作戦開始
救出チームのメンダーの選定が始まった。
ただ、ほとんどの小隊は、東京側の荒川で第1師団と対峙しているか、群馬側の利根川・神流川で12旅団と対峙しているため、人手が全くなかった。数人ほどやりくりし、一戸さんがその中に含まれていた。通信担当を誰にするかで、一戸さんが私の名前を上げた。
「一度経験もあるし、危ない時はすぐに避難して良いから」
そう言われて、私は断れなかったし、断る理由も特になかった。
群馬に行くだけでしょ、と思っていた。
小型トラックの荷台に乗って、群馬との県境の神流川まで行った。
一戸さん以外は、みんな知らない人で、つい黙り込んでしまった。
「千里ちゃんは、集団行動、苦手?」
「ええ」
ずっと無口だから、そう思われたのだろう。
「一戸さんは、得意ですか?」
「得意じゃないけど」としばらく考えて、
「楽、かな」と彼は言った。
「なんで、そうなんですか?いろいろ気を遣ったり、話題について行ったり、私はちょっとハードル高いというか」
ちょっと間があった。
「千里ちゃんは実は強い子なんじゃない?僕は自分が弱いと知っているから。だから、つい群れたくなる」
一戸さんは続けた。
「みんな、千里ちゃんが体育館のかんぬきを開けてくれたって知って、感心してたよ。今まで誰もしてくれなかったことだし。それに、停電から、あの日までよく一人で生きてこれたんだなって」
それは引きこもっていたから、外の事情が分からなくて、気付かなかったというか、逃げ遅れたというか、褒められることじゃない。食べ物や飲み物だって、盗んだり、公園のトイレ回ったりしてたし。
でも、敢えて口に出さなかった。
道には、ほとんど車は走っていなく、郊外に出ると、全く居なかった。ガス欠になった車が、時々道端に乗り捨ててあった。
しばらくして、川岸に付いた。
主要な道路の橋は、向こう側で戦車が封鎖していた。川沿いに川上に登った。少し行くと、小さな橋が所々にあり、普通に渡れる状態だった。
でも、昼間にトラックで走ると、かなり目立つ。
夜まで待ち、闇夜に紛れてトラックは進んだ。
田舎の下道をくねくねと進み、副知事が監禁されている高崎郊外に明け方着いた。
市街地に入ると、ところどころで地元の警察が検問をしていて、交通が遮断されていた。
「ここからは歩いていこう」
小隊長の指示で、皆トラックを降り、歩き出した。
私も通信機を背負って一緒に歩いた。
市内はガランとして、誰一人いないようだった。建物の間がそれなりに空いているから、団体で歩くと、遠くからでも結構目立つ。
裏通りを、検問に見つからないように、建物の影に沿って歩いていった。
突然、遠くで小さな銃声がして、私のすぐ前を歩いていた隊員が倒れた。
最初、なんで前の隊員が倒れたか分からなかった。彼の下の地面に赤黒い血の海が広がって、撃たれたのだと分かった。
皆ぱっと建物の影に身を隠した。私は一戸さんに引っ張られて、建物の影に倒れ込んだ。
道の向こうの建物の屋上から狙撃されたようだ。
倒れた隊員はすでに息絶えていた。
えっ、こんな急に、それも簡単に死んでしまうんだ。
私は急に怖くなった。次に狙われるかもしれない。
「大丈夫」
一戸さんはそう言ったが、真に受けられなかった。気がつくと、足が震えていた。
別の隊員がライフルを出し、狙撃元の方を狙って1発撃った。
しばらく間があった。
コースを変え、狙撃手のいる建物を迂回する事になった。
「建物間は、走って」
一戸さんは私に向かってそう言い、わたしは「うん」とかろうじて声に出したが、足が動くか自分でも分からなかった。
別の隊員が周囲を確認して、行けと手を振った。
皆が一斉に、隣のビルの影に走り、私も走った。




