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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
最終章 回想列車の夜
114/120

114、着物の少女






 座席に散らばっていた花びらを払い落とし、少年と向かい合うように腰を下ろす。

 彼は一枚の花弁を唇に当て、草笛の要領でピィッという甲高い音を立てて遊んでいた。


 「たくさん話せたか?」


 不意に少年に話しかけられ、俺は外に向けていた視線を戻す。


 「あれは、本当に……」


 俺の家族なのか、と聞きかけて俺は口を閉ざした。窓の外に花びらを捨てていた少年が、横目で俺のことを見つめる。


 「……そうだな。大事なことを、教えてもらったよ」


 「そうか。それはよかったな」


 彼は微笑み、窓の方に向けていた身体を直す。そして、上着のポケットから一枚の地図を取り出すと、腕を伸ばしてそれを広げた。


 「えっと、次は黄金の記憶駅だな」


 「この列車、どこまで行くんだ?」


 少年の瞳が動き、目的の駅を見つけ出す。地図が余りにも大きく、思わず俺は訊ねていた。


 「さあな。終わりも始まりも、誰も知らない。どこまでも真っ直ぐに走っているのかもしれないし、同じところをぐるぐる回っているのかもしれない。回想列車っていうのはそういうもんだ」


 肩を竦め、少年は謎めいたことを言う。先程からまともな回答が得られなかったことを思い出して、諦めて俺は窓の外を見た。

 いつの間にか舞っていた桜の花びらがなくなり、外は日が暮れたように暗くなっている。その闇の中に、何かがきらきらと光っているのが見えて、俺は目を凝らした。


 金色に輝く小さな光が、パチッと爆ぜては消えていく。じっと見つめている内にふと俺は、それが火の粉だということに気が付いた。

 その時列車が減速し、少年が立ち上がった。


 「さあ、イツキ降りるよ」


 「分かった」


 彼に手招きをされ、立ち上がる。いつの間にか、足元に散らばっていたはずの花びらは全て消えていた。

 先に少年が列車から降り、振り返って俺を待つ。先程のことがあるので、おっかなびっくり地面に足をつけると、やはりぐにゃりと視界が湾曲した。


 ひやりと頬を撫でた冷気に、俺はハッと目を開けた。

 辺りを見渡すと、見覚えのある建物が目に入る。しかし、それは俺の記憶と多少の食い違いがあった。

 まだ修理が始まっていないはずの氷結塔は崩れていないし、更に言ってしまえば凍ってもいない。そして、塔の周囲は森に囲まれていたはずだが、確かに木々は見られるもの到底森とは呼べないほどスカスカしている。


 その時、木々の間から歩いてくる人影があった。

 白い髪に、グレーの瞳。真っ白な上着と耳飾りの白い鈴がやけに目立つ少年。彼は列車の少年だった。

 少年は、視界に入っていたはずの俺のことをスルーし、氷結塔に向かって歩いていく。


 「ちょ、おい、無視すんなよ!」


 少年を追いかけ、彼の肩を掴もうと手を伸ばす。しかし、その手は少年の身体をすり抜けてしまった。


 「え? なんだよ、これ」


 息を呑み、少年の前に回り込む。それでも彼は気付かず、塔の中に入っていく。


 「もしかして、俺が見えていないのか……?」


 ふと自分の存在が認識されていないのではないかと思い当たり、慌てて少年の後を追った。

 中に入ると、彼は怪訝そうな顔をして上を見上げている。瞬間、耳に微かな泣き声が聞こえ、俺はハッと目を見開いた。


 少年は意を決したように階段に足をかけ、登っていく。その後ろをついていきながら、徐々に大きくなっていく泣き声に耳を澄ませる。

 やがて、二階に辿り着いた俺達は、そこに座り込む一人の少女を見つけた。


 響いた足音に、彼女はビクッと肩を跳ねさせて振り返る。

 癖のない艶やかな淡い金髪はとても長く、毛先が床に着いてしまっている。吸い込まれそうな澄み切った金色の瞳は涙に潤み、真っ白な頬に幾つもの涙の跡を残していた。

 その顔に見覚えがあり、俺は思わず呟く。


 「……メリア?」


 その少女は、赤い着物に身を包むメリアだった。


 「あの」


 少年が彼女に声をかけ、近付こうとする。すると彼女は後退り、顔を強張らせた。


 「来ないで! 今すぐここから立ち去りなさい‼」


 メリアに指図された少年はムッとしたような顔をし、更に足を進めていく。


 「――っ! それ以上近付くなら、容赦しませんわよ!」


 彼を睨みつけ、メリアが伸ばした手の先に熱気が集っていく。金色の炎の塊が生成されるのを見て、少年は怯むどころかズカズカと歩み寄り、突然メリアの手を掴んだ。


 「なっ!」


 彼の手から波紋が広がり、メリアの炎が掻き消える。言葉を失う彼女の前に屈みこむと、少年はにっと笑みを見せた。


 「涙、止まったな」


 「え?」


 確かに、彼女の涙は驚きに引っ込んでしまったのか、止まっている。きょとんをした顔をするメリアの手を離して少年は立ち上がると、あっさりと背中を向けて階段の方へ向かってしまった。


 「え、あの」


 「邪魔したな」


 そう言うと、彼はさっさと階段を降りて行ってしまう。後には、唖然とした顔をするメリアと俺が残された。







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