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「本当にできちゃった……」井上桃花は少し信じられない顔で言った。彼女は気絶している吸血鬼を見ている。
対処法が簡単だったから、少し信じられなかった。
しかし、対処法が簡単に思えるのは、方法を提供する人がいたから。フロンがいたから。
方法がわからなかったら、井上桃花は今もあたふたしていて、攻撃を避けるところだった。今の彼女にはこの点にまだ意識できていなかった。
理由は――
「できたよ。フロンさん……」
「それは良かったです。だが、四体がいるでしょう?状況は……」
「あ!そうだ!」井上桃花はすぐ両親のところに駆けつけた。
――状況が許されなかったから。
「父さん、母さん!後頭部を狙うんだ!そうすれば気絶させる!」井上桃花は言いながら、乱戦に加入した。
「わかったわ……」「ああ……」
無気力な返事に、井上桃花は二人の状態が気になっていた。二人の方に目を移すと、二人とも相当疲れている様子だった。
三体の吸血鬼と対峙して、井上智澄と井上佳月はかなりの体力を消耗してしまって、ボロボロになったのだ。
爪に切られた傷や破られた服など、ずっと頑張って三体の吸血鬼に足を止めた明らかな証拠だった。
その家族を守っている心身はボロボロになっても、決して無様ではない。
対処法のことが意識できていなくても、このことくらい井上桃花にはわかっている――自分の両親が最高であることを。
「加勢する!止めても無駄だよ!今反抗期だから!」と井上桃花が言った。
実はこんなことを言わなくても、一体の吸血鬼はすでに彼女の背後に向かった。
吸血鬼は背中から不注意な井上桃花に爪を振ろうとした。
「後ろ!」とこの状況が見えた井上佳月が焦った様子で言った。
井上佳月は自分の娘と距離があったため、また吸血鬼に邪魔されて、声を出すしかなかった。
井上桃花は反射で振り返ってみた瞬間、吸血鬼の爪がすでに彼女の目前に迫った。彼女にはもう避けられなかった。
それでも、傷を負ったのは井上桃花ではなかった。井上智澄が代わりに受けたのだった。
井上智澄が両者の間に入り込んで、身体で娘を庇ったのだ。
井上桃花と吸血鬼の距離が声を出しても、きっと反応が遅れて、傷を負うものだ。だから、井上智澄はあの状況を見た瞬間、咄嗟の判断ですぐ行動した――自分の身体で娘を守ると。
爪に切られて、井上智澄の身体に血の横の四本線が作られた。彼は適当に近づけた吸血鬼を遠くへ投げた後、ずっと背中を向いたまま、井上桃花に話しかけた。
「まったく……反抗期の娘はどうすればいいか、教えてほしいものだな。」
また、ずっと背中を向いた原因は、作られた傷を見せたくなかった。
自分の父の一連の動きとセリフを合わせて、井上桃花は思わず感嘆の声で言った。
「ふふ……かっこういいな、父さん。」
「はは。父さんとして娘にこう褒められたのは、嬉しいことこの上ないな。」
「シャー!」もう一体の吸血鬼が攻めてきたものの、二人が会話しながら、一緒に押しのけたのだ。
こんな状況でも、冗談が通じ合っている家族だからこそ、二人の顔が微笑みをしていた。
「あの……反抗期の娘にどうすればいいか、私が調べてみましょうか?」と少し冗談が通じないフロンである。彼は現場の状況が見えないから。
もしかして二人が皮肉を言い合っているかもしれないと、フロンは場を調和するつもりだった。
「いや、いいんです……」「大丈夫だよ。フロンさん。」
「そうですか。」
二体の吸血鬼は地面から起きて、二人に向いた。もう会話する時間がないと二人がわかっている。もう一体の方も井上佳月とやり合っている。
「とりあえず、後頭部……だな?」
「ええ。」
「ならば、一体ずつ片付けよう。君は先に母さんの方へ行け!」
「でも……!」
「今母さんの方が心配だ。俺より彼女の方が一番傷を負っている。体力もかなり消耗されている。早く行け!」
それでも井上桃花はまだ少し迷っている。なぜなら、ここを離れたら――
「まだわからないのか?二対一の場面を作るんだ!あちらのを解決すれば、次はこっちに来ればいい。父さんが牽制するだけ、心配するな!」
「……わかった。」
