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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
最終章 回想列車の夜
103/120

103、再会






 地面に崩れ落ちた少年の姿に、ルイーゼは目を見開いた。


 「一期君‼」


 リオンが駆け出し、コレルが悲鳴を上げる。

 イツキの元へ走る二人の後ろから、スカイルが疾走する。彼の手にはいつの間にか大鎌が握られていた。


 「てめぇっ! 何やってんだ⁉」


 彼の怒号が響き渡り、メリアに飛び掛かりながら大鎌を振り下ろす。その刃は容易く彼女の剣によって跳ね返され、スカイルの身体が宙に舞った。


 「スカイル!」


 地面に墜落したスカイルの身体の下の大地に、亀裂が走る。彼は咳き込みながら立ち上がり、玄関の方を振り返った。


 「おい! 緊急事態だ、応援を頼む‼」


 「わ、分かった!」


 メリアの異常にたじろいでいた警備の兵士達が、スカイルの声に弾かれたように屋敷の中へ駆けていく。


 「ルイーゼ! 出し惜しみするな、全力でかかれ!」


 「了解」


 相棒の言葉に頷き、彼女は鎖鎌を構えた。同時に、再びスカイルが突撃する。

 メリアはステップを踏むような足取りで後退すると、襲い掛かってきた大鎌と鎖鎌を舞うように切り払う。最初は弄ぶように、徐々に苛烈さを極める剣舞にスカイル達は追いつけず、やがて重い一撃にスカイルと鎖鎌が吹っ飛ばされた。


 「く……っ!」


 武器を奪われ、顔を歪めたルイーゼはイツキ達の方に視線を飛ばす。

 リオンとエレヴィオーラの手によって懸命に治療を施される中、コレルが必死にイツキの名を叫ぶ。せめて、メリアをもっと彼らから離さなくては。

 その瞬間、疾風の如く突っ走る人影があった。小さな背中、翻る臙脂色のポンチョ。


 「ルコレ⁉ ダメ!」


 ルイーゼの静止の声を振り切り、無策で突っ込んでいったルコレが両手に短剣を構える。


 「絶壁‼」


 彼を補助するようにミュンツェの魔力が迸り、メリアの逃げ道を塞ぐように三辺から壁が出現する。

 瞬間、メリアの周りを金色の炎が取り巻き、瞬く間に壁を燃やし尽くす。


 「この……っ!」


 とてつもない魔力に近付くことが出来ず、苦し紛れに投擲した二振りの短剣は彼女の左手によって雑に払われた。


 「お嬢さん! なぜこんなことをするんだ⁉」


 ミュンツェの呼び掛けにも応じず、メリアはイツキに血に塗れた剣を構え直す。


 「……サラ!」


 「分かったわ‼」


 刹那、聞き覚えのない声と共に空から一本の炎の槍が降り注いだ。

 メリアがそれを金色の炎で飲み込むと同時に、ルイーゼの目の前に二人の人影が舞い降りる。


 金色味がかった赤毛の、褐色の肌の青年。どこか異国風の衣装を身に纏った青年は、手に燃え盛る炎の槍を持っている。

 もう一人は、白い上着を羽織った金髪の少女。半分閉ざされた瞼は目を伏せているようにも、半分眠っているようにも見える。


 「サラ!」


 「レティーさん!」


 彼らの姿を見たルコレとコレルが、歓喜の声を上げる。ルイーゼはその名前に憶えがあった。

 レティーって、確か少女に襲い掛かって行方不明になっていたエルフ……。


 「……サラ、お願い」


 「ええ、事情は分からないけど喧嘩にしては穏やかじゃないものね」


 レティーの言葉にサラが頷き、炎の槍を構える。


 「ディーネ、シル! 援護は頼んだわよ!」


 空を見上げ声をかける彼の視線を追うと、空中に青い髪の女性と薄緑色の髪の少女、それに栗色の髪の少年がふわふわと浮かび上がっていた。


 「分かってるわよ!」


 「了解!」


 ディーネが透明な小型の弓を構え、シルが風の刃を呼び出しながら両手を構える。

 先陣はサラが切った。


 大地を駆けた青年が炎槍を振り回し、メリアを追い立てる。

 そこにディーネの水矢とシルの風刃が降り注ぎ、メリアに防ぐ手立てはないと思われた。

 瞬間、メリアの身体が霞み視認できない程の速度で披露された剣舞が、彼女に放たれた全ての魔法を切り払う。これには流石のサラも目を瞠った。


 「まさか、力を取り戻している……⁉」


 何かを察したように目を見開いたサラさん。そこに生まれた一瞬の隙を、彼女は見逃さなかった。

 突如メリアから膨大な魔力が放たれ、サラはなす術なく吹き飛ばされる。


 その時、今まで俯いていたメリアが顔を上げた。

 感情を失った瞳をゆらりと揺らすと、彼女は唇を歪ませて笑い声を零す。


 「あはははは、あははははは、あははははははっ!」


 天を仰ぎ、喉が裂けんばかりに哄笑を上げる彼女の姿が揺らめき、次の瞬間そこには金色の鱗を持ったドラゴンが顕現した。


 「あれが、ドラゴン、アルストロメリア……」


 ミュンツェの呟きがルイーゼの耳に届き、彼らは言葉を失う。その美しくも恐ろしい姿に、ルイーゼの肌に鳥肌が立った。

 翼を広げてメリアは空に向かって首を伸ばすと、咆哮を上げた。

 その声が呼び起こしたのか、突然地面が激しく揺れ始めその場に立っていられなくなる。


 「まずいわ、ムー!」


 大地に蹲っていたサラが名前を呼び、その声にディーネ達と共にいた少年が地上に舞い降りる。

 ムーが片膝をついて両手を地面に叩きつけると、屋敷の周りだけ僅かに揺れが治まる。しかしその他の場所では地震が続いているようで、森の中で幾つかの木々が倒木していく音が聞こえた。


 刹那、メリアが空中へと飛び上がり、もう一度咆哮を上げると空が引き裂かれ、そこに生じた空間にドラゴンが身を投じる。

 裂け目が閉じた瞬間、大地を震わせていた地震も治まった。

 メリアが姿を消し、ルイーゼ達は束の間呆然と立ち尽くす。


 「イツキさん!」


 しかしコレルの声にハッと我に返り、彼女達はイツキの元へと駆け寄った。







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