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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
最終章 回想列車の夜
113/120

113、焦燥






 「イツキさん……?」


 椅子に腰掛け、ぼうっと窓の外を眺めていたコレルは、イツキの閉じた目から涙が伝ったのを見て慌ててハンカチを取り出した。


 「どうして、泣いているんですか」


 一筋だけ流れた涙を綺麗に拭い、彼女は顔を歪める。


 「泣くくらい悲しい夢なら、早く起きて下さい。皆が、イツキさんを待っているんですよ」


 コレルの願う声に、答える声はない。



========================================



 「お願いします! イツキに血を分けて下さい‼」


 「ならぬ」


 ライナードにしつこく付き纏うリクエラは、何度も彼に頭を下げていた。


 「ワタクシからもお願いしますわ。どうか、イツキ様をお助けください!」


 「しつこいと言っておるじゃろう」


 リクエラと共にライナードを囲むアレスティアの言葉に、彼は溜息をつく。今はリオンにライナードが付き添っており、代わりに東の果てにはエレヴィオーラが残っていた。

 三人の様子を遠巻きにルコレとルイーゼが見守り、何かが起こっても対処できるように目を光らせる。


 「何度も言わせるな。今、一期には璃穏とエレヴィオーラの血が入っておる。そこにわしの血が入れば、何が起こるのか誰にも予想がつかないのだぞ」


 「それでも、このまま意識がないよりはマシです!」


 必死に言い募る彼女達に、ライナードは再び溜息をつくとようやくまともに二人と向き合った。



 「いいことを教えてやろう。今の一期はもしかしたら、自力で目覚めるという可能性がある。しかし、わしの血を注げば確かに回復はするかもしれないが、そのまま血に耐え切れずに死んでしまう可能性もあるのじゃ」


 「そんな……!」


 彼の言葉にアレスティアが口元を押さえ、リクエラは絶句する。希望が断たれた二人は、目の前が真っ暗になったような錯覚に囚われた。


 「……それじゃあ、どうすればいいんですか」


 リクエラが呟き、恐れ知らずにもライナードの胸倉を掴む。彼女の驚きの行動に慌ててルコレ達が仲裁に入ろうとした瞬間、ライナードが片手を上げ彼らを止めた。


 「このままイツキの意識が戻らなくて、何年も年十年も戻らなくて! そのまま死んでしまったらどうするんですか! そのくらいだったら、貴方の血を入れた方が、まだ救いがあるじゃないですか‼」


 「馬鹿者」


 激昂し、魔法の制御を失って虹色の瞳になるリクエラが叫ぶと、彼は一言静かに諫める。その声に、彼女はハッと我に返った。


 「その救いはお前達の救いじゃろう。お前が楽になりたいがために、一期の命を危険に晒すというのか」


 「あ……」


 ゆっくりと諭すライナードの言葉に、リクエラは今までの自分が冷静さを欠いていたことに気付く。血の気が引く彼女の瞳が薄茶色に戻るのを見て、彼はそっとリクエラの手を外した。


 「頭を冷やせ」


 そう言い置き、ライナードはドアを開ける。その時、「うきゃっ!」という小さな悲鳴と共に鈍い音が響き、その場の全員の視線が集まった。

 丁度廊下からドアを開けようとしていたコレルがぶつけた額を押さえ、涙目になっている。「すまないな」とライナードが謝ると、「いえ、大丈夫ですー」と言い彼女は部屋の中に入ってきた。


 それと入れ替わるようにライナードが廊下に出て、ドアが閉められる。


 「コレル、どうかした? イツキに何かあった?」


 相変わらずの無表情で訊ねるルイーゼの言葉に、バッと皆の視線がコレルに集まった。


 「ううん、そうじゃないのー。ただ、さっきイツキさんが目は覚ましてないんだけどー、少し泣いてたのー。今までにない変化だから、一応皆に知らせておこうと思ってー」


 「イツキ様が泣いていた? それは本当ですの?」


 アレスティアの問いにコレルが頷く。それを見て、アレスティアは顔を輝かせた。


 「リクエラ様、これはいい変化かもしれませんわ! ……リクエラ様? どうしましたの?」


 振り返った彼女は、俯くリクエラの様子を怪訝に思い、そっと訊ねる。


 「……私、とても酷いことを言いました。自分が早く楽になりたいがために、イツキの命を蔑ろにするようなことを言って。こんなの、イツキの友人でもなんでもない……っ!」


 「リクエラ様……」


 影になったリクエラの顔から涙の雫が落ちるのを見て、アレスティアはそっと彼女の肩を抱き寄せる。高貴な身分のアレスティアにそのようなことをされて、リクエラはビクッと驚きに肩を跳ねさせた。

 二人の背後でルイーゼが双子に「ボク、イツキの様子見てくる」と伝え、音も立てずに部屋から出ていく。


 アレスティアには、リクエラの気持ちが痛いほど分かった。床に臥せった母が、どんどんと憔悴していく姿に胸を痛めていた幼い頃の自分と今のリクエラが重なり、背伸びをしてリクエラを抱き締める。アレスティアよりも彼女の方が背が高いので、そうしないと手が届かないのだ。


 「リクエラ様、大丈夫ですわ。先程のワタクシ達はイツキ様を想うばかりに、少々焦っていたのです。ワタクシ達は、イツキ様を信じて待ちましょう」


 「はい……」


 項垂れるリクエラの頭を抱え込み、アレスティアは「もう」と頬を膨らませた。


 「リクエラ様を泣かせるなんて、許しませんわよ。イツキ様」







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