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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
最終章 回想列車の夜
119/120

119、不器用な少年達






 主人に話があるというトーリスの案内をルイーゼが、イツキの見舞いをしたいというベネをスカイルが部屋まで連れていく。


 「あの、さっきの女の子と貴方はトーリスさんとお知り合いなんですか?」


 「あー、まあ、そっすね」


 流石に育て親・兼・暗殺ギルド関係で親しくしていたとは言えず、サラッと流しておく。


 「そういうオキャクサマは、トーリスとどういった関係で?」


 代わりに気になっていたことを聞き返すと、人が好さそうな少年は困ったように頬をかいた。


 「えっと、正直僕も分からないんですよね。村に突然トーリスさんが参られて、暴れ馬を出してほしいって交渉したんです」


 「暴れ馬っていうと、さっきのあのデッカイ馬っすか?」


 「はい。普通の馬より力も速さもあるんです。ただ、かなり狂暴なんですけどね」


 苦笑するベネを横に、スカイルは納得する。確かに、トーリスならどこからか暴れ馬の情報を手に入れるかもしれない。しかし、何故彼女はそこまでして王都からかなり遠い、ラルシャンリ家の屋敷まで来たのだろうか。


 「そんな突拍子もない依頼、よく引き受けたっすね」


 「提示された報酬に目が眩んだおばばが、勝手に。でも、トーリスさんからイツキのことも聞いたので……」


 その言葉に、水色の獣人の耳が微かに揺れた。


 「そっすか」


 何てことのない相槌を打ちつつ、スカイルはベネに見えないところで目を険しくさせる。

 トーリスは、なにを、どこまで知っている。

 やがて目的のドアが見え、先行したスカイルがノックをすると中からリクエラが出てきた。


 「悪いが、客だ。少しばかり席を空けてくれ」


 「分かった」


 年が近いこともあり、スカイルとルイーゼはリクエラやルコレ達とは執事長の見えないところで口調が砕けがちになる。短いやり取りを交わすと、部屋から出てきた彼女はベネに一礼して立ち去って行った。


 「どうぞ、中に」


 「し、失礼します」


 ドアを押さえて促すスカイルに、若干緊張した面持ちのベネは意を決したように部屋の中へ足を踏み入れる。

 後に続いたスカイルは強張った彼の背中から、動揺を感じ取った。


 「よかったら、使ってくださいっす」


 ベッドの横にある椅子を勧めると掠れた声で返事をし、ベネがゆっくりと腰掛ける。

 足の上でぎゅっと強く拳を握り、少年は何も言わずにベッドの上を見つめた。


 横になり、昏睡する黒髪の少年。屋敷の者や少女達が整えているのか身なりは綺麗で、身体は清潔に保たれている。しかし肉の削げた腕や首は枯れ木を彷彿とさせ、頬がこけて唇がひび割れた顔は、どことなく老いた印象を与えさせた。


 「……イツキは、どのくらい悪いんですか」


 しばらくして発せられた問いに、スカイルは正直に答える。


 「分かんねえっすが、奇跡的に明日起きるかもしれないし、急にもっと悪くなることも、ずっとこのままって可能性もあるそうっす」


 「そうですか……」


 静かに唇を噛むベネはリクエラのように感情的にも、アレスティアのように気丈に振る舞うこともしない。ごくごく平凡に育ってきたのだろう少年は、感情の表し方が分からずひたすら自分を押さえ込もうとした。

 そっと横たわる少年に伸ばされた手は行き場なく彷徨い、やがて肩に落ち着く。


 触れた指先がビクッと跳ね、再度ゆっくりと壊れ物を扱うかのようにイツキの肩を包み込んだ。

 何度か意識のないイツキを起き上がらせたスカイルには、その気持ちがよく分かった。皮と骨ばかりになった身体はうっかり力を込めたら呆気なく折れてしまいそうで、手を出すのが怖いと感じてしまうのだ。


 「イツキ、僕……ベネだよ。早く元気になって、また話そう。起きた時に読めるように、今度手紙も送っとくよ。いつでも、会いにくるからさ」


 たどたどしく話しかけ、ベネはすぐにイツキの肩から手を離す。立ち上がる少年に「もういいんすか?」と声をかけたスカイルに頷き、二人は部屋から出た。


 「またね、イツキ」


 声をかけ、振り返って退室したベネにスカイルが続く。「ありがとうございました」と頭を下げるベネに「いえ。談話室にご案内するっすね」と少年が時間をつぶせる場所に案内しようとすると、背後からぱたぱたと軽い足音が聞こえてきた。


 「スカイルー、もう終わったー?」


 「中に入ってもー、いいですかー?」


 「おー、いいぞ」


 それぞれ片手に森で摘んできたであろう草花を握りながら、ルコレとコレルが駆け寄ってくる。瓜二つな顔をした双子にスカイルが頷くと、彼女達はいそいそと部屋の中に入っていった。


 「そっか、花とか何か持ってくればよかったですね」


 「いや、全然大丈夫っすよ。イツキもそういうの気にするような人じゃないですから」


 「確かに、彼はそうですよね」


 見舞いの品を気にするベネにスカイルがイツキを引き合いに出すと、彼は納得したように軽く笑う。

 談話室に向かう二人は例えようのない気持ちを抱えたまま歩き出す。


 不器用な少年達は、まだ素直に感情を吐き出すことができなかった。







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