のことを心配しているそうです。たぶん、僕があなたたちの家族を心配する気持ちを感じたから、それを気にかけてくれたでしょう。」ツリーセは半分嘘を交じって言った。
ツリーセは確かに二人の家族を心配する気持ちがあったが、井上星が言いたいことをピントのずれた意味にしていた。
『違うだろう。君はもっと別の話が――』
「そうですか。星くんは優しい子ですからね。」井上凜は少し自慢げに言った。自分の弟に少し誇りを持っている。
『違う!兄ちゃん!ツリーセはもっと別のことを隠したんだよ!』井上星が伝えたかった言葉はツリーセしか伝わらなかった。
「そうですね。わかります。星はとても優しい子です。だから、心配してくれましたね。」
ツリーセが初めて自分の話を無視した。ここで井上星が何となくわかった。
『君は……言いたくないのか?』
「うん。」
『わかった……無理に言わせるつもりがない。』
「ありがとう。星。」
『でも、さっきみたいに僕の話を無視しないでほしい。なんか怖かったよ……』自分の身体は自分の意志でコントロールできないから、井上星は恐怖を感じた。
「わかった。心配させちゃってすみません。そんなつもりがなかったんだ。」ツリーセは伝わってきた恐怖を感じて、素直に謝った。
『いや、勝手に聞き出そうとした僕が悪かった。すまん。』
この話を聞いて、ツリーセが微笑みをした。本当に優しいねって思っている。
微笑みを出したことから、井上凜はたぶん話が一段落したと思っていた。
「では、ツリーセさん。」しばらく進んでいた二人は、井上凜が先に足を止めた。
「はい。」ツリーセも同じ足を止めた。
「キャラクターの性能を発揮することができるなら、『捜索』のスキルが使えますか?」
「はい。もちろん使えます!」
「正直の話、私はもう『判定』に頼りたくありません。それに、メッセージがある程度の距離に近づいたら出てきます。人を探す判断の要素にもなります。だから、探す方法はツリーセさんにお願いしていいでしょうか?」
判定はダイスを使って、運に頼るようなものだ。手がかりがないから、ずっとやむを得ず使っていたが、井上凜はあまり好きではなかった。
「いいですよ。僕に任せてください!」
「では、頼みました。」
ツリーセは目を閉じて、自然を感じているように五感が鋭くなっていた。草木の揺れ方、木々のモソモソ音、風の風向き、また、泥と青草に混じっていた血の匂い……ツリーセは周りから感じ取った色々な感覚が井上星にも伝わっていた。
血の匂い?井上星が疑問を感じたと同時に、ツリーセが目を開けた。
「あそこから微かな血の匂いがしますが……行きますか?」ツリーセはある方向に指して言った。
ツリーセのこの質問に井上凜は躊躇いなく答えた。
「ああ、行きましょう!」
二人が行動して間もなく、血の匂いが濃くなって、井上凜にも伝わるレベルだった。
メッセージが出てきていなかったが、ある声を聞こえて、井上凜と井上星は確信した。家族がこの方向にいるということを。
「智澄さん!大丈夫ですか?」それはフロンの声だった。
“その付近に人が集まってくれたら、力の連鎖によって、私の声が全員聞こえるようになります。”これは井上凜と井上星が遺跡の前に合流した頃、フロンが話したことだった。
余談
二人は遺跡を後にして、出発した……の前に!
サバイバルという言葉に、ツリーセがかなり興奮気味だった。
ツリーセはもう少し自分が役に立つところを見せたかった。
「リンさん!実は僕、野菜と山菜の見分け方もできますよ!」
「え?そうですか?」
『うん?そうなの?』僕はそんな設定をしてなかったはずなんだが……と井上星が思っていた。
「はい!例えば、これ!」ツリーセは遺跡の周りの雑草をもぎ取って言った。
「これは食べられます!」
その雑草は井上星が判定する時、大失敗になってしまった雑草だった。