井上桃花は母のところへ駆けつけた同時に、二体の吸血鬼が井上桃花に向かって走っていた。
「娘に手を出させない!」井上智澄が言いながら、自分の側から通りかかるところだった二体の吸血鬼に腕をシュッと掴んで、全身の力を駆使し、二体まとめて娘と反対方向へ遠くに投げた。
投げ方はプロペラみたいに二周回って、遠心力で投げたのだ。
実は、自分はよく野外活動をしたとはいえ、こんな芸当ができる人間ではないと井上智澄が思っていた。こんなことができる心当たりは何となくわかっている。
四本線の傷が作られたが、その傷は井上佳月と比べたら不思議なぐらいに浅かった。
理性が失った吸血鬼は手加減するような奴には見えない。傷が浅い原因は相手じゃないなら、「自分の身体」しかない。
『頑丈』……子どもの影響で井上智澄もTRPGの経験者だ。だから彼は知っている。
TRPGでは、スキルは判定だけに影響するようなものじゃない。
スキルは、「キャラクター」に成り立つ一つ大事な要素だ。
ステータスの数値、スキル、ストーリー等々、それぞれが一つの「キャラクター」に形成する不可欠な要素であり、大事なものである。
よく考えれば、湖に辿り着けたのは不思議な「認識力」のおかげだった。井上智澄は広くなった視野と自分の知識と合わせて、あの湖に辿り着いたのだ。
今の状況もそうだ。
井上智澄は地形と環境の利を生かし、三対二の不利な状況を何とか五分五分に持ちこたえたのだ。
井上智澄にはロールプレイのメッセージがないが、彼はこう思った。
自分はただフロンだけではなく、もう一人の他の「誰か」に助けられたと。
そして、色々合わせて考えていくと、とても不思議な結果に至ったが、井上智澄はそのまま受け入れた。
その「誰か」がきっと「自分の身体に潜む」誰かに違いない。
君には悪かったな……大事なことなのに、適当に作ってしまった。申し訳ない。
でも、もう少しこの力を使わせてもらいたい……大事な家族を守りたかったから。
まるで井上智澄の気持ちに反応したかのように、視野がもう少し広くなった。
この視野を通して、自分の気持ちが答えられたとわかっていた井上智澄は、他人には聞こえてもわけがわからない言葉を出した。
「ありがとう……」
「いいえ、あなたたちに手伝うのは私の役目ですから。」とフロンは井上智澄が自分に向けて礼を言ったと勘違いしていた。
「はは……そう言わずに、娘を守ってくれてありがとう。」と井上智澄は気まずくならないよう、フロンに答えた。
「そう言ってくれて、私も嬉しかったです。でも、智澄さんも気を付けてください。二体を負うつもりなら、不利だと思います。こちらは1対2の戦術を教えましょう。」
「ああ、それは助かります。」
もし息が合っている相手と対峙すれば、その二人に一斉に攻撃させないようにするのが大事だ。
手数が増えると対応しきれない、この理屈はどんな生き物でも通じる。
では、一緒に攻撃させないようにするのはどうすればいいかというと、周りの地形や道具などを生かして、攻撃のタイミングをずらせるのが最優先だ。
つまり、二対一の場合、まず1対1対1のような状況を作り出すのが先決だ。この状況が作れば、戦術が広がる。
例えば、相手の攻撃をもう一人の相手に攻撃させる。
「――柔よく剛を制す。牽制だけでしたら、無理に立ち合わないようにしてください。ちなみに、凶暴化になった吸血鬼は血に釣られます!」
「わかり、ました!」
フロンが話をしている間、井上智澄はすでに二体の吸血鬼に一斉に攻撃されている。
一体の攻撃を避けても、もう一体の攻撃を食らう。
この状況をどう切り抜けるには理論を聞いただけでどうにもならない。
ここで、井上智澄は一つ思いついた。一息を入れた時、井上桃花とフロンの言葉だった。
“必要であれば、判定を使ってみてください!”
「申請!」
井上智澄:
「『戦闘』の判定に、状況によって変わる。
スキル:『認識力』スキル効果:出目に+2。空間の認識力が少し広くなる。
スキル:『頑丈』 スキル効果:出目に+2。身体が少し傷つけにくくなる。
使う・使わない。」
井上智澄は隙を見て、ダイスを振った。
その結果は――
井上智澄:9(+4)=13




