形見
駐屯地についてから、一戸さんの宿舎を探した。
敷地内の団地のような官舎の3階だった。
階段を登って、部屋番号を確認すると、呼び鈴を鳴らした。しばらくすると、写真で見た奥さんが扉を開けて顔を出した。
私は奥さんにペンダントを渡した。
奥さんはすべてを察したようで、その場で泣き崩れた。
その時初めて、私は大変なことをしてしまったんだと、気付いた。銃を渡して、結果的に一戸さんを死なせてしまった。
なんて言葉をかけていいか分からず、私はその場を立ち去った。
私はバイト後、家に帰ってからもずっと、一戸さんと奥さん姿が頭から離れなかった。
人が死んで、涙も出ない自分がそういうものなのかもしれないという諦観があったが、奥さんの姿を見て、泣くのが普通なんだ、と思った。
そして、感情的になんとも思えない自分が、もしかしたらおかしいのではないか、と疑問を感じた。
今まで、学校でも、家でも、おかしいのは周囲で、自分はおかしくない、単に理解しない周囲が悪いと思っていたけれど、実は私がおかしかったのではないか?
私がおかしいから、皆が私から離れて、親も私を見放した。そう考えると、いろいろなことが辻褄があった。
いつか自分の正しさを分かってくれる状況なり、そんな人が現れて、なんとなくうまく進むかもという淡い期待があったけれど、その可能性が全く無いということに気がついた。
そう、社会は悪くなくて、悪いのは私だったのだ。
かろうじて残っていた私の足場が、ガタガタと音を立てて崩れていき、私は底なしの沼に落ちていった。
一方、副知事は県庁に戻り、怒り心頭で、群馬県と交渉の余地なし、力ずくで電力と石油を確保すべしと主張した。
停電が長引き、断水で、病院や老人ホームで高齢者がバタバタと亡くなっていた。
知事は大宮の32連隊に、県民救済のため、武力での電力、石油確保を要請し、32連隊はそれを受けた。
32連隊は神流川を越境し、12師団の防衛線を突破。12師団は32連隊が本当に攻撃してくるとは予想しておらず、総崩れとなった。
32連隊が相馬原駐屯地を占領し、12師団は降伏。日本海の柏崎原子力発電所、東新潟発電所を占領し、埼玉向けの電力供給が再開した。




